四章(6)
右手に持ったサブマシンガンの引き金を引く。ダラララッという無感動で暴力的な音が響いた。相手(プレイシスっていったっけ?)は、見事な体重移動でエイのような飛行体を自在に操り、軽々と避けていく。厄介なことに、足の細かい動きを邪魔しないようにしつつ、絶対に落ちないように足を固定しているみたいで、ひっくり返っても全然問題ないらしい。
……まあ、一生懸命避けてもらってっけど、実はこの銃弾、実弾じゃなくて電撃弾なんだよな。両手のサブマシンガンも、腰につけた二つの拳銃も全部。スタンガンのようなもので、当てると電流が相手の体に流れて相手を麻痺させ、一時的に動きを止めることが出来る。
牧ノ宮先輩がオレに実弾を使わせたくなかったっていうのもあるだろうけど、何よりオレ自身が実弾を使いたくなかった。だって当たりどころが悪かったら死ぬんだぞ? オレが殺したことになるんだぞ? んなもん嫌に決まってんだろ!
三本のビームを空中一回転で避ける。けっこうギリギリだった。
「ヘタな鉄砲も数撃てば当たるとでも思ったか?」
「うるせえ!」
くっそ。悔しいけど、あいつの言う通りだ。オレがあいつの攻撃を避けるのが手一杯なのに対して、あいつはオレの攻撃をあっさりと避けやがる。けど、オレとあいつの機動力自体はそんなに変わらないはずだ。違うのは、攻撃の速度と、経験で培われてきた戦場のカンってやつが有るか無いかだろう。
「前に比べれば何か考えているようだが、その程度じゃ俺は止められねえよ」
そう言ってプレイシスは、オレを無視してどこかへ行こうとした。
「っ、はあ⁉ ふざけんなよ、てめえ! いくらなんでもそれはねえだろうがっ‼」
オレはポケットから粘着式の爆弾を取り出して、プレイシスの乗る飛行体に向かって投げつけた。さすがに飛行体は、電撃銃なんかでは壊せないから、手投げの爆弾も何個か用意していた。
そして一条の光。お前の攻撃なんて読めてんだよ、とでも言いたげな顔で振り向いたプレイシスの右手から、ビームが発射された。
「「⁉」」
オレの目も、あいつの目も、驚きに見開かれた。オレの目は、まさかのビーム攻撃が来たことに対して。あいつの目は、オレが攻撃を避けたことに対して。
オレがこの攻撃を避けれたのは、まさに奇跡と言っていいと思う。なにせオレは、こんな攻撃なんてまったく予想していなかったからな。オレはただ、爆弾で壊れた飛行体がバランスを失ってよろけた時に、あいつの背中に電撃弾をお見舞いしてやろうと思って、あいつの上空へ飛んでいただけだからな。
ビームはオレの体の下を通って爆弾を綺麗に焼き尽くしたあと、そのまま飛んでいって道路を破壊した。
「くっ!」
それを思わず見送っていたオレは出遅れた。プレイシスは自身の動揺を押さえつけ、今度はきっちりオレに照準を合わせてビームを撃ってきた。前見た時は手の平の穴一個だけだったのに、今日は三つも空いてるから数は増えるは、連射はできるはで、オレにとってはめんどくさいこと甚だしい。
そのとき、向こうの方でビルが倒れていくのが見えた。耳に『ちくしょーーっ‼』と叫ぶ奉助の声も届く。
「奉助⁉」
驚いて、とっさに反転しかけたオレの目の前を、一本の光が横切った。
「どわっ⁉」
「他人を心配する余裕があるのか?」
「……ちっ! うるせえよ!」
弾倉を新しいものに換え、引き金を引く。
一瞬動揺しちまったけど、よくよく考えればあの奉助だぞ。無事に決まってる。ああ、そうだとも。
プレイシスは急降下して弾道から外れると、上へ向けてビームを撃ってきた。オレはそれをかろうじて右へ左へ避けて、家の陰に隠れた。
(さーてと。どうするか……)
腕を組んで策をひねり出そうとしたとき、背後にあった家が爆発した。
「うおおっ⁉」
幸いビームはオレに直撃しなかったけど、オレは爆風に煽られて、危うく道を挟んで向かいにあった別の家に突っ込むところだった。どうにか翼をフルに羽ばたかせ、屋根へしがみつく。
「ふぅ〜」
一息つこうとしたまさにそのとき、オレに手の平を向けているプレイシスが見えた。
「げっ⁉」
すぐさまそこから飛び退きつつ、両手のサブマシンガンをぶっ放した。
そしてちょっと高めのビルの裏へ回り、銃口だけ出して応戦する。そこでようやく、奉助に対して呼びかけることができた。
「おい! 奉助! 大丈夫か⁉」
『いてて……。大……夫……。ザッ……る……きて……ゲホッ、ゲホッ!』
「おい?」
『平気だって……。うぇ、口ん中ジャリジャリする……』
元気そうなので、ほっと胸を撫で下ろす。それどころか、桐生に状況を尋ねられると、
『いやー。ビルが道路を挟んで向かい側の建物と一緒に倒れただけ。なあ、これって道路が直るまで何ヶ月ぐらいかかると思う?』
……まったくこいつはどこまでアホなんだ!
「そんなのんきなこと言ってる場合か! ……っとお!」
上から崩壊したビルの破片が落ちてくる。オレはビルの陰から飛び出し、障害物のないところでプレイシスと撃ち合った。
「マジでしつけえ!」
独り言と言えばそうだったんだけど、意外にも答えは返ってきた。
「言っておくが、俺たちだって好んでお前たちに攻撃しているわけじゃないからな。お前たちが俺たちの邪魔をするから、仕方なく相手をしてるんだ。お前たちが邪魔をしなければ、俺たちだって無闇に傷つけたりしない」
「はあ? なら一応訊くけどよ、お前たちの目的はなんなんだ?」
「教えてやる義理はない」
なんなんだよ、その偉そうな態度は! 何様のつもりだ?
「はっ。お前たちの目的が、オレたちの予想していたものでなく、かつオレたちに害のないものだったら、無駄に戦う必要ないだろうが。オレたちはこれ以上町を壊さなくてすむし、お前たちだって時間を無駄にしなくてすむ。一石二鳥ってやつだ」
そう言って攻撃の手を止めたオレを、プレイシスはうろんげに見た。とりあえず、手はオレに向いたままだったけど、ビームは止んだ。今のうちに、こいつを倒す策を考えださねえと……。
「……十五年前に連絡が途切れた部隊長のその後の足取り調査および、コアの回収だ」
何か、何かないか。何か、使えそうなものは……。
意識はプレイシスから離さないように、こっそり目を左右に走らせた。
「お前たちは知らないだろうが、その部隊長が持っていたコアというのは、俺たちにとって非常に大切なものだ」
高低様々なビル群、その間にひっそりとある普通の家や店、看板、街灯、電柱……。ん? そうか、アレだ!
「必ず回収しなくてはならない」
急いで頭の中で策を組み立てつつ、口からはごく素直な感情が零れた。
「……ハハッ」
笑い。プレイシスは、不愉快そうに眉間にしわを寄せた。
「何がおかしい」
「いいや。少し嬉しくてな」
「どういう意味だ?」
「億が一にも、オレたちの予想が外れてたら色々恥ずかしかったり、困ったりするとこだったんだけど、そうじゃなかったからな。……知ってるさ」
「なんだと?」
「知ってるっつったんだよ。お前たちが真さんを……真さんの胸に埋め込まれているコア・コルーンの命とも言うべきコアを狙ってるなんてことはな!」
「なんだと……⁉」
本人が教えてくれたんだから、当たり前。外れるわけがない。
「そうと分かりゃ、迷いも遠慮もねえ。真さんをお前たちの手になんか渡すか! そんな桐生を泣かせるようなマネはしねえ。絶対にここで倒してやる!」
「……そうか。一通りこの世界を巡ってみても、手がかりは見つからなかった。だから、以前計器が反応したこの街へ戻ってきたわけだが、どうやら当たりだったみたいだな。ならば、貴様を捕らえてそのマコトサンとやらの場所を吐かせてやる!」
「やってみやがれ!」
そこからはひたすら追いかけっこだった。お互いのスピードが拮抗しているせいか、追いつ追われつを繰り返す。
路面ギリギリからの急上昇、大通りから一本脇へ逸れて、また大通りへ……。まさに縦横無尽。オレはとにかく、自分からの攻撃よりも移動することに専念した。プレイシスはオレの後ろや横についてビームを撃ってくる。くっそ、弾切れとかねえのかよ!
「いつまでそうやって逃げているつもりだ⁉ そうか、援軍を待っているんだな⁉」
「あるかよ、そんなもん!」
そう叫び返す。けど、こういう時は真実のほうが嘘くさく聞こえるもんだ。プレイシスが「そうかそうか」とでも言いたげに笑った。援軍だのなんだのはあいつの思い込みだけど、そのためになにかアクションを起こされるのは困る。
移動したのは六、七キロ。これだけあれば十分だろ!
ひときわでかい商業スーパーの陰に入ってあいつの視界から外れた時、オレは今まで以上のスピードを出して先回りした。
「なにっ⁉」
横にいると思っていたオレが目の前に現れたからか、プレイシスの動きが一瞬鈍った。
その隙にオレはサブマシンガンを連射して牽制、そのままあいつの隣を通り過ぎて、来た道を戻っていく。
「くっ……。待て!」
プレイシスも追いかけてきた。そうでなくっちゃ困る。
どうやら、さっきのが本当にMAXのスピードだったらしい。オレに追いついてくることはなかった。……ビームはばんっばん飛んできたけどな!
(でも、オレの勝ちだ!)
オレが心の中で歓声を上げた時、仕掛けは作動した。
ドォン!
「なんだ?」
振り返ったプレイシスの目の前で、電柱が倒れていった。それも、次々と津波のようにプレイシスへと迫る。
「爆弾か? でも、誰がいつ……」
そんなもの、決まってんだろーが。
ダカーンッ! バゴォ! 爆発は止まらない。
「チッ!」
プレイシスは追い立てられるように、もと来た道を戻ってきた。
爆発の感覚は約二〜三秒。当たれば無傷ではすまない。いくら戦い慣れているお前でも、左右から折り重なるように倒れてくる電柱に気を配ってたら、オレのことにまで気がまわらねえだろ。そして、斜めに倒れ進路を阻む電柱と、網の目のように広がった電線。自然と、この大通りの上を通るお前のルートは限定される。
「そうだよな‼」
薄い爆煙を突っ切って来たプレイシスの額に、拳銃の電撃弾をぶち込む。
「ビンゴぉ!」
思わずガッツポーズ!
プレイシスはふらふらと落ちていった。
「っしゃあ! さすがのあいつもこれなら気絶ぐらいして……」
うまく出し抜いてやって、浮かれていたオレは、下から放たれた十本のビームを避けられなかった。右足の太ももを貫通したものと、左肩と右の脇腹をかすったもの。どちらも熱い痛みは変わらない。
「あっづぅ…………‼」
とっさに右足を抱え込む。ただ、翼は動いていたから、地に落ちることはなかった。
血が吹きだし、瞬く間にズボンを濡らしていく。頭がぼうっとして、正しい止血方法が思い出せない。とりあえず、適当に包帯を巻き付けておいた。
額を押さえたプレイシスがオレの前にゆっくりと浮いてきた。お互い、荒い息を隠せはしなかった。
「負ける……わけには……! 俺たちは、負けられないんだ……!」
「お前らにも……ハア、色々……あるんだろ。……ハア。……けど、こっちも、負けられねえんだよ……!」
オレはサブマシンガンを、あいつは両手を構えた。お互いの譲れないものをかけて。




