表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/75

奴隷と引き換えに売り渡す物(39話)

今回は視点が変わります。

井ノ口さんとロングビル子爵の話です。


井ノ口は、豪奢ごうしゃなベッドに身を横たえていた。

隣にはベアトリスが、井ノ口に体を寄せて休んでいた。


(本当に、これで大丈夫なのだろうか?)


井ノ口は、漠然ばくぜんとした不安を感じていた。


午後の魔法の訓練が終わると、城に迎えの馬車が来ていた。

井ノ口はベアトリスと馬車に乗り、城から少し離れた邸宅に案内された。


ロングビル達が、井ノ口の為に用意した邸宅である。


邸宅は井ノ口が見た事もない程に広く、使用人は五人、うち一人は執事で、井ノ口をうやうやしく出迎えた。


「旦那様、お帰りなさいませ。お食事の支度したくが整っております。」


執事は井ノ口とベアトリスを、大きなテーブルのある部屋へ案内した。

井ノ口が椅子に座ろうとすると、使用人の一人が駆け寄りあわてて椅子を引いた。


食事は豪華で使用人が常に井ノ口に気を配り、井ノ口はついついワインを多めに飲んでしまった。

食後、井ノ口はゆっくりと風呂に入り、ベアトリスを抱いた。


ベアトリストとの余韻と漠然ばくぜんとした不安・・・。

この様な贅沢ぜいたく、この様な厚遇こうぐうを受けるという事は、それ相応の見返りを、ロングビルが期待している事を、井ノ口はわかっていた。


そのロングビルの期待が何なのか?

井ノ口はそれが不安だった。


井ノ口の部屋のドアが、ノックされた。

執事が控えめな声でドアの外から声を掛けて来た。


「旦那様。お休みのところ、まことに申し訳ございません。ロングビル子爵様がお見えでございます。」


井ノ口はベアトリストに着替えを手伝ってもらい、急いでロングビルに面会した。

ロングビルは、入口のホールで屋敷を見回していた。


「おお!井ノ口殿!なかなか良い屋敷ですな!」


井ノ口は恐縮して頭を下げた。


「これはロングビルさん。今回は本当にお世話になりました。ありがとうございます。」


ロングビルは、胸を反らし、頭を下げる井ノ口を見下ろしながら告げた。


「いやいや!これくらいはお安い御用です。私の仲間は多いですからな。井ノ口殿を支援したいと申すものは、他にもおります。万事お任せください。」


頭を上げた井ノ口は、勝ち誇った様なロングビルの顔を見た。

いつの間にか井ノ口の隣にベアトリスが立って、井ノ口に微笑んでいた。


ロングビルは、井ノ口に近づき話し出した。


「実は・・・。井ノ口殿にお願いしたい事がありましてな。」


「何でしょう?」


井ノ口は、どこかへ逃げたい衝動にかられた。

しかし、ベアトリスが腕を絡めて来た事で、それはかなわない事だとさとった。


ロングビルは続けた。


「我らに合力ごうりきして頂きたいのです。」


「と言うと?」


「私の叔父ナバール卿とその仲間に、井ノ口殿も入って頂けないかと。」


「・・・。」


井ノ口は迷った。

その程度の頼みなら聞いても良いのではないかと思う一方で、前の世界での職場の派閥争いを思い出してゲンナリした。


そんな井ノ口を見て、ロングビルはゆっくりと低い声で説得を始めた。


「もちろん、タダではありませんぞ。」


「?」


「ベアトリスを差し上げましょう。」


「!」


井ノ口は、ロングビルを見返してしまった。

しまった!

自分の弱い所、急所をさらしてしまったと井ノ口は思ったが、それを見逃すロングビルではなかった。


「井ノ口殿が、我々ナバール卿一門に身を寄せられ、ある計画にご協力頂ければ、ベアトリスを差し上げましょう。」


「・・・。」


「ベアトリスは、私の奴隷ですが、井ノ口殿はお気に入りのご様子。ならば、我らの友情のあかしに、ベアトリスを進呈しんていいたしましょう。」


井ノ口は、うなだれた。

ロングビルは続けた。


「差し上げたベアトリスをどう扱うかは、井ノ口殿の自由・・・。愛妾あいしょうとして家に置くも良し・・・。」


「妻にする事は出来ますか?」


井ノ口の真剣な目つきに、ロングビルは一瞬たじろいだ。


「も、もちろん、出来ますぞ。ベアトリスを奴隷から解放してやり、妻としてめとれば良いのです。ベアトリスを奴隷から解放するも、しないも、所有者になる井ノ口殿の自由ですからな。」


ロングビルは、井ノ口の意外な反応に驚いた。

奴隷から解放してやり、妻にめとるなど酔狂すいきょうな事だと思った。


井ノ口の立場なら、貴族の娘や豪商の娘をめとる事が出来る。

その事を井ノ口に教えてやろうかとも思った。


だが、ロングビルは教えるのを止めた。

井ノ口が、ベアトリスをそこまで気に入っているのなら、ベアトリスを利用する方が確実に井ノ口を取り込めると判断した。


一方で井ノ口は真剣だった。

井ノ口はベアトリスを好きになってしまっていた。


ベアトリスが手に入るのなら、派閥に属するくらいは構わないと思った。

しかし、ロングビルの言う計画は気になった。


井ノ口は、ロングビルに決意を込めて告げた。


「私がナバール卿の派閥に入れば良いのですね?わかりました、ナバール卿のお世話になりましょう。」


「おお!そうですか!これは素晴らしい!叔父もさぞ喜ぶ事でしょう!」


「しかし、計画とは何ですか?人を殺す様な計画は、お手伝いいたしかねます。」


「いやいや!その様な恐ろしい物ではありませんぞ!騎士の叙任式がありますな?それまでに・・・。」


ロングビルは声を潜めて、井ノ口に計画を話し出した。


ベアトリスは井ノ口の横で微笑み続けていた。

新規ブックマークありがとうございました★

3章の構成に悩んでいましたが、整理が付きました。

順次執筆、公開して参ります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★☆★ランキング参加中です!★☆★

クリック応援よろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ