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第六十六話「新たな仲間と宴の準備」

 闘技会が終わると、リーゼロッテさんとクラウディウスさんが駆け寄ってきた。二人共俺とガーディアンの戦いぶりを褒めてくれた。今日は魔物と戦うつもりは無かったが、やはり体を動かすと気分が良い。


 それに、キルステン男爵のガーディアンと共に戦えた事が嬉しいのだ。ガーディアンは頭を下げてデーモンイーターを俺に差し出すと、俺は彼から剣を受け取って鞘に仕舞った。


 それからキルステン男爵の元にはガーディアンの研究に出資したいという貴族が押し寄せた。貴族達は男爵様のガーディアンの強さを称賛したが、これも剣鬼がミノタウロスの魔石を提供したからだと言った。確かにその通りだと思う。ガーディアンを動かすには魔石が必要だ。幻獣クラスの魔石が無ければ体長二メートルを超える巨体のガーディアンを動かす事は出来ないだろう。


 キルステン男爵が無事に出資者を得ると、俺はガーディアンと共に彼の研究発表の成功を喜んだ。キルステン男爵はこれから魔獣クラスの魔石でも満足に動く事が出来るガーディアンの製造を始めるらしい。現在のガーディアンの様に大型の物ではなく、更に軽量化し、小型化した種類のガーディアンを作るのだとか。


「ベルンシュタイン殿、私の人生を救ってくれてありがとう。今回の研究発表でガーディアンの問題点も分かった、希少価値の高い幻獣の魔石が無ければ動く事が出来ない大型のガーディアンは、製造に莫大な資金が必要になるから、更に小型化し、魔獣クラスの魔石でも動く事が出来るガーディアンを作る事にするよ。是非私を君の専属の発明家にして欲しい!」

「光栄です。俺は男爵様のガーディアンは最高の発明品だと思っています。既にガーディアンはレベル六十の冒険者をも上回る力を持っています。ただ、戦い方がまだ未熟なので、是非ラサラスで教育をさせて貰えませんか? 将来はキルステン男爵様が作り上げたガーディアンがアドリオンの防衛に携わる事になるでしょう。都市の防衛力を上げるためにも、是非、ラサラスに開発の協力させて下さい」

「ありがとう! 私の研究を理解してくれて! 私のガーディアンをラサラスの一員にしてくれたまえ! その子の名前はクリステル。種族名はミスリルガーゴイル。一般の冒険者だと思って、厳しく教育してくれて構わない。クリステル、今日からお前はラサラスの冒険者になるんだ。わかったね?」

「……」


 クリステルは嬉しそうに微笑むと、俺の体を抱きしめた。心地良い火属性の魔力を感じる。青白く輝くミスリル製のガーディアンは非常に美しく、リーゼロッテさんもクラウディウスさんもクリステルの加入を喜んだ。ギルドマスターの権限でメンバーの加入を許可するのは久しぶりだ。ギルドに戻って仲間にクリステルを紹介しよう。


「クラウスと呼ばせて貰ってもいいかな。私はこれから出資者達と今後の研究について話し合う事にする、近々中央区に小さな工場を建てる事になるだろう。ガーディアンの研究をしながらも、ラサラスにも頻繁に顔を出させて貰うよ。新作のガーディアンが出来たら、クラウスに教育を頼んでも良いだろうか?」

「お任せ下さい。俺に出来る事なら何でも協力します。強いガーディアンが誕生すれば都市の防衛力も上がりますし、アドリオンの市民達もより安全に暮らせる様になります。冒険者が討伐すべき魔物の数も減るので、冒険者の死亡率も低下する事は間違いないでしょう。キルステン男爵様の研究が王国で暮らす民の生活を変えると確信しています」


 キルステン男爵は目に大粒の涙を浮かべ、俺を強く抱きしめると、何度もお礼を言ってから闘技場を後にした。俺達も早速ラサラスに戻る事にしよう。キルステン男爵との出会いを仲間に伝えたいし、今日はロタールさんもギルドを訪れてくれる。宴の支度を始めるためにも、妖精の館に赴いて宴の支度を依頼しなければならないな。


 冒険者ギルド・ラサラスの宴は盛大に行う。基本的にラサラスが宴の費用を出し、付近に住む市民や冒険者達を招き、大量の料理とお酒を無料で提供するのだ。アドリオンで暮らす冒険者達の士気を上げるためにも、最高のお酒と栄養満点の料理を定期的に振舞い、冒険者と語りながら情報交換等をする、忙しい訓練の生活で唯一の楽しみと言っても過言ではないかもしれない。


 行商人達もラサラスを訪れてくれ、魔物の目撃情報等を提供してくれる。俺達はそんな目撃情報を頼りにアドリオンを出て、魔物の討伐を行う事がある。それから魔物討伐で得た素材は顔見知りの行商人に安く提供する。行商人達は安く素材を得る事ができ、俺達はどの冒険者よりも早く魔物の討伐に向かう事が出来る。


 闘技場を出てラサラスを目指して歩いていると、クリステルが何度もリーゼロッテさんを見つめている事に気がついた。どうやらクリステルはリーゼロッテさんの事が気に入ったのか、通りで花屋を見かけると、懐から幾らかお金を取り出して適当に花を選び、リーゼロッテさんに花束を贈った。


 リーゼロッテさんはクリステルの贈り物を喜び、可愛らしい笑みを浮かべて彼の頭を撫でた。クリステルは恥ずかしそうにリーゼロッテさんを見つめると、俺はクリステルが戦闘に特化した魔物ではないと確信した。


 ミノタウロスの魔石を動力にしているから、ミノタウロスの獰猛な性格を受け継いでいると思ったが、彼が獰猛になるのは戦闘時だけの様だ。それからクリステルは小さな露店を興味深そうに覗き込み、露天商にお金を渡すと、串に刺さった肉を購入し、楽しげに食べ始めた。


 金属の体では食べ物を消化する事は出来ないと思ったが、彼が食べた肉は食道を通って魔力袋に落ち、そこで袋が食物に含まれる微量な魔力を吸収し、魔石に供給する事が出来るとクリステルが説明してくれた。


 クリステルは口数は少ないが、質問をすれば問に答えてくれる。幻獣クラスの魔石を動力にしているから、成人を迎えた人間よりも知能が高いと考えられる。魔獣クラスでも知能が高い魔物も居るが、幻獣は人間と同等、もしくはそれ以上の知能を持つ。


 クリステルが体の内部を見せてくれると、魔力袋に入った肉が燃え上がり、胸部に埋まる魔石が僅かに輝いた。それから灰になった肉が魔力袋の下部にある箱に貯まると、彼は箱を取り出して中の灰を捨てた。定期的に栄養を摂取すれば、魔石が持つ魔力の枯渇を防ぐ事が出来るだとか。


 魔石は使い続ければ魔力を失う。人間が魔法を学ぶ際にも、魔石を用いて魔法の訓練を行うが、使い続ければ魔石は割れ、力を失うのだ。今までは魔石の寿命を延長する事は出来なかったが、キルステン男爵はガーディアンの体内で魔石に魔力を供給する仕組みを作り上げる事に成功したのだ。魔石は金属に溶かしてマジックアイテム化すれば、効果は半永久的に続くが、裸の状態で何度も使用を続ければ、魔力が枯渇した瞬間に割れる。


 金属に魔石を溶かせば、魔石が持つ力を僅かに失うが、反対に裸の状態で魔石を使用すれば、魔石が持つ力を全て出し切る事が出来る。ただし、魔石が持つ魔力が枯渇すれば魔石は力を失う。割れた魔石は砕いて高温で溶かし、薄く伸ばせば魔石ガラスという素材になる。透明の美しい魔石ガラスは貴族の屋敷などの窓に嵌っており、室内からでも外の様子を確認出来る非常に高価な窓だ。


 俺はガーディアンと言葉を交わし、共に闘技場で戦って確信した。キルステン男爵の発明は偉大だ。ガーディアンは間違いなく世界を変える。人間の冒険者が命を懸けて魔物と戦う必要すらない世の中が来るかもしれない。


 勿論、ミスリルという非常に高価な素材を買い集め、ガーディアンを量産する事は難しいだろうから、使用する金属を少なくするために小型化し、動力の魔石もより安価な物でも動く様に、限りなく魔石に掛かる負荷を下げるための研究が必要だ。


 ギルドに戻ると、仲間達はクリステルの姿を見て愕然とした表情を浮かべた。ララはカウンターから飛び立って俺の肩に着地し、不思議そうにクリステルを見上げている。ヴィルヘルムさんはクリステルの体を楽しそうに触れ、彼と握手を交わした。それから俺は仲間達に闘技場での出来事を話すと、ティファニーが私も見に行けば良かったと嘆いた。


「今日からラサラスのメンバーになったミスリルガーディアンのクリステルだよ」

「クリステルです……よろしく……」


 クリステルは恥ずかしそうに仲間達を見つめて挨拶をすると、仲間達は新たな仲間を歓迎した。どうやらレベッカさんはまだファステンバーグ城で話し合いをしているのだろう、ギルド内にフェリックスさんが居ないから少し寂しい。彼がカウンターで冒険者と口論をしているのがラサラスの日常だからだ。


 フェリックスさんは自分の基準に満たないと判断した冒険者の加入を許可する事はなく、加入申請を却下された冒険者は、どうして加入が許可されないのかとフェリックスさんに楯突くことがあるが、そんな冒険者の挑戦的な態度を彼は正面から受け止め、時には木剣で打ち合う事もある。


 しかし、フェリックスさんとララは十三歳の若い男女の加入を認めた。フェリックスさんの説明によると、将来性があり、性格も素直でラサラスに雰囲気に合っているからなのだとか。


 剣士のボリス・カナリスと魔術師のブリュンヒルデ・ルッツ。今日は二人でアドリオンの付近の森に入り、ゴブリン討伐を行っているらしい。討伐を終えたら夕方から開かれる宴にも参加する事になっている。まだ二人とは話した事すらないので、今日はゆっくり冒険者としての生活について語り合いたいと思っている。


「クラウス、そろそろ宴の準備を始めようか」

「はい、ヴィルヘルムさん。俺はララと共に妖精の館に行きますから、今日はもう受付を閉めて下さい。それじゃララ、一緒に仲間達に会いに行こうか」

「ええ、マスター」


 俺はティファニーにクリステルを任せると、彼女はクリステルに指示をして椅子とテーブルを並べ始めた。クラウディウスさんはギルドの様子を楽しそうに眺め、久しぶりに再会したリーゼロッテさんやヴィルヘルムさんと話し込んでいる。


 肩に小さなララを乗せて外に出ると、彼女は俺と二人で居られる事が嬉しいのか、俺の頭を優しく抱きしめた。ララは俺の事を随分気に入ってくれている様だが、俺もララが最高の仲間だと思っている。


 ヴェルナーで幻獣が出現しても、俺を助けるためにすぐに出動してくれたし、毎日話し相手になってくれる。やはり俺とララはどこか似た生き方をしていたから、お互いの気持が良く分かるのだろう。


「マスター、クリステルが加入したけど、私と遊ぶ時間は作ってね」

「勿論。忙しくてもララと過ごす時間は作るからね。国家魔術師試験が終わったら暫くゆっくり出来ると思ったけど、まさか魔族がディースを襲うとは。試験に合格したら、むしろ今まで以上に忙しくなるかもしれない」

「魔王討伐……?」

「恐らく、魔王を見つけ出して仕留める事になるんじゃないかな。魔王に関する手がかりはないけど、魔族がディースを襲撃したという事は魔王は大陸の支配を始めたと考えて良いだろうね」

「魔王が強くても私のマスターなら勝てるよね?」

「魔王に勝てるかどうかは分からないけど、人間を殺す様な魔族を生かしておくつもりはないよ。俺は悪魔だけど、アドリオンの人達の好意でこの町で暮らす事が出来ている。俺を認めてくれた人達のためにも、彼らが安心して暮らせる未来を作らなければならないんだ。どんな敵が襲撃してきても、アドリオンはこの手で守る」

「マスターがアドリオンに居れば安心だけど、敵はアドリオン以外を狙う可能性も高い。事実、ディースの様な人口の少ない農村を襲い、人間を誘拐しようとしていた。それも女ばかり。きっと魔王は部下の魔族の男達に人間の女を与える気だったのよ」

「そうだね、何とか救えて良かったよ……」


 話題がすっかり暗くなってしまったが、魔王が大陸の支配を本格的に始めれば、今の平和な暮らしは一瞬で崩れ去るだろう。ラサラスだけの力で全ての地域を守る切る事は出来ない。せめて、大陸で最も人口が多いアドリオンは守り抜かねばならない。


 それから俺達は妖精の館に入ると、フェアリー達が楽しそうに近づいてきた。彼女達もまた市民と同様に、魔族がディースを襲撃した事を知らない。ラサラスや国防に携わる衛兵以外には魔族が人間の地に立ち入った事も知らないのだ。


 アドリオンで暮らす全ての人が安心に暮らす未来を作るためには、更に力を付け、魔王を討伐出来る最高の実力を持った冒険者に成長する必要がある……。

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