九十四、今彼の本音
「…………………………澄?」
私は目の前に彼がいることが信じられなかった。こちらに帰る連絡が無いのはもちろん、そんなスケジュールにはなってなかったはずだ。私はまさかの色んな事態に頭が困惑していた。そして、私と同じくらい宮野さんもポカンと、していた。
「…………え、あ、あなた誰で…………っ!?」
『はい、はい、あなたですね、騒いでるのは……。』
宮野さんの背後からマンションの警備員さん達がきて、彼を後ろから、がしっと取り押さえていた。
「……は、離して……っください!ストーカーとかじゃ、ないんです!」
『うんうん、それは後で聞きますね。どうします?警察は……?』
「おねがいし……」
私は慌てて澄の腕を握りしめて彼の発言を止めた。
「待ってください!……一旦、そちらで話を聞くだけにしてくれませんか?」
澄が警察にお願いしようとしていたので、警備員さん達はどちらの意見を聞くべきか分からず、私と澄を交互に見て、お二人で決めてくださいと言って少しだけ離れた先に宮野さん連れていった。そして彼は私の手を自分の腕から外し、信じられないという顔でこちらを見た。
「……………………はぁ……?……何言ってんの?」
私は彼の声の低さにビクッとした。たぶん相当キレている。
「…………澄……ごめん、私が……色々ハッキリしなかったっていうのもあるし……それにこの人から……仕事だけは……さすがに取れない。」
「………………。」
「ごめん、職場でもめ事を起こしたくないの……お願いします。」
私は澄に深々と頭を下げた。しばらく沈黙が続いたが、ふーっという呆れた溜め息が頭上から聞こえた後、傘持ってここにいてと言いながら私から離れた。何やら警備員さん達に何かを話し、宮野さんにも何かをはなしかけていた。彼は少しだけ冷静になったのか顔面蒼白ではあったが、澄の問いかけにコクンコクンと頷いていた。そして話がまとまったのか、澄は真っ直ぐ私に近づいてきた。
「後は任せたから、俺たちは一旦帰ろう。」
私はそう言われて、素直に彼に傘を渡してそのままあとに続いた。彼はゆっくり歩いてはくれていたが、一言も喋らなかった。重い沈黙が続きながら、マンションに着き、ひたすら目的の我が家まで歩き続けた。そして部屋の前に着き、扉の鍵を開けて、一緒に玄関に入った。私はもちろんびしょびしょだが、彼も屋根の下に移動して話していたとはいえ、かなり濡れていた。私は靴を脱いで、荷物を一旦置いて、浴室に向かおうとした。
「風邪ひくとまずいよね?!お湯沸かすから!」
「…………………………。」
「あと、タオル!……すぐに持ってくるから待っててっ!」
「いや………………いい。」
私が彼にそう言われて初めて玄関をちゃんと見ると、澄は何故か靴も脱がずにその場に立ち尽くしていた。
「……え、……あ、、、何か忘れ物した?」
「してない。」
「あ、そう……あ、あー!?温かい飲み物なら、私すぐに用意するからっ!」
「いらない。」
澄はただ淡々と私の問いかけに答えるばかりで、全然会話が成り立っていなかった。なんならこちらじゃなくて、目線は廊下に向かっていて、話す気も無さそうに見える。私はさすがにおかしいと思い、玄関に戻って、澄の前に立った。
「………………澄?」
「…………………………俺、今日は、どっか別の場所で過ごすわ。」
「は?」
「香奈は明日休み?」
「や、休み……じゃなくて、何言ってるの?」
私はとっさに澄の腕をまた掴んだ。さっきそとで掴んだ時よりかなり強めに掴んだ。なぜなら彼は今にもその場を立ち去ろうとしているような気がして、私はきがきじゃなかった。
「ねぇ?なんで?」
「…………………………。」
「ねぇ……言ってくれないと私も分からないよ……。」
「…………………………。」
「澄?」
私が彼の腕を揺らしながら、彼に問い詰めるが、何故か一向に口を開かない。こんなこと今まで無かったので、私はただただ話しかけるしかなかった。すると急に彼は一回息を深く深く吐くと、やっとちゃんとこちらに顔を向けた。
「無理だ。」
「………………え?」
「今、香奈と、冷静に一緒にいれない。話せない。」
「……それ……は、、、どういう意味……?」
私はまさかの返しに泣きそうになるのを堪えながら、声が震えてるのを誤魔化しつつそう聞き返した。
「そのままの意味だけど……。」
「そうじゃなくて、、、。」
「もう一旦離して。」
「嫌。」
澄は私の手を振りほどこうとしたが、私は離してなるものかとより力をこめた。
「……かな、お願いだから、離して。」
「いや、絶対に離さない!」
「あした……明日必ずまた来るから……。」
「やだ……ちゃんと理由を言ってくれるまで離さない。」
私は歯を食い縛りながら、彼の腕を握りしめながら、涙を堪えながら、必死に何とか抵抗した。すると観念したのか彼はまた呼吸を整える為に、深く息を吐いた。
「…………………………さっき、、、。」
「………………。」
「あいつとキスしてた…………。」
「っ!!……それは無理やりあっちがっ!」
「そんなの分かってるわ!!!」
私は澄がいきなり叫んだのにビクッとしてしまい、一瞬手を緩めてしまった。そして彼はその一瞬のすきで私に背を向けた。私はその行動に慌てて今度は背中にしがみついた。
「……ち、違うよ?……」
「だから分かってる!……香奈が浮気したとかを疑ってるんじゃない。」
「じゃあ、、何が……。」
「俺に頼るのそんなに嫌なの?」
私は想像してなかった質問に固まってしまった。今、澄は私に何て言った……。
「……香奈が甘えたり、俺に頼るのはいつなんだよ。」
「………………。」
「こんなことになってんなら、早く知りたかった…………こんなことになるなら、プロポーズして連れてけば良かったわ……ってそんなことばっか考えてる……それにあいつが触ってたところ……全部っ、、、、……。」
私はその一言で我慢の糸がプチっと切れた。涙が溢れ出してきた。
「ごめん……なさい…。」
「…………いや、いい、……香奈だけが悪い訳じゃない…………だけど、今は無理……全然優しくできる気がしない……傷つけたくない……だから離して?」
「………………………………やだ。」
「マジで、離して……イライラしてんの分かってるだろ。」
「うん。」
「……なら、、。」
「それでもいい。優しくしなくていい。」
「…………………………は?」
「…………澄に冷たくされても、何でもいい。」
「……何、、、言ってんの?」
「…………置いてかないでよ。」
「……………………………………。」
「優しくしてくれなくてもいいから……、酷くしてもいいから…………そばに居て…よぉ…」
私が泣きながら言ったその一言が彼にどう伝わったかは分からなかった。が、澄は急にこちらを向き、私の口をキスで塞いできた。私は急な行動に呼吸が追い付かず、呼吸困難になった。しかしそんなのお構いなしに彼は私の衣服を脱がし始めた。そして痛みと共に彼が中に入ってきた。私は泣きながら彼に必死にしがみついて、そのままの彼を受け入れた。




