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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」11

『彼女の意識がトラウマに向かわないよう、運転中は楽しい会話へと誘導したほうがいい。

それと、高速はETCとカード履歴で追跡可能だから使わないほうが良い』


車に戻る途中、ぼそっとカールがつぶやいた。


―2時間一緒にいる程度だけど、”憤怒”の片鱗も見せない分、ギャップが凄すぎて実感が湧かないだけかもしれない


少しだけ危機意識を強く持つ。


「さて、陽菜ちゃん、ご自宅はどの辺なの?」


「本町です」


「本町?」


「はい」


「……まだ車が慣らし中だし、ほんとは高速乗って早い時間におうちに送りたいんだけど、我慢してもらえるかしら?」


「遥さんとカールとおしゃべりしてたら、きっとあっという間ですよ。

送ってもらう立場ですし、むしろ感謝しかありません」


頭を下げようとしたので


「やめてちょうだい。あなたと会ったのも偶然だし、私も一人でドライブより楽しい。

さっき言った通りなんだから、楽しく帰りましょ」


そう言ってクロストレックに乗り込む。


「じゃあ、のんびりドライブだけど、休憩とかしたくなったら早めに教えてね。

山道もあるからトイレとか困っちゃうし」


「わかりました」


可愛らしい笑顔で答える。


見れば見るほど、この娘が”憤怒”ってなによ!と思ってしまう。


さっき入ってきた駐車場入口を今度は左に曲がり、能代東ICから秋田自動車道に乗る。


名前は高速っぽいのに、ここから大館北ICまで無料で便利だけれど、その代わりに降りそびれると逃げ道が無く、そのまま小坂料金所から東北道へと一直線。


それじゃ高速回避する意味がなくなっちゃうもの。


時間が時間だけにそんなには車が多くはないが、慣らし中の合流加速だけに回転数に目が行ってしまう。


『フルアシストしよう』


そう言ってカールはスムーズに、だけど押し出されるような力強い加速を始めた。


『ガソリンの残量が思ったより少ない。給油が必要なのだが遥の財布に現金は十分あるか?』


そうか、履歴とかで現在地把握されたくない、って言ってたものね。

交通モニターや監視カメラとかは仕方ないだろうけど、そうか、給油か。


「ドライブだけだと思ってたから、残り千円程度しかないわ」


『では、超高効率走行をしよう。全て燃費重視に振り分けるからエアコンも送風のみにするが大丈夫か?』


「暑くはないから、曇らない限りエアコンなしでいいと思うけど?」


『では、オートクルーズを開始する』


そう言ってカールが全ての運転をアシストし始めた。


「凄いですね。カールってまるで車そのものみたい」


助手席で陽菜ちゃんが感嘆の声を上げる。


「そ、そうね。

会話式AIもここまで双方向で話してくれる時代になっちゃったみたい」


「ところで、お金、足りないんですよね。

すみません、私が着替え買っていただいたりご飯代出して頂いたせいで……」


またもしょんぼりしてしまった。


「今日に限って何故かカードが使えなかったのよね。スマホ決済は使わないから仕方ないわー」


あははは、と棒読みで誤魔化す。


「そうなんですね。

私のスマホがあればお支払いできたんですけど」


今のご時世、現金を持たない人も多いから通じるだろう。

彼女は素直に受け取ったみたい。


「まあ、カールが上手に省燃費ドライブをしてくれるっていうから、大丈夫でしょ。

だめなら手持ちで入れられるだけ給油すれば、7,80キロは走れるでしょうし」


「なんか、極限サバイバルみたいですね。

不謹慎ですけど、楽しいです」


コロコロと表情が変わる美少女。

笑顔がまぶしすぎるわ。


アイサイトXの機能もハッキングしたのか、本来ならウインカーを点けないと動作しないはずの車線変更アシスト、ウインカーすら自動で点けて車線を変えていく。


自分がハンドルを握っているのに、まったく意にそわない動きをするのはかなり違和感があるが、今回ばかりは仕方がない。


「一応、居眠り運転と見られたら面倒だから目を開けてステアリングは握っておいてほしい」


そんなリクエストを陽菜ちゃんに聞こえないよう伝えてきた。


―いやいや、ここまでスムーズだと眠くもなるわ。


眠気覚ましのつもりか、会話を遮らない程度のちょうどいいボリュームでアップテンポなジャズが流れてきた。


「そう言えば陽菜ちゃんは18歳、って言ってたわよね。学生さん?」


「短大生です。管理栄養士を目指してます」


「へぇ~、管理栄養士。じゃあそっち方面の仕事に就くつもりかしら?」


「はい、父の会社の社員食堂で働くつもりです」


「……待って」


「はい?」


「父の会社で社食があって、ご自宅は本町で苗字は安潟?」


「そうです」


「……もしかして陽菜ちゃんのお父さんって【安潟組】の社長じゃないわよね?」


「ご存じなんですか?」


―世の中、狭すぎる。


工事中の現場で地中から遺物が出れば、私の職場にも連絡が来る。


そして、安潟組は県内最大手の総合建築業者で、空港から住宅まで幅広く手掛けている。

知らない人はいないが、現場で何度か社長に会ったことはあった。


あのインテリヤクザみたいな迫力の社長に、アイドル顔負けの可愛いお嬢さん?


―世の中、不思議なことっていっぱいありすぎるわ


そんな私を、不思議そうな顔で見ている陽菜ちゃん。


「お会いしたこと、あるわよ」


燃費重視で飛ばすわけではない長い道中。

彼女に説明する時間はたっぷりあるわ。

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