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08. 日陰者たち

 

 深夜の聖都市。


 人の気配もない、廃れた小さなコンビニ。

 その奥の一室には、無理やり繋ぎ合わせたモニターと、場違いなソファが雑然と置かれていた。


「だぁーーー! アタッシュケースさえ回収できてりゃ、任務完了だったのに! 報酬が全部パァじゃない!!」


 マキナは盛大にため息をつき、自分の爪に目を落とした。


 派手な色のネイル。けれど、よく見ると先端が少しだけ欠けている。

 彼女はポケットから小さなヤスリを取り出すと、慣れた手つきで傷んだ部分を整え始めた。


「……またサロン行けなくなったじゃん」


「そこ?」


 ハンバーガーを片手に、ビクターが呆れた声を上げる。


「命懸けの任務に失敗して、真っ先に気にするのがそこなのかよ」


「当たり前でしょ」


 マキナは爪から目を離さない。


「この世界、マーセナリーズなんてやってたら、いつ死ぬか分からないんだから」


「……」


「だったら、せめて生きてる間くらい可愛くいたいじゃん」


 一瞬、ビクターの口が止まった。


 けれど、それもほんのわずかな間のことだった。


「邪魔者たち……次に会ったらしばくわ」


 何事もなかったかのように吐き捨てるマキナに、ビクターはハンバーガーをかじりながら肩をすくめた。


「……まぁ、俺らがマーセナリーズの時点で、こっちが任務を横取りしてるんだけどな」


 一瞬、沈黙が落ちた。


 マキナは小さく息を吐くと、ようやく顔を上げる。


「……とにかく。聖都市にいる限り、あの二人には邪魔されるかもね」


 ビクターはテーブルのポテトに手を伸ばし、軽い調子で笑った。


「タカセとグレイだろ? 聖都市の看板コンビじゃねぇか。俺らとは住む世界が違ぇよ。新聞に載る側と、載らない側だ」


「あんた、知らないの?」


 マキナは端末を操作しながら言った。


「昔のグレイなんて、私たちより相当底辺だったわよ。本部に嫌われてたとかで」


 ビクターの目が、わずかに輝いた。


「え、じゃああれか。成り上がり枠? いいじゃん、それ! 俺らの未来モデルじゃん」


「バカ。私たちは、そんな綺麗な理由で動いてないでしょ」


「はいはい」


 ビクターは適当に相槌を打ち、残ったポテトを口に放り込んだ。


 マキナは肩をすくめる。


「依頼が来るまでは、弾も経費で落とさないから」


「マジで言ってんの、それ」


 その時だった。


 マキナのスマートフォンが震え、短い通知音を鳴らした。


「あっ! アタッシュケースの回収を依頼してきた企業よ!」


 その一言で、だらけていた空気がわずかに変わる。


 ビクターはハンバーガーをテーブルに置くと、わざとらしく肩を震わせ、頬に手を当てた。


「アタッシュケースの件の企業? 失敗したって、怒られちゃう?」


「そういうの、可愛くないからやめて」


 マキナは取り合わず、スマートフォンの画面に目を落とした。


 届いた依頼の内容を確認する。


 そして、口元がわずかに緩んだ。


「来た……。新しい依頼よ」


 その声に、ビクターの表情も明るくなる。


「やったじゃねぇか! えーっと、確か企業名は……」


 マキナは画面を見つめたまま、依頼主の名を読み上げた。


「──新技術推進団体・アンバーソン」


 その名が響いた瞬間。


 コンビニの薄暗い一室が、ほんの少しだけ重くなった気がした。



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