8話 ほら、来ましたわ
各方面に挨拶や今後の予定を告げてアラスティを出る時、背中から見てもわかる不機嫌そうな人物が1名。でも同情できませんわね。
「お爺様、そのお顔のまま門を越えるおつもりですか?」
「うぬぬ・・・・」
祖父はふり返り、少し情けない顔を私に向けた。手をわきわきさせて何かをつかみたそうです。だめです。いまさら取り消せません。先日まで王であった方が一度交わした約束をやぶってはいけません。それも私をだっこできないからだとかなんて。
私たち、つまりカノアリィとエイドリアンの2人が話したのはほんの短い時間でした。それでも彼は安堵と決意をもってお爺様たちのいる部屋に向かいました。
「フェルダー公、父上。お願いしたいことがあります」
エイドリアン少年はアラスティ国の王弟で宰相の自身の父と私のお爺様に私たちの旅の同行を願い出ました。彼はこのまま自国にいてもこれ以上強くなれないと常々痛感していたのです。これには私からもお願いして叶えられました。その際、話をうまく誘導してお爺様が私をだっこしない流れにもっていったのです。エイドリアンにお爺様のかっこいいところを見てもらいたいとアピールしたんですよ。
ただ同行中にエイドリアンは
「この先、私があなたの騎士になることをお許しください」
この世界と『王印』の意味をまだ知らない内に宣言したのです。
それ以降は早かったですねぇ。ほんと
思い返している場所が3年ぶりの自室ですもん。帰るなり侍女達に取り囲まれお風呂に連れて行かれまして。洗われ磨かれ。隅々チェックが入りましたよ。
「御髪のお手入れはしっかりしていただいたようですね」
「お肌もお爪も問題ありませんわ」
「強いて言うなら年齢に合わず細身でいらっしゃいますね。戴冠の儀まで1年。料理長と衣装部に連絡を」
「はい」
いなかった3年の間に新しい人が増えたようです。侍女長が指示したのはまだ少女といった年頃の子だった。アリサ・ハノープという名で14才。あ、ダッシュと同じ年か。アリサは私付きの侍女見習いで学院を卒業後本採用になるそうです。
私はまだ採寸やら衣装合わせやらで自己紹介する間もないので、終ったらゆっくりお話しよう。そうしよう。・・・まだまだ終らなさそうですが。はぁ
コンコン
控えめにノックされ入ってきた侍女の背後から2人の子供達が顔半分のぞいている。今年3才になる私の弟妹。金のふわ髪に淡いブルーの目の男の子はアルカディ。さらさら金髪に鮮やかな緑の目の女の子はセシリア。なんてかわいらしい。そわそわわくわくの表情についつられてしまいました。
「2人ともいらっしゃい。ちょうど休憩するところなの」
3年前の自分がどうであったか。すっかり失念してましたわ。笑顔で2人を招いたら周囲の音が途切れたのです。ん?
「ひ」
ひ?
「ひ」
「ひ」
「ひ」
「ひ」
「ひめさまがおわらいになったーーーーーーー」
私たち3人は顔を見合わせ首をかしげた。同じ角度で揃っていたので遺伝かしら。ともかく私もアルカもセシーも定期的に通信で顔合わせも会話もしていたのでなぞだらけです。2人の『はいはい』もはじめて『ねぇたま』と呼んでくれたのも、ちゃんと確保済みですよ、うふふ。
「2人とも打ち合わせ通り、よろしくね」
「「はーい」」
ねぇ、お爺様。「ほう・れん・そう」していませんわね。私を送ってからエイドリアン君とアラスティに行ったのはそういうことですね。このあと誰が襲撃してくるか手に取るようにわかりますもの。
ばたーーーーーん
「カノーーーーーー」
ほら、来ましたわ。
基本、他大陸の話はすっとばしました。レオングラディ大陸の砂漠でお爺様が巨大な鉱魚を狩る話とか。すでにちがう話ですもん。