表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/78

第六十五話「都市を防衛する者達」

 会場は大いに盛り上がっているが、ゴブリンを倒しただけではガーディアンが高い戦闘力を持っていると証明する事は難しい。魔物の魔力に敏感な冒険者達は既にガーディアンの実力を理解しているが、市民達はいまいちガーディアンの強さを理解していない。


 闘技場には円形に檻が置かれており、中央にガーディアンが立っている。一際大きな檻の扉が開くと、中からは黒い体毛の包まれた熊が現れた。大陸西部の森林地帯に生息するブラックベアだ。氷属性の使い手で、体長は三メートル近く、熟練の冒険者でもパーティーで挑まなければ討伐は不可能。


 魔獣クラスの魔物だが、強さは限りなく幻獣に近いと言われている。何度も図鑑で見てきたが、実物を目にするのは初めてだ。俺とキルステン男爵が観客席に入ると、すぐに試合が始まった。


 ブラックベアはガーディアンを見つめて咆哮を上げると、辺りに冷気が立ち込め、冷気が徐々に魔法を作り上げた。氷の鎧だろうが、青白く輝く美しい鎧が瞬時にブラックベアの体を多い包んだ。ブラックベアは知能が高く、森に入り込んだ冒険者を罠にかけて仕留める狡猾さがあり、仕留めた人間は時間を掛けてゆっくりと喰らう。


 それからブラックベアは殺害した人間の骨を森の入口に置いて冒険者を誘き出す。冒険者は仲間を殺されれば例外なく魔物に復讐する人種だ。ブラックベアはそんな冒険者の行動を熟知しており、冒険者が復讐のために森に入れば、予め仲間と共に待ち伏せをし、一気に冒険者を仕留める。


 ブラックベアは『冒険者殺しの魔獣』とも呼ばれており、ブラックベアに仲間を殺されても決して復讐をするなと、冒険者ギルド内にある掲示板に書かれている場合が多い。


 アドリオンでギルドを設立してから、自分が活動する地域にどんなギルドがあるのか、様々なギルドにお邪魔し、室内の装飾や加入者数、加入特典等を調べて回った事がある。大抵のギルドではブラックベアに対する復讐を禁じている。群れで行動するブラックベアを仕留めるのは国家魔術師以外には不可能とまで言われているのだ。並の冒険者で対応出来る魔物ではない。


 そんなブラックベアが退路を失い、闘技場という場所に突如連れてこられ、ガーディアンとの戦闘を強制されている。ブラックベアは自分自身が闘技場から逃げる手段はないと理解しているのか、ガーディアンとの距離を取りながらゆっくりと相手の出方を伺っている。


 闘技場の観客席には強力な防御魔法が掛かっており、国家魔術師でも闘技場内から観客席に向けて攻撃を仕掛ける事は不可能。反対に、観客席から闘技場内に向けて攻撃を仕掛ける事は出来る。


 この防御魔法は国家魔術師のベル・ブライトナー、すなわちティファニーの父が作り上げたもので、闘技場の地下に観客を守るための魔法陣が書かれている。闘技場に勤務する魔術師が魔法陣に対して定期的に魔力を注いでいるので、ベル・ブライトナーが作り上げた鉄壁の防御魔法が効果を失う事はない。


 ガーディアンは怯えながらスピアとラウンドシールドを持ち、翼を広げて飛び上がった。ブラックベアの攻撃範囲外から攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。ガーディアンが上空から炎を吐くと、ブラックベアは瞬時に後退してガーディアンの炎を回避し、上空に飛び上がってガーディアンの顔面を殴りつけた。


 ブラックベアの驚異的な跳躍力に会場は大いに盛り上がり、俺はブラックベアに復讐はするなという言葉の意味をやっと理解した。ブラックベアは助走もせずに軽々と三メートル以上も跳躍をしたのだ。試合の解説を行っている司会の説明によると、ブラックベアの体重は八百キロを超えるらしい。


 ガーディアンの戦いぶりを見ていると、体には自然と力が入り、自分ならこう戦うのにと脳内で何度も想像している自分が居る。敵が強ければ強い程興奮するのは悪魔の特性なのだろうか。


 ブラックベアの強烈な一撃を喰らったガーディアンは無様に地面に落下したが、すぐさま立ち上がり、ブラックベアの首根っこを掴んだ。やはりミノタウロスの魔石によって動いているからか、思考はミノタウロスに近いのだろう。細いスピアを投げ捨てて右手でブラックベアの首を掴み、左手に持ったラウンドシールドでブラックベアの顔面を殴っている。


 ブラックベアはガーディアンの攻撃を受けて激昂し、鋭い爪で何度もガーディアンに攻撃を仕掛けた。ガーディアンは徐々にブラックベアに押され始め、ブラックベアがガーディアンの首元に噛み付くと、ガーディアンは俺に助けを求める様に赤い瞳を輝かせた。このままブラックベアがガーディアンに攻撃を続ければ、確実にガーディアンが破壊されるだろう。


 偉大なる発明品を魔獣に破壊させる訳にはいかない。それでも、ブラックベアは命懸けで戦っているのだから、部外者の俺がガーディアンに助太刀するのは間違っていると思う。司会が杖を口元に当ててガーディアンを煽り始めた。


「ミスリルを大量に使い、剣鬼からミノタウロスの魔石を借りた最高級のガラクタは、ブラックベア一体も倒せないのか! キルステン男爵はこんなゴミを作りだすために人生を賭けていたのか! 勝負は間もなく決まる! キルステン男爵の人生が終わる時が間もなく来る!」


 非常に偏った実況をした司会を咎める者はおらず、幻獣の魔石と希少な金属であるミスリルを多量に使用したガーディアンが、たった一体のブラックベアすら倒せないのかと、観客達は不満の声を上げた。貴族達はつまらなそうにキルステン男爵を見下ろし、キルステン男爵は青ざめた表情で俺の手を握った。


「助けてくれ……! ガーディアンは私の命なんだ! あの子が破壊されれば、私の人生が終わる! もう再起出来ないだろう。貴族として信頼も落ち、莫大な財産を注ぎ込んで続けた研究も終わるんだ! ベルンシュタイン殿! どうか私を助けてくれ!」

「助けてくれと言われましても、俺がこの試合に関与する事は出来ません」

「そんな事を言わないでくれ! 君だけが頼りだ! どうかこの通り! ガーディアンを救ってくれたらなんでもする! 君の専属の発明家になってもいい!」

「俺もガーディアンが負けるところは見たくありません。あのガーディアンは戦い方さえ覚えれば更に強くなれます。ですが、俺には手助けする事は出来ません。これは一対一の真剣勝負ですから。助けに慣れない事が残念でなりません」


 司会は俺達の言葉を聞いていたのか、ガーディアンとキルステン男爵を煽りながらも、面白い提案を述べた。


「お集まりの皆さん! 間もなくガーディアンは命を落とすでしょう! しかし、キルステン男爵はアドリオンの英雄、剣鬼、クラウス・ベルンシュタインに助けを求めました! 十五歳の天才冒険者、レマルクやモーセル、ヴェルナーやディースを魔物の魔の手から救い、数多の魔獣、幻獣を仕留め続けた最高の剣士に助けを求めているのです! 私は皆さんに問います! 剣鬼の戦いが見たいか!」


 司会が会場全体に轟く程の声で叫ぶと、観客達は熱狂的な拍手を上げた。俺は司会の席に走ると、司会は俺の肩に手を置き、ガーディアンを救う事を許可してくれた。ただし、俺が戦闘に参加すればブラックベアの死が確定する様なものだから、闘技場に用意した全ての魔物を同時に開放する事が勝利の条件だと言った。


 司会のとんでもない提案を聞いて俺は無性に気分が高揚し、すぐに司会の提案を受け入れた。


「剣鬼、クラウス・ベルンシュタインがミスリルのガラクタを助けるために闘技場に入ります! 私達は歴史的な瞬間に立ち会っている! この目で剣鬼の戦いが見られるのだ! たった十五歳で生まれ故郷を出て、冬の洞窟で暮らしながら数百体のブラックウルフを狩り続け、ヴェルナーでは幻獣のゴブリンロードを討伐した! その後、レマルクで幻獣のゲイザーを討伐し、ヴェルナー襲撃を企むレッドドラゴンとデーモンを討伐。そしてつい先日はどの冒険者よりも早く、ディースに飛んで幻獣のミノタウロスを仕留めた! このエピソードが本当なのか、みなさんは疑問に思った事はないのか! だが、ついに剣鬼の力をこの目で見られるのだ! 皆さん、盛大な拍手をお願いします! 冒険者ギルド・ラサラスのギルドマスター、レベル九十三、国家魔術師、レベッカ・フォン・ローゼンベルグの弟子、剣鬼、クラウス・ベルンシュタインの登場です!」


 司会が大げさに俺の事を紹介すると、リーゼロッテさんとクラウディウスさんは楽しそうに俺に手を振り、会場全体から爆発的な拍手と歓声が上がった。ブラックベアは執拗にガーディアンに対して攻撃を続け、ガーディアンは遂に力なく地面に倒れた、悲しげな表情で俺を見つめると、俺は心の中で怒りが爆発して会場に飛び降りた。


 ブラックベアとガーディアンの間に着地すると、右手に炎を灯して全力でブラックベアの腹部を殴り上げた。ブラックベアが大量の血を吐くと同時に、俺はブラックベアの顔面に蹴りを放つと、ブラックベアの巨体が宙を舞って闘技場の壁に激突した。ブラックベアは力なく立ち上がり、ゆっくりと俺に向かって駆けてきた。


 俺は地面に落ちていたスピアを拾い上げると、助走をつけて力の限りスピアを投げた。スピアが目視できない程の速度でブラックベアの頭部を貫くと、ブラックベアは命を落とした。ガーディアンは俺を抱き締めて何度も頭を下げると、俺はガーディアンの頭を撫でた。


「一人でよく耐えたね。これから無数の魔物が放たれるけど、決して死なないでくれよ。俺のデーモンイーターを貸すから使いこなしてみせるんだ」

「……」

「男爵様を助けたいのだろう? 彼は今窮地に立たされているんだ。俺と二人で魔物を狩り、彼の研究の正しさを証明しよう!」


 鞘からデーモンイーターを引き抜いて地面に突き立てると、檻が一斉に開いて魔物群れが俺達を取り囲んだ。ラミアが五体、トロルが三十体程、それから数え切れない程のブラックウルフ。果たして俺はガーディアンを守りながら魔物の群れを殲滅出来るだろうか。いや、これはアドリオンを守る冒険者の力を市民に知って貰う良い機会だ。


 ガーディアンはデーモンイーターを右手で構え、左手でラウンドシールドを持つと、瞬時に飛び上がってブラックウルフの群れ中央に着地した。複数体のブラックウルフをデーモンイーターで一気に薙ぎ払うと、口から強烈な炎を吐いて敵の群れを吹き飛ばした。


 巨体のラミア達が両刃の斧を持って俺を見下ろし、一斉に攻撃を仕掛けてきた。俺は瞬時に飛び上がってラミアの群れに特大のファイアボールを落とし、五体のラミアを一気に吹き飛ばして命を奪った。


 それからトロルの群れが棍棒を振り上げて俺を取り囲むと、一際体の大きいトロルが巨大な木製の棍棒を振り下ろした。俺はトロルの攻撃を左手で受け止め、右手をトロルの心臓に向けて無数の炎の矢を放つと、炎の矢がトロルの体にいくつもの風穴を開けた。


 攻撃を受けたトロルは命を落とし、トロル達は怒り狂って攻撃を仕掛けてきた。しかし、俺の体に棍棒を当てられる者はおらず、俺は敵の攻撃を軽やかに交わしてから、久しぶりにゴブリンロードの魔法を借りる事にした。


 全身の魔力をかき集め、両手を上空に上げて炎を放出すると、辺りには強烈な炎の嵐が発生した。魔力を極限まで高め、両手を地面に振り下ろす。


「ファイアストーム!」


 瞬間、爆発的な炎の嵐がトロルの群れを炎上させた。炎から逃れようとしたトロルに倒してはファイアボールを飛ばして仕留め、炎に燃えながらも攻撃を仕掛ける勇敢な者には拳で顔面を殴り、闘技場の壁に激突させて命を奪った。


 ガーディアンは全身をブラックウルフに噛まれながらも、デーモンイーターで敵を切り続け、遂に最後の一体を切り裂いた瞬間、司会が俺達の勝利を宣言した。


「皆さん! これがフランツ・フォン・キルステン男爵のガーディアンと剣鬼、クラウス・ベルンシュタインの力です! 彼らが都市を防衛する限り、私達は安全に暮らす事が出来る! 二人の偉大な冒険者に盛大な拍手を!」


 観客達が立ち上がって拍手をすると、貴族達も笑みを浮かべながら上品に拍手をし、俺達の勝利を称賛してくれた。俺は力なく地面に座り込んだガーディアンの肩に手を置くと、彼は嬉しそうに微笑んでから俺を抱きしめた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ