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絶望的魔人奇譚  作者: 星六
10/24

(四)-3

 自転車で西赤岡に入った。荷台には鼻歌交じりに髪の毛を風に揺らすミズル。おかしくないか? ヴァゴスを探してるのはミズルで、俺は無理矢理つれられてるのに、どうして俺がこいつの足にならなきゃなんないわけ? と正論を述べた所で悪魔の心に届くはずもない。


「ヴァゴスって魂を吸い取るんだろ?」


「そうだが」


「だったらどうやって捕まえるんだよ? お前も魂を吸われちまうじゃん」


「ヴァゴス、種族としてはビヒモスと言うのだが、ビヒモスは元々、太古の時代にこちらの世界を滅ぼすのを目的に作られた魔獣でな、吸いとる魂もこちらの生き物に限られているんだ。だから私の魂は吸えんのよ」


 とんでもないもんを作んじゃねーよ。ん?


「だったら俺はやばいんじゃねーの?」


「近づいた瞬間にシュッと魂を取られてコロンとその場に転がるだろうな。あはははははははは」


「笑い事じゃねぇっ!」


 自転車のブレーキを全力で握りしめると、後ろのミズルが俺に体を押し当ててくる。


「冗談だ、冗談。お前の場合はなんとかなるだろうよ」


「なんでだよ? どうしてそう言える?」


「忘れたか? 昨夜の出来事を」


 昨夜? 何かあったっけ? なんだか色んな事があり過ぎて逆にわかんねー。


「やれやれ。貴様は私のこの指をしゃぶり尽くしたろう。その時に舌をねっとりとまとわりつかせて私の体液をじっとりと舐めとっただろうが」


「表現が卑猥すぎる!」


「ほんの少しとは言えお前の体には大悪魔である私の血が入っているのだからヴァゴスの力は及ぶまい」


「本当だろうな?」


「信じろ。私は大悪魔だぞ」


「悪魔だから心配なんだよ」


 それでも俺はまたペダルをこぎ始めた。ミズルのあまりにも淡々とした態度に心配するのがアホらしくなったからだ。それにヴァゴスがどんな生き物なのかは知らないけど、たぶんこいつなら涼しい顔で処理しちまうんだろう。そんな気がした。


 自転車をこぎながら辺りにも目を配る。ミズルに見せてもらった下手くそな絵を思い出してヴァゴスを探すが、土曜日ののどかな昼下がりの光景が広がっているだけだった。そして何の手がかりも得られないまま夕方になり、午後から空を覆いだした灰色の雲がポツポツと泣きだして、今日の捜索を打ち切ることにした。元々暗くなってまで探す気なんて俺には無かったけどさ。




 家に帰ると、ヴァゴスの事なんて忘れちまったんじゃないかと疑われるミズルが「たこ焼き、たこ焼き」うるせぇから、たこ焼き機を引っ張り出して、小麦粉ボールをたっぷりと作ってやった。これがミズルにはかなりの好評で相変わらずの興奮を見せ、その様子に悪い気もしないで俺も食ってみたけどなかなかうまかった。そうして食後のヨーグルトで悪魔と一緒にまったりとした時間を過ごしていると飛び込んできたニュース。どうやら今日もまた意識喪失事件の被害者が出たらしい。しかも今日は今までになく二十人近くの人間が一変に被害に遭った。その被害者の何人かは午前中に寄った公園で被害に遭っていて、高宮先生の身が案じられたけど、被害者の中に二十代後半の数字が見つけられなかったからとりあえず安心した。


「今日も月が出そうにないけど、魔力の回復ってやっぱ無理なのか?」


「無理だな」


 そこで地デジのデータ放送で週間天気予報をチェックする。


「火曜日までずっと雨か曇りじゃん。もう梅雨だもんなぁ」


「それはつまり?」


「それまで月は出にくいってこと」


「そうか。その頃にはもうサーチ魔法を使わずともヴァゴスは簡単に目視できるようになっておるだろうな」


「もしヴァゴスが人間に退治されたらお前は怒ったりする?」


「ヴァゴスが人間にだと?」


「お前の絵によると、ヴァゴスは六本足で目が三つなんだろ? そんなのこの世界じゃ異形すぎるからさ、俺たちが見つける前に人間に見つかったら処分されちゃうかもしれないじゃん」


「それは無理だろう。ヴァゴスへ危害を加える前に魂を吸われるのがオチだ」


「人間だってバカじゃないんだぜ。それが脅威だと判断すれば分析や研究を進める。離れた所から攻撃する手段だってライフルやミサイルみたいに色々とあるんだしさ」


「それでもヴァゴスを殺すことなど出来んだろうよ。人間がヴァゴスの脅威に気付いた頃にはヴァゴスの力は手に負えん物になっておるはずだろうからな」


 大悪魔が言うからにはとてつもなくとんでもない化け物になるんだろう。思わず息をのんだ。


「だったら早く探さなきゃじゃん」


「よく言った。では明日も私の足として精を出せよ」


「明日も?」


「当たり前だろう。私は誰かのおかげで貴重な魔力を使い果たしたんだから」


 こいつ、何かあればそれを言いやがって。だいたい見た目が人間だっつーのがいけないんだ。悪魔らしい格好で現れてりゃ俺だってこいつの変な力を見なくても悪魔だって信じられていたかも知れないのに。


「何をぶつぶつ言っている?」


「え? い、いや別に」


「だったらおかわり。この甘酸っぱいドロドロをもっと持ってこい」


 ミズルはフニャフニャな顔を見せてスプーンを舐めている。貴族のくせにはしたない奴だ。とは口にも出せず、俺はミズルに従うのだった。





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