第6話
レイが降りてからしばらく経った時だろうか。
動物が動く音がする。動く、と言っても、動くときに踏みしめる落ち葉の擦れる音だったり、梢に当たる音だったりする。レイはそんな音に敏感に反応し、手にしたナイフを構える。
「バウッ!!バウ、バウッ!!」
エルが吠える。普通の動物はこれで怯んだりするのだが、その音は逆にこちらへ向かってくる。1歩1歩、確実に地面を踏んでいる。
(エルより強い動物なの?これはヤバイかも……)
レイは音のする方に向かって軽く睨む。緊張で真一文字に口元を引き結び、冷や汗が頬を伝う。ナイフを持つ右手に力が入る。
エイトかナインを呼ぼうか……?いや、2人は疲れきって寝ているはずだ。エルが吠えても起きないということは、レイが叫んだところで起きるはずもない。
徐々に影が見え始める。……人のようだ。エイトよりもさらに大きい人影がこちらに向かってきている。と言う事は、レイにとってはかなりのサイズ――かなり威圧を感じるほどの――であることは間違いない。
「誰?!どうしてこっちに来るの?!」
レイの精一杯の声に相手は少し止まったが、すぐに歩みを再開した。しかも、先程より早く。何処か楽しげに。
やがてその全貌が明らかになる。すごく、長身の、女性だ。何1つ持っていない……という訳ではないが、水の入ったペットボトルを腰にぶら下げてる程度だ。
「ねぇ、あなた、だぁれ?」
そう言って首を傾げる。言葉からは幼さを感じられる。その女の人は、ゆったりカールした茶色い髪を横括りにして、肩にかけている。ふわふわのピンクのシュシュが実に可愛らしい。レイが返答に困っていると、その人はまた言葉を発する。
「私はね、4番だから、ヨウっていうの。ファイはよっちゃんって言ってるよ?」
「ぼ、ボクはレイだよ、よ、よっちゃん」
「そっか!よろしくね、レイくん!」
「は、はい!よろしくおねがいします!」
レイはヨウの勢いに少々押されながらも慌てて返事をする。相手に敵意がないとわかっていても、高い所から見下されるのは少し怖い。
そんなレイの様子を見て、ヨウは困ったように1輪の花を差し出す。クチナシの花。レイはこわごわ受け取ると、何か意味があるのかと考える。花言葉は……、とてもうれしい、幸福。人と話すのが苦手なレイは、ヨウと仲良くできるかもしれない、と希望を抱いた。
笑顔でありがとう、と言うと、ヨウもにっこりと微笑んだ。
「なんだ……?誰だ?」
やっと目が覚めたのか、エイトが目を擦りながら降りてくる。