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第11話 「カレーとかいいんじゃないかな?」


 朝霧が急に「一緒に帰らない?」なんて言ってきたから断ろうと思ったけど、断る理由も特になかったので一緒に帰ることになった。

 『一緒に帰る』、しかもその相手が女の子なら嬉しいものだろう。めちゃくちゃ嬉しい!というわけではないが、俺だってその状況はまんざらでもない。

 しかし、この状況を『一緒に帰っている』と言えるだろうか。

 ごく自然な流れで一緒に教室を出て、ごく自然な流れで駐輪場へ行き、ごく自然な流れで自転車に乗って校門を出た。隣り合わせに移動していたわけではなく、ごく自然な流れで俺が前に立って移動している状況が出来上がっていたのだ。おかげで、その間、俺と朝霧の会話は一切なかった。

 本来ならば男である俺の方から話しかけるべきなのだろう。それでも話しかける気にはなれなかった。朝霧に対して特に興味がないからだ。これは彦摩呂や総司にしたってそうだ。話しかけられて流れができたからそれに沿っているだけであって、俺から話しかけることはほとんどない。


 とりあえず、後ろをついてきているであろう朝霧に話しかけることなく帰路を辿っていると、この状況を耐えかねたのか朝霧が俺と並走する形になるように速度を上げてきた。俺はチラッと横を見るだけで視線を前に戻す。


「桜井君ってさ、もしかして私の事嫌い?」


 唐突だった。別にそんなつもりはないのだが……そう見えるだろうか?

 やっぱり一緒に帰っている?のだから話さなきゃおかしいか。


「そんなことねぇよ」


「ほんと~?桜井君、昨日私が声をかけたのに無視したじゃん」


 俺の言葉を信じず、疑うような声と目線を俺に送ってくる朝霧。

 つーか俺、朝霧に声かけられたっけ?……記憶をたどるが思い出せない。一体いつだ?

 俺が必死に思い出そうとしている間にも自転車は進む。もちろんそのかん、俺たちの間に会話はない。しばらく無言の時間が続く。


「すまん、思い出せん」


「もうちょっと早く答えてほしかったよ!もう無視されてるんじゃないかって思って不安で不安で……昨日桜井君が教室を出ようとした時だよ」


 あー、あの時か。うん、思い出せん。


「質問攻めに合ったから今日みたいに一緒に帰ろうって話しかけようと思ったのに、桜井君無視して帰っちゃうんだもん。あの後いろいろと大変だったんだから」


 しったこっちゃねぇよ。つーかあれか。今日みたいにってことは、今日もあいつらから逃げるために俺に話しかけたのか。総司と同じじゃねェか。お前のせいで教室出る時、男子の視線怖かったんだぞ。


「俺が陰キャラだからか」


「ん?なに?」


「……なんでもない」


 ボソッと発した俺の言葉は朝霧には聞こえていなかったらしい。

 俺は自分がそう言うキャラだということを認めている。しかし、こうして朝霧に少し不満を放ったしまった言うことは、やっぱり俺はそれを認めたくないのかもしれないし、陰キャラ扱いされたことを根に持っているのかもしれない。つーか、朝霧はマンションのお隣さんだからって言ってたじゃねぇか。

 もう考えるのはやめよう。俺が惨めだ。


 目の前の信号がちょうど赤に変わり、俺たちは自転車を止めざるを得なくなった。目の前を車が横切るのを眺めながら信号が変わるのを待つ。そこでまたしても朝霧が口を開いた。さっきまでは自転車に乗りながらだったから聞き取りにくかったけど、今度ははっきりと聞こえる。


「ねぇ桜井君。やっぱり、桜井君って私の事嫌い?」


 またかコイツ。そんなことないってさっき言ったじゃねェか。

 俺が視線を左にいる朝霧に移せば、おそらくめんどくさそうな顔をしているであろう俺を朝霧はじっと顔で見つめていた。目があった瞬間に、朝霧は視線を俺から逸らした。その表情から読み取れるのは、不安。

 例えそれほど仲がいいわけでもない相手であっても、誰かに嫌われるというのは誰だって嫌なはずだ。一般的な人間であればそんなのは当たり前の事。『一般的な人間であれば』なんて言ってる俺は一般的でない、みたいに思う人もいるかもしれないけど、俺だって一般的な人間の一人だ。だから、朝霧の今の気持ちは分からなくもない。

 だったら、そんな態度とってんじゃねぇよ。ってことになるんだけど、俺は朝霧のことが嫌いで無視しているわけじゃない。好きじゃないし、特に興味がないから。だから干渉しないだけ。なんだけど……


 今の朝霧みたいに、目の前で暗くなっている人間がいると、それがこの場の雰囲気に影響して気まずくなる。


 だから俺は、この状況を打破することにした。原因は明白。俺が朝霧のことを嫌っている、と勘違いされる言動をしているからだ。だったら、今からは朝霧と楽しそうに会話すればいいだけのこと、なんだが……それだと継続的に相手してやらなきゃいけないから、かなりめんどくさい。今だけ相手して、それでいて相手を納得させる方法。

 実に単純明快。俺の本心を余すことなく打ち明ければいいだけのことだ。

 本音を言えば、俺の気持ちを察してほしいところだが、それは間違っているということを俺は知っている。自分の気持ちを理解してほしいなら、言葉にしなきゃいけない。昨日、凪沙に教えてもらったことだ。と言っても、俺が勝手に解釈したことなんだけど。

 それを思い出すと、なぜか自然に俺の口元に笑みが浮かんだ。隣にいる朝霧はさっきから俺のことを様子をうかがう様にチラチラ見ていたため、俺の表情の変化に気づいて不安から疑問へと表情を変えた。そりゃそうだ。さっきまで不機嫌面だった奴が急に笑みを浮かべたのだから、不思議に思うのは当然だろう。それにしてもコイツ、自分の感情がすぐ表情に出るからわかりやすいな。


「俺はお前のことを嫌ってるわけじゃない」


 …………あれ?この先の言葉が思いつかない。なんて説明すればいいんだろ?……あっれ~?もしかして俺って、本当は何も考えてないヤツてこと?まてまてまて!ウソだろ!?さっきなんか深そうなこと考えてなかった?なのにこのありさま?俺の本心余すことなくって言ったくせに余しまくってるよ。これじゃ相手が納得してくれるわけがないって。


「クスッ、アハハッ」


 突然、隣から笑い声が聞こえた。俯いて必死に続き言葉を考えていた俺は、笑い声の聞こえた方を向く。そこにいたのは当然朝霧であり、なぜ笑っているのかが分からない。


「ハハハハ、ごめんごめん。桜井君、なぜか勝手に百面相始めるから。興味なさそうな顔が不機嫌な顔になって、急に笑って、ハッとして、今度は唸り出して。今だって呆気あっけにとられてるような顔してる」


「……そうかよ」


 笑われたこと自体は腑に落ちないが、暗い雰囲気を打破したのだから、結果オーライだ。


「今度はまた興味なさそうな顔。それが桜井君のデフォルト設定なのかな?あ!信号変わったよ」


 そう言って自転車をこぎ始める朝霧の後を、俺は渋々ついて行った。


「俺スーパーに寄るからこの先で曲がるけど、お前はどうする?」


 一緒に帰っているのだから急に別れるのはダメだろう。だから先にどうするか聞いておかなければならない。帰ってきた返答は「私も一緒に行くよ」。


 なんやかんやで辿りついたスーパー。今日の夕飯の食材を確保するためにここに寄った。

 高校生がスーパーに寄るのは多いわけではないが、珍しいことでもない。でも、その大抵の理由がお菓子やジュース類を買うのが目的であり、俺にみたいに食材を買いに来る者はほとんどいないだろう。そこで出てくる疑問が、コレ。


「桜井君って、自分でご飯作ってるの?」

「うん」

「いつも?」

「うん」

「ご両親は?」

「別居中」


 ここで朝霧がまた暗い顔になった。聞かないほうがよかったのかな?とでも思っているのだろうか。そんなにダークな話ではないのだが……。まぁ質問攻めでうるさいくらいだったから、静かになったし好都合。

 と思ったのだが、朝霧はすぐに元気をとりもどして今日の夕飯の提案をしてきた。といっても、すでに決めていたのですべて却下。

 その後も質問攻めに合いながら買い物を進めた。いや~、コイツ結構面倒な性格してるな。総司とはまた違った面倒さだ。総司の場合は勝手に話を進めるから聞き流しとけばいいからまだマシだが、朝霧は質問ばっかだから答えなきゃならん。


 買い物は質問攻めに合った俺の労力を引き換えに無事終わり、それなりに会話をしながらマンションへと帰ってくることが出来た。

 順路的に俺の部屋を先に通るのだが、そこで朝霧がとある提案をしてきた。


「そうだ秋人君。メアド交換しようよ」


 そういえば、知らん内に「桜井君」から「秋人君」に変わっていた。別にいいけど。

 特に断る理由はないのでメアドの交換を了承した。その際に


「そうそう。苗字じゃなくて名前で呼んでよ。私も秋人君の事名前で呼んでるし」


(許可した覚えはないけどな)


「はいはい、わかりましたよ朝霧さん・・・・


 わざと苗字で呼んでから、俺は扉を開いて中に入った。素早く閉じてから聞こえてくる声はとりあえず無視しといた。


 ……あ、思い出した。昨日教室から出る時もとりあえず無視した声があったけど、あれが朝霧だったのか。


 その後のメールでの追撃もとりあえず無視しといた。




 なんか今回微妙です。・・・え?いつも微妙だって?いわんといてください。今回はいつもよりって意味ですよ。


 なんか執筆活動がはかどらないですよね、最近。

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