届いた返答
朝の打ち合わせでは、ヨナスと軍曹が、二日分の記録を机へ並べた。最初の中継地点で通信が途切れた時にも、別の地点では使えていたことが分かっている。施設全体を同じように調べ直すより、最初の地点につながる区間を先に確かめたいという。
「そちらで追加の点検を進めます。班の方には、途中の場所をもう一度見ていただければ」
軍曹が地図を示すと、カイルは道路から近づけるところと、歩いて入るところを確かめた。エレジも昨日までの印を見ながら、今日使う道を手元の地図へ移した。
午前中は、軍曹とは別の整備担当者に案内してもらった。道路から離れる距離は短かったが、設備のそばは木が重なり、向かいの斜面までは見えなかった。ヨナスが状態を確かめる間、エレジたちは周囲と、そこへ入る道を見た。
以前に作業した者の話も聞けた。エレジは自分で確かめたことと分けて書き、カイルへ渡した。通信はその間も使えていたが、前日までの記録と合わせて残すことになった。
施設へ戻ると、軍曹が追加の点検を始めていた。ヨナスは持ち帰ったものを示し、次に確認する場所について話した。カイルも今後の予定を合わせ、その日の外での作業は終えることにした。
*
夕方、エレジが地図を畳んでいると、カイルが作業室へ入ってきた。手には新しく受け取った資料があり、機材を収めていたヨナスへ声をかけた。
「リートハーフェンの照会に返答が来た。先に、五人で確認したい」
ヨナスはケースへ入れかけたものを戻し、机へ寄った。マティアスとリヒターも席へ着くと、カイルは資料を中央へ置いた。
今回の観測で残した識別情報は、ヨナスが以前に調べた記録にもあった。同じ情報が使われていたことは確認されたが、それを利用していた者が同じ人物かまでは分かっていない。
「そこは、引き続き確認される。今の返答だけで、同じ相手だとは決めない」
カイルが伝えると、ヨナスは頷いた。エレジも資料へ目を向けた。見覚えのある情報が見つかった時から気になっていたことだったが、記録がつながることと、人がつながることは、まだ分けて考える必要があるらしかった。
「撤収した時の相手については、返ってきたんですか」
マティアスが尋ねると、カイルは首を横に振った。
「今回はない。向こうで確認を続けてる」
「分かりました」
リヒターも届いた回答の範囲を確かめ、それ以上は話を広げなかった。エレジは通路で見たことを思い出したが、今ここで考え直しても、相手の所属や目的までは分からない。カイルが次の紙を出すと、そちらへ目を戻した。
「記録を管理していた者についても、返答がある」
ヨナスは差し出された紙を受け取り、上から読み始めた。以前の調査で確かめられなかった、担当を離れた時期が記されている。その後、資料の一部が別の部署へ引き継がれていたことも、残っていた記録から分かったという。
エレジは彼が説明してくれるのを待ったが、ヨナスは同じところへ目を戻していた。普段、機材や資料を見せる時には、どこを確かめているかも一緒に話してくれる。今は紙を机へ置いた後にも指を離さず、下に書かれた引き継ぎ先を見ていた。
「前には、そこまで分からなかったのか」
カイルに聞かれ、ヨナスは顔を上げた。
「はい。元の保管先にある分は見ましたが、その先へ渡った記録を確かめられていませんでした」
「今回、引き継いだ先が分かった」
「そうですね。そちらに何が残っているかは、まだ分かりませんけど」
そう答えてから、彼は紙へ目を戻した。前に見た資料と同じものなのか、その続きが含まれているのかは、ここには書かれていない。それでも、以前はどこへ聞けばよいか分からなかったところに、今は部署の名前がある。
エレジはその名前を見てから、ヨナスへ顔を向けた。
「探していた先に、近づけそうですか」
彼はすぐには答えなかった。資料があることまで確かめられたわけではなく、期待したとおりのものが残っているとも限らない。それでも、何も変わっていないという返事にはならなかった。
「聞けるところが、一つ増えました」
「そうですか」
「はい。前の調査だけでは、ここまで追えなかったので」
エレジは頷いた。見つかってよかったと言うには、まだ早い気がした。けれど、彼が何度も同じ箇所を確かめていた理由は、少し分かった。
マティアスも紙へ目を向けたが、ヨナスが何を探しているかを改めて尋ねることはしなかった。リヒターは届いた回答の日付を確かめ、カイルへ顔を向けた。
「次は、そこへ照会するのね」
「ああ。何を確認するかは、ファルクと合わせる」
カイルが答えると、ヨナスは手元へ紙を寄せた。今回の回答から聞けることを、ここでまとめておきたいという。
五人で確認するところが終わると、エレジたちは先に作業室を出た。扉を閉める前に振り返ると、ヨナスは自分の以前の資料も出し、カイルの前へ並べていた。
*
二人きりになると、ヨナスは以前に調べた期間を示した。引き継がれた資料がその期間を含むのかと、今もどこかに保管されているのかを、まず確かめたいという。
「前に参照したものと同じなら、そのことも分かるようにしてほしいです。違う資料だと思って待って、同じものが返ってくると、またそこから確かめることになるので」
「ああ。前に見た分も示しておこう」
カイルは彼が残していた一覧を見て、照会する項目へ加えた。ヨナスは新しい紙を読み直してから、引き継いだ時の記録そのものも参照できるか聞きたいと伝えた。
カイルは内容を確かめ、余白へ書き足した。資料の所在を聞くことと、当時の管理者について聞くことは分ける。担当を離れた時期が分かっても、その後に本人がどこへ行ったかは、今回の返答にはなかった。
「そこは、まだ確認が要るな」
「はい」
ヨナスは短く答えた。紙に書かれた引き継ぎ先を見つけた時には、その先のことまで一度に知りたくなった。それでも、資料が移った先を、人が移った先として読むわけにはいかない。
「今回の記録と合わせる方も、続いてる。返答があれば渡す」
「お願いします」
カイルはまとめた照会を読み直し、ヨナスにも確認させた。彼が頷くと、必要な資料を添えて送った。
送信を終えた後も、ヨナスは机へ出した紙を見ていた。以前の一覧に、新しく分かったことを書き足せる。そう思って用紙を取りかけたが、カイルもまだ席を立っていなかった。
「明日の準備はどうだ」
「使った分は戻してあります。持ち出すものも、今朝と同じなら揃っています」
「現地側からの返答を受けて、朝に合わせよう。今日は、ここまででいい」
ヨナスは紙を手元へまとめた。もう少し読んでいたい気持ちはあったが、同じところを見続けても、保管されているものが今夜のうちに分かるわけではない。
「分かりました」
資料を収めて立つと、カイルも端末を閉じた。二人で作業室を出る時、ヨナスはもう一度机へ目を向けたが、戻って紙を広げることはしなかった。
*
食事を取る部屋には、ほかの三人が先に来ていた。マティアスは机に置いていた自分のものを寄せ、ヨナスの座る場所を空けた。
「終わりました?」
「はい。追加で聞くものを送ってもらいました」
「じゃあ、食べましょう。今日はこっちです」
示された席へヨナスが座ると、エレジも自分の器を手元へ寄せた。返答について何か話すかもしれないと思ったが、彼はまず用意されていた食事へ目を向けた。
カイルが隣へ座り、五人で食べ始めた。マティアスは午前中に案内してくれた整備担当者が、あの道をずいぶん早く歩いていたと話した。
「何度も通ってるんでしょうね」
「そうでしょう。私たちが地図を見てるところも、そのまま曲がってたわ」
リヒターが答えると、エレジも分岐の手前で一度立ち止まったことを思い出した。
「下りる時には、次に何が見えるか分かりました。登る時には、同じような木ばかりに見えたんですけど」
「戻る方が早かったですね」
ヨナスも顔を上げて答えた。エレジは頷き、道が狭くなっていたところについて話した。機材を持つと通りにくい場所も、今日は先に荷物の向きを変えられた。
ヨナスは彼女の話を聞き、自分も枝へ当てずに通れたと答えた。そこでマティアスが、もう覚えたつもりで次に違う道へ入ったら困ると言ったため、カイルは明日も確認してから進むよう返した。
エレジも笑いながら食事へ戻った。ヨナスが手元に資料を置いていないことには気づいていたが、そのことをわざわざ口にしようとは思わなかった。
食べ終える頃、ヨナスが明朝は少し早く作業室へ行くと伝えた。追加の返答を待つためではなく、今日軍曹から受け取った記録を、出発前に見直しておきたいという。
「ああ。俺も行く」
カイルが答えると、彼は頷いた。エレジも自分の地図を揃えておくと伝え、マティアスは車両へ積むものが決まったら呼んでほしいと続けた。
片づけを終えると、それぞれが部屋へ戻った。ヨナスは作業室に寄り、明日使う資料と、リートハーフェンから届いた回答を別々に収めた。
新しい返答にもう一度目を通すと、引き継ぎ先の名前は、最初に読んだ時と同じところにあった。そこへ送る照会は済んでいる。
ヨナスは紙を閉じ、明日の作業に使うものを机の手前へ置いた。灯りを消して部屋を出る前に、追加で持っていく機材がないことを確かめた。




