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エーデルベルグの雪 ──北部山岳任務録──  作者: 有凪いちほ
特殊情報収集班:任務

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マッサージ


 朝食を終えた後、エレジは自分の部屋へ戻り、前日に持ち帰ったもののうち、まだ机へ出したままだった紙を片づけた。

 タンネックで使った地形図はすでにまとめてあり、温泉の場所につけた小さな印も、そのまま残っている。


 昨日は朝に出て、途中で運転を交代しながら午後に施設へ戻った。

 帰着後には荷物を下ろし、持ち帰った記録を確認して報告まで済ませたため、今日は五人とも特に予定を入れていない。

 エレジも本を開いてしばらく読んでいたが、昼前になると一人で過ごすことに飽きてきた。


 隣の部屋にはカイルがいる。部屋が隣になってからは、用事がなくてもどちらかが相手のところへ行くようになっていた。

 飲み物を持って話したり、それぞれ別のことをしながら同じ部屋にいたりするだけの日もある。

 以前なら、カイルの部屋へ行くことには少し理由が必要だったが、今では会いたいと思えば、それだけで行けるようになっている。


 エレジは本を閉じ、隣室の扉を叩いた。


「少佐、いますか」


「ああ」


 返事を聞いて中へ入ると、カイルは机ではなく椅子に座っていた。仕事をしている様子はなく、手元には飲み物だけがある。


「休んでたんですか」


「ああ」


「よかったです。少佐は休みでも何かしてそうなので」


 エレジは笑いながら空いている椅子へ座った。出かける予定を決めていたわけではなく、カイルも今日は施設内で過ごすつもりらしい。

 話しているうちに、タンネックでのことへ話題が戻った。


「結局、最後の日も鳥はいませんでしたね」


「ああ。帰りも見てただろ」


「また見られるかと思って」


「温泉の方も見てたな」


「はい。次に行くことがあったら、また入りたいです」


「ロートも同じことを言ってたな」


「気持ちよかったですから」


 山へ入った初日には分かりにくかった分岐も、帰る頃には岩を見ればどちらへ進めばいいか分かった。林が切れるところも、荷物を持ったまま通りにくかった枝の位置も覚えている。


 エレジが来る時より帰る時の方が道が短く感じたという話をしている途中で、カイルが首の付け根へ手をやった。少し押してから肩を回し、そのまま話を聞いている。

 最初は何も言わなかったが、その後も同じところへ手をやったので、エレジは少し気になった。


「肩、痛いですか」


「痛くはない。少し張ってるだけだ」


「そうなんですね」


 エレジは彼の肩を見た。タンネックでは何度も装備を背負って山道を歩き、昨日も長い時間をかけて施設まで戻っている。帰着してからも、すぐに休めたわけではなかった。


「疲れ、残ってますか」


「少しはな。でも大したことじゃない」


「……触ってもいいですか」


「ああ」


 許可をもらってから、首の付け根に近いところへそっと手を置いた。服の上から指で押してみると、思っていたより硬い。少し場所を変えてみても、肩の上から外側まで張っている。


「ここ、硬いですね」


「そうか?」


「はい。思ってたより」


 力を入れすぎないように押すと、カイルが首の角度をわずかに変えた。


「そこは効くな」


「じゃあ、やっぱり疲れてるんですね」


「山に入ってたからな」


「そうですよね」


 反対側も確かめてみると、こちらも同じように張っていた。


「荷物もずっと背負ってましたし」


「お前もだろ」


「私は大丈夫です」


「若いからか」


「十歳しか違わないです」


 少し笑ってから、エレジはもう一度肩を押した。


「……揉みましょうか」


「いいのか」


「はい。私がしたいです」


「お前も休みだろ」


「だから、今日は時間あります」


 カイルは少し考えるように彼女を見た。


「無理しなくていいぞ」


「無理じゃないです。少佐が少しでも楽になるなら、したいです」


 そこまで言ってから、エレジは少し恥ずかしくなったが、言い直すことはしなかった。


「それに……少佐に触るの、嫌いじゃないので」


 カイルの表情が少し緩んだ。


「そういう理由なら、頼むか」


「はい」


 頼んでもらえたことが嬉しく、エレジはもう一度肩へ手を置いた。そのまま肩を揉んでみたが、椅子に座った姿勢では力を入れにくい。

 肩だけならできても、背中まで張っているなら、このまま続けるのはやりづらそうだった。


「肩だけじゃなくて、背中も疲れてませんか」


「多少はな」


「じゃあ、肩だけじゃ足りなさそうです」


「山に行ってたんだからそんなものだろ」


 カイルにとっては、その程度は疲労のうちにも入らないのかもしれない。エレジは座ったまま肩だけ揉んで終えるつもりをなくした。


「もしよかったら、ちゃんと揉んでもいいですか」


「ちゃんと?」


「横になってもらった方が、背中も揉みやすいので」


 言ってから室内にあるベッドが目に入り、カイルも同じところを見た。自分から彼の部屋へ来て、休養日の昼間に、ベッドへ横になるよう勧めている。

 その状況を遅れて意識し、エレジは少し言い訳をしたくなった。


「……マッサージですよ」


「分かってる。お前が意識したんだろ」


「今のは忘れてください」


 カイルが笑ったので、エレジは誤魔化すようにもう一度肩を押した。


「やっぱり張ってます。……横になってもらってもいいですか。その方が、ちゃんと揉めるので」


「分かった」


 カイルは上着を脱ぎ、ベッドへうつ伏せになった。エレジも袖を少し上げてから、その隣へ座った。

 こうしてカイルの背中を前にすると、抱きしめられた時に腕を回すのとはまた違って見える。

 普段は意識しない肩や背中の広さも、今はどこを揉むか考えるために見ることになる。


「じゃあ、やりますね」


「ああ」


 まず肩甲骨の上あたりへ両手を置き、服の上からゆっくり押した。


「このくらいですか」


「ちょうどいい」


「強かったら言ってください」


 少しずつ場所を変えながら揉むと、硬いところが分かってくる。肩に近いところは特に張っていて、そこを押すとカイルが長く息を吐いた。


「ここですね」


「そうだな」


「自分では、あまり分からなかったですか」


「押されれば分かる」


「じゃあ、やっぱり結構張ってたんですね」


 エレジは力を加減しながら、肩から背中へ手を移した。しばらく続けるうちに、カイルの身体から少しずつ力が抜けていくのが分かった。

 最初は腕にも余計な力が入っていたが、今はベッドへ身体を預けている。自分に任せて休んでいることが、エレジには思った以上に嬉しかった。


 肩へ手を戻した時、その気持ちのまま、エレジは服越しに短くキスをした。カイルが顔の向きを変えようとしたので、エレジは笑った。


「駄目です。まだ終わってません」


「お前がしたんだろう」


「はい。でも、今動かれるとやりにくいです。もう少しだけそのままでいてください」


 カイルがまた顔を伏せたので、エレジは肩を揉むところへ戻った。少しして、今度は首の近くへキスをした。


「エレジ」


「はい」


「揉む気はあるのか」


「あります。でも、触りたいんです」


 答えるとエレジも笑いながら手を動かし、肩から背中へ戻る。


 以前なら、カイルに触れる時には、自分がどう反応するかを気にしていた。

 背後から触れられることを怖がらないか、腰や背中へ触れられても身体が固まらないか、それを一つずつ確かめた時期がある。

 今は、そのことを考えなくても触れられる。触れたいから触れていると、そのまま言えることが嬉しかった。


 背中を揉み終えると、腕へ移った。カイルの手を取って少し位置を変え、肩から肘までを順に揉んでいく。


「腕も疲れるんですか」


「荷物を持ってればな」


「少佐、何でも自分で持ちますよね」


「持てるからな」


 腕を揉み終えた後も手を持ったままでいると、カイルが指を少し曲げ、エレジの手へ触れた。エレジはその指先へキスをした。


「これは?」


「マッサージじゃないです」


「やっぱりな」


「でも、まだ続けてもいいですか」


 頬にも一度キスをしてから手を離し、今度は腰の方へ座る位置を変えた。


「腰もしていいですか」


「ああ」


 腰へ手を置くと、肩ほどは張っている場所が分かりやすくなかった。最初は掌全体で押し、左右で少しずつ位置を変えていく。

 あるところへ指をかけた時、カイルが短く息を吸ったので、エレジはすぐに力を弱めた。


「痛かったですか」


「いや。そこだな」


「ここ?」


 同じところを今度は少し弱く押してみる。カイルの身体がわずかに動いたので止めようかと思ったが、その直後に長く息を吐くのが聞こえた。


「気持ちいいですか?」


「ああ」


「じゃあ、このくらいにします」


 返事を聞いてから、少しずつ力を変えた。押した時には身体に力が入り、ゆっくり緩めると、それに合わせるように腰の力も抜けていく。肩や背中より反応が分かりやすい。


「結構硬いですね」


「昨日歩いたからな」


「やっぱり、少し残ってたんですね」


「休めば大丈夫だ」


「そうですね。今日はゆっくりしてください」


 エレジは、揉んでいるうちに少しずつ柔らかくなっていく感触が面白かった。腰からさらに下へ手を移す。


「ここもしていいですか」


「ああ」


 臀部は腰とは違って筋肉が厚く、最初はどの程度力を入れればいいのか分からなかった。掌で押し、少し強めに揉んでみると、カイルの脚がわずかに動いた。


「強いですか?」


「いや。そのくらいでいい」


「本当に?」


「ああ」


 念のため、同じ程度の力でもう一度押した。今度は身体は動かなかったが、カイルがゆっくり息を吐いた。苦しそうには聞こえない。


「気持ちいいですか?」


「ああ。かなり」


「よかった」


 エレジは安心して続けた。自分が触れることで、カイルの身体から力が抜けていく。

 それが分かると、もっと楽にしてあげたいと思った。少しずつ場所を変え、硬いところでは何度か揉み、十分にほぐれているところは掌でゆっくり押す。

 カイルはほとんど動かなかったが、ときどき脚の位置をわずかに変えた。


 そこから太腿へ移る。外側から揉み始めると、カイルがまた短く息を吸った。


「ここも?」


「そこは張ってる」


「じゃあ、ゆっくりしますね」


 両手で筋肉を包むようにして、急に力を入れないよう少しずつ押した。最初は硬かったところも、何度か繰り返すと少しずつ緩んでいく。


「どうですか」


「いい」


「……気持ちいいですか?」


「ああ」


 言い直してもらえたことが嬉しく、エレジは少し笑った。


「よかったです。ちゃんと楽になってるなら」


「なってる」


 もう一度揉むと、今度は返事の代わりにカイルが深く息を吐いた。その方が分かりやすかった。エレジは太腿を揉みながら、どこが特に張っているのか探していった。


 しばらくして、少し気になることが出てきた。肩や背中を揉んでいた時にも、カイルは力を抜いていた。

 凝っている場所へ当たれば、気持ちよさそうに息を吐くこともあった。ただ、腰より下へ移ってからは、それとは少し違う。


 腰の張っているところを押した時には、深く息を吐く。臀部を揉んだ時には、一度だけ脚が動いた。

 太腿へ移ると、ときどき吸う息が妙に短くなる。最初は痛みなのかと思ったが、尋ねれば痛くないと言う。気持ちいいとも答える。

 それなら問題はないはずなのに、エレジには何かが引っかかった。


「少佐、本当に気持ちいいですか?」


「ああ」


「痛いとかじゃなくて?」


「痛くない」


 やはり同じ返事だった。エレジは太腿を揉んでいた手を止めず、さっきカイルが短く息を吸ったところをもう一度ゆっくり押した。

 呼吸が一瞬だけ止まり、その後で、意識して整えるように息を吐く。肩を揉んでいた時には、こんな反応ではなかった。


「……もしかして」


 口にしかけたものの、自分でも何を疑っているのか確信がなく、エレジは続けなかった。


「何だ」


「いえ」


「途中でやめるな」


「まだ分からないので」


 答えながら、太腿から腰へ手を戻した。さっき硬いと言っていたところを揉む。ここでは、普通に長く息を吐く。

 そこから少し位置を下げると、カイルの身体に一瞬力が入った。さらに太腿へ戻ると、また短く息を吸う。


 何度か確かめるうちに、エレジにも違いが分かってきた。凝っているところを押された時の反応とは違う。

 自分が触れていることそのものに反応している。そう考えると、急に手のひらの感覚まで意識するようになった。


「少佐、さっきから、ここ揉むと呼吸変わりますよね」


 返事がなかった。エレジがカイルの横顔を見ると、寝ているわけではない。


「……聞こえてますか」


「ああ」


「やっぱり、少し違いますよね」


「揉まれれば呼吸くらい変わる」


「でも、肩の時とは違う気がします」


 言うと、カイルはしばらく黙った。その反応で、エレジの中にあった疑いはほとんど確信に変わった。

 自分が考えている意味で合っているのだと思う。そうなると、今度は確かめること自体が恥ずかしくなった。


「……気持ちいいの、マッサージとしてだけじゃないんですか?」


 ようやく聞くと、カイルが少しだけ顔の向きを変えた。


「今さら気づいたのか」


 やはりそうだった。驚いたというより、認められたことで急に現実味が増した。


「……最初から?」


「最初からではない」


「じゃあ、いつからですか」


「それを聞いてどうする」


「……知りたいです」


 カイルは答えなかった。エレジは、今まで自分がしていたことを一度思い返した。

 腰を揉み、臀部へ移り、太腿を揉んで、何度も「気持ちいいですか」と聞いた。呼吸が変わるたびに力加減を変え、どこが一番楽になるのか確かめようとしていた。

 途中から何か違うとは思っていた。今はもう、その違いが何なのかも分かっている。


「……嫌なら止めます」


「嫌だとは言ってない」


 カイルの返事はすぐだった。その言葉で少し安心した一方、今度は別の意味で胸の奥が落ち着かなくなった。嫌ではない。

 つまり、カイルは自分に触れられることを、その意味でも受け入れている。


 エレジは止めていた手をもう一度腰へ置き、今までと同じように揉む。ここでは大きく反応しない。

 少し場所を変えると、呼吸が変わる。その違いが、今度ははっきり分かった。エレジは思わず笑った。


「……やっぱり、違いますね」


「分かってから試すな」


「すみません。でも、本当にそうなのかなって……」


「マッサージじゃなかったのか」


「マッサージです」


「今のは違うだろ」


 言われてエレジは否定できなかった。最初は本当に疲れを取ってあげたかっただけだった。それは今も変わっていない。

 ただ、カイルが自分の手に反応していると分かってからは、その反応自体が気になっている。好きな人の身体へ触れ、自分の手の動きで呼吸が変わる。そのことが思っていた以上に嬉しかった。


「気持ちいいですか?」


 今度は、さっきまでとは違う意味を分かったうえで聞いた。カイルは少し間を置いた。


「ああ」


 同じ答えなのに、聞こえ方まで違った。エレジは恥ずかしくなりながらも手を止めなかった。


「……どっちの意味ですか」


 返事がないのがおかしくて、エレジは笑った。


「少佐、教えてください」


「お前、楽しんでるだろう」


 言われると、今度は笑えなくなった。自分でも分かっている。疲れを取ってあげたいという気持ちだけでは、こんなふうに何度も反応を確かめたりしない。エレジは少し迷った後、正直に答えた。


「……はい」


「そうか」


「でも、ちゃんと揉んでます」


「そこは疑ってない」


 カイルも少し笑っているらしく、声が柔らかかった。それでエレジも気持ちが緩んだ。太腿から腰へ手を戻し、また丁寧に揉む。


 今度はその途中で身を屈め、腰へ短くキスをした。カイルの呼吸が一瞬止まった。揉んだ時より、ずっと分かりやすかった。エレジ自身も驚いて動きを止めた。


「……今のは分かりました」


「何がだ」


「少佐も分かってますよね」


 カイルは答えなかった。けれど、横を向いた顔には笑いが残っていた。エレジは恥ずかしいと思いながらも、もう一度同じ場所へキスをした。その後、背中へ一つ、肩へ一つ。


「それはマッサージなのか」


「違います」


「認めるんだな」


「……はい。もう、分かってるので」


 自分からそう言えると、少し楽になった。マッサージは続けるが、それだけではない。

 触れたいと思って触れていることも、カイルがそれに反応してくれるのが嬉しいことも、もう自分で分かっていた。


 腰をもう一度揉んでから、エレジは手を離した。


「少佐、仰向けになってもらってもいいですか」


「まだやるのか」


「はい。前も少し揉みたいです」


 カイルは身体を起こした。その時になって、エレジは少しだけ迷った。仰向けになれば、今までよりも相手の様子が分かる。

 自分はもう、カイルがどういう意味で反応しているのか知っている。それはカイルも分かっているはずだった。


 それでもカイルは断ることも身体の向きを誤魔化すこともせず、頼まれた通り仰向けになった。エレジは、見えることよりも、それを彼が隠そうとしていないことの方に少し驚いた。脚の方へ座り直そうとして、視線が一度だけ止まった。


 予想していなかったわけではない。さっきまでの呼吸や身体の反応から、そうなっていること自体はもう分かっていた。それでも、実際に目で確かめてしまうのは別だった。

 しかもカイルは、仰向けになればエレジにも分かると知っていたはずなのに、特に慌てる様子もない。


 エレジは反射的に彼の顔を見た。目が合った。カイルの方は、さっきまでとほとんど変わらない。その余裕に、今度は別の意味で頬が熱くなった。


「……少佐」


「何だ」


「分かってたんですよね」


「何がだ」


「……私に見えるの」


 そこまで言うだけでも恥ずかしかった。カイルは誤魔化さなかった。


「ああ」


 あまりにも普通に答えられ、エレジはますます困った。


「それでも、普通に仰向けになるんですね」


「お前がそうしろと言ったからな」


「そうですけど……」


「嫌だったか?」


「嫌じゃないです」


 そこはすぐに答えられた。ただ、自分だけがこんなに動揺しているのに、カイルはずっと分かっていたのだと思うと落ち着かない。


「少佐、余裕ありますね」


「そう見えるか?」


 聞き返され、エレジは少し黙った。さっきまでの反応を思い出せば、本当に余裕があるわけではない。

 呼吸が変わったことも、身体へ力が入ったことも、自分はもう知っている。ただ、それを隠そうとしていないだけなのだ。


「……余裕、ないんですか」


「お前にあれだけ触られて、あると思うか?」


 その返事で、エレジはまた顔が熱くなった。自分がそうさせている。それはもう分かっていたはずなのに、改めて本人から言われると、さっきよりはっきり意識してしまう。


 エレジは膝の上へ手を置いた。ついさっきまで彼の身体をあちこち揉んでいた手だった。


「……ちょっと待ってください」


「何を待つんだ」


「今、恥ずかしいので」


 カイルは急かさなかった。エレジは顔を伏せたまま、自分がどこまで分かっていて、それでも触れ続けていたのかをもう一度思い返した。



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