(五)-3
牛木町は異常の真っ只中にあった。救急車やパトカーのサイレンが鳴りやまない道路の脇には、店や田んぼ、電柱に突っ込んだ車がいくつも停まっていて、道端にもたくさんの人が寝転んでいる。そんな人たちを俺と同じように町の外から来たと思われる人たちが介抱していて、それを横目に太郎の家へ向かった。
太郎の家はゴールデンウイークに一度遊びに行った事があるけど、その時は何も考えずに太郎についてっただけだからハッキリとした道順が思い出せない。けど全く見たこともない景色ばかりでもないから、微かに残る記憶と勘を頼りに自転車を走らせる。
このコンビニ知ってる。食いもんが無いからって太郎と一緒に菓子を買いに来たコンビニだ。太郎の家は近い。心臓がバクバクと音を立てた。確かに自転車を飛ばしてきたのもあるだろうけど、もっと気持ちの悪い、不安を煽る嫌な鼓動だった。
コンビニ裏の住宅地の適当な小道に入ると記憶と確信が重なった。間違いない。太郎の家の前の道だ! 急いで自転車を漕いで八件目の家、二階建ての一軒家の前で停まる。表札には『山田』
自転車を降りて玄関脇のチャイムを鳴らした。何度押しても返事が無いからダメもとでドアノブをひねると簡単に回った。押し開いて中に入る。
「すいませーん!」
沈黙。
「すいませーん!」
さらに声を張るが、耳に聞こえるのは遠くのサイレンと家の中からの小さなテレビの音だけ。
「失礼します」
誰ともなしに声をかけて家に上がり、テレビの音がする方へ向かった。最悪の予想を頭に浮かべてリビングに入ると、そこにあったのは予想通りの光景だ。
「太郎!」
リビングのテーブルに伏している太郎に近づいて体を起こす、目を閉じた太郎はまるで人形のように俺のなすがままになった。体は温かいが生気が無い。魂が無い。恐ろしさに体がぶるぶると震えた。
「おい。しっかりしろよ」
何度呼びかけようが太郎は無言だ。きっと俺の声は届いていない。だってこれは太郎の抜け殻。俺はただ単に肉の塊に話しかけているにすぎないんだから……。




