四十五、雑誌デビューの私
3月になり私はほとんど大学には行かず、ほぼバイトの日々を送っていた。彼との温泉旅行が控えているので、なるべくお金を稼ごうと必死に働いた。彼は自分が社会人だからという理由で、大体のお金を出してくれている。来年は私も社会人だから、まだ対等ではいれるが新卒の年収なんてたかが知れてる。今回の旅費も彼が払ってしまったと言われ、金額も教えてもらえずじまいだった。せめて滞在中のお金くらいは払わせてもらおうと思っているが、何せ行く場所が当日まで秘密と言われてしまい、いくらあれば足りるのか見当がつかない。私はバイトの休憩室でそんなことを考えながら、スマホをいじっていた。すると美咲から電話がきた。
「もしもし……なに?」
「ねぇねぇ、今日はバイト何時まで?」
「夕方……6時かな……なんで?」
「久しぶりにかんちゃんの家、泊まりに行きたいんだけど……?」
「…………水河さんと何かあった?」
先日澄経由で水河さんに紹介したいと言われて、美咲を紹介したのだった。
「そう!聞いてほしいの!」
「おぉ……じゃあ、最寄り駅に6時半で。」
私がそう返事をすると美咲が分かったと元気よく返事をして電話を切った。私は休憩室の時計を確認し、あと数時間頑張ろうと席を立った。
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バイトが終わり駅の改札を抜けると、美咲がコンビニで雑誌を読みながら待っていた。私はそのままコンビニに入り、美咲に声をかけた。
「おーい、お待たせしてごめんね……?」
「お、お疲れ様~。」
「夕飯食べた?鍋の残りならあるんだけど食べる?」
「食べる!じゃあお酒私が手土産に買うから選ぼう~。」
「やったぁ~。」
私達はかごを持って、好きなものを選んで買い、歩きながら私の家に向かった。
まだ春になりつつあるとはいえ、冷えるので私はお風呂をすぐに用意し、美咲が入ってる間に鍋の準備をした。途中で美咲と交代し、私がお風呂に浸かった。そして私達は準備万端になり、乾杯と言いながら夜の女子会を始めた。
「あぁー、バイト終わりのビール染みる~。」
「かんちゃんの鍋、美味しい~やっぱ冬は鍋だね。」
「だよね~。」
私もふうふうしながら、鍋を一口食べてモグモグしながら、美咲に今日の相談事を問いかけた。
「むぐ……で?……何?」
「いや~水河さんってさぁ…………怖くない?」
「え?!怖い!?……あんまイメージないけど……。」
「あぁ~、、その怖いじゃなくて、慣れすぎてて怖い。」
私はあぁと言いながら、ビールを飲んだ。
「なんか、優しいし、面白いんだけど……女の子の喜ぶことを知り尽くしてて……チャラい?かなと……。」
(まぁ朝比奈がとっかえ、ひっかえと言ってた気がするなぁ……)
私も正直水河さんを知り尽くしてる訳ではないので、澄からお願いされないかぎり紹介するつもりはなかったので、返答が悩ましかった。
「…………んん~、美咲はどうしたいの……?」
「いや~、付き合う……はまだちょっと抵抗があるけど、ご飯くらいは行こうかな……って。」
「いいんじゃない?水河さん、チャラいかもしれないけど、嫌がることはしないし、友達で終わっても楽しい人だと思うから……。」
「確かに……そうだよね!」
「心配ならさ、朝比奈と仁美誘えばいいじゃん!」
「かんちゃんは行かないの……?」
「澄……が嫌がるかな……はは。」
私は少し苦笑いしながら、鍋をモグモグした。水河さんと食事なんて言ったら、何を言われるか分からないし、その後の彼のケアを考えると面倒なのは間違いない。
「ふぅん……そっか、じゃあ仁美に聞いてみようかな……?」
「そうしな、そうしな。」
私はうんうんと頷きながら、鍋のおかわりを自分のお皿によそいだ。美咲のお皿も空になりそうだったので、一緒によそいで渡そうとしたら、美咲がため息をついた。
「仁美……は前々からだから別にだけど、かんちゃんもなんだかんだと長く続いてるよね~。」
「お陰様で。」
「仁美はもうすぐだけど、案外かんちゃんも早いんだろうな……結婚。」
私は美咲の結婚話に驚き、白菜がへんなところに入ってぐっと咳き込んだ。そんな私を見て、美咲が背中をさすりながら大丈夫と聞いてきた。
「ゴホッ、ゲホッ……気が……早くない?!」
「嘘つけ……どうせ、秒読みなんでしょ……2人して私を置いてくんだから……。」
「いやいやいやいや……そんな話一言も出てないし……。」
「何言ってんの……あんな、正々堂々と雑誌で公表しちゃったくせに……白々しい……。」
「雑誌……?」
私は美咲が何の事を言っているのかさっぱり分からなかった。そんなポカンとしている私を見て、美咲がチューハイを飲む手を止めて、あちらもポカンとし始めた。
「…………え、かんちゃん、読んでないの……?」
「ごめん、何の事か……さっぱり分からないかも……。」
「マジで言ってんの?」
「マジで言ってる。」
私の返答を聞いて、美咲が急にその場でスマホをとり、何かを調べ始めた。
「……たぶん、読めた……気が……あった!」
美咲はそう言うと、私に自分のスマホを渡してきた。
私はそれを受け取り画面を見た。有名な動画サイトアプリでとある雑誌の表紙が表示されていた。
(これ……前に澄が表紙になったことがある女性誌だ……)
今日から発売の誌面の内容は毎日の身体と食事というテーマだった。私はページをめくり目次を確認し、澄のインタビュー記事のページを開いた。
Q.日頃の食事はどんなことを気にしていますか。
A.(神山選手以下:神)アスリートなら皆さんそうだと思いますけど、低脂質、高タンパクな食事ですかね。あとは珈琲とかも飲みますが、カフェインを摂りすぎて睡眠の妨げにならないようにしたりもしてます。あとは去年から添加物もなるべく控えるようにしてます。
(スタッフ以下:ス)おぉ、やはりストイックな神山選手らしい返答ですね。でも毎日の積み重ねが大事ということでしょうか。
(神)そうっすね。
(ス)ただよく読者様にも言われるんですが、始めることより続けることが大変って皆さん言われるんですが、神山選手はどうやって継続されてますか。特にオフシーズンとか1人で色々とケアされるのは大変じゃないですか。
(神)…………1人じゃないから、ですかね。
(ス)あ、やはり専用のスタッフの方を雇われてるということでしょうか。
(神)…………確かにリーグ中は専任スタッフの指導もありますが、プライベートやオフシーズンは彼女が献身的にサポートしてくれています。
(ス)…………え、これいきなりインタビューで答えて大丈夫なやつですか。関係者の方もあたふたしてるようですが……。
(神)……アイドルでもないですし……この間みたいな変な事を書かれたり、事実無根な内容になるなら、普通に話します。
私はここまで読んで、スマホから顔をあげ、美咲を見た。
「……私……いま、衝撃……が走っている……。」
「いや、一番の衝撃は神山ファンだろ。」
私は確かにと納得して、またスマホに目を向けた。
(ス)えー……っと、どうしましょうか。食事よりそっちのほうが皆さん気になってきてしまっているようですが……内容変えたくなりますね。
(神)内容は変えたらマズイんじゃないですか。
(ス)……ですよね。そしたら、、彼女さんはどんなメニューでサポートしてくれますか。
(神)たまたま彼女が栄養管理に詳しくて、知識が豊富な人なんです。だからグルテンフリー、ビーガンなど様々な料理を作ってくれてます。たまにデザートも用意してくれてるんで、無理せず続けられてるのは彼女のお陰です。
(ス)献身的な方なんですね。羨ましいです。
(神)俺には勿体ないくらい素敵な人です。
(ス)え、、、神山選手って惚気るんですね。今の笑顔が誌面がゆえに、ファンにお見せできなくて残念です。
(神)これは惚気になるんですか……ただ彼女にはあんまり笑顔を人に見せないでって言われてるんで好都合です。
(ス)彼女さんもライバルを増やしたくないんでしょうね……気持ちが分かります。
(神)どっちかっていうと、俺のがライバル多くて困ってます……。
私はそこまで読んだだけでお腹いっぱいになった。スタッフの人も内容が食事から離れはしないが、私についての情報を何とかいれこもうとしてる感がスゴかった。私は美咲にありがとうと言いながらスマホを渡して、ビールを口にふくんだ。
「……かんちゃん?大丈夫……?」
「ど、動悸がすごいです。」
美咲は私が顔を赤くしながらワナワナしているのを見て、後で神山君に連絡してみたらと笑いながら鍋をまた食べ始めた。




