三十七、各々の準備
「朝比奈さん……今、話しかけてもいいっすか。」
「お……お前……ウェイト……トレーニング……中にわざとだろ……?」
朝比奈さんは俺の目の前で、寝ながらダンベルを上下に上げ下げしていた。
「いや……たまたま見つけたんで……。」
「……ま、待つって……選択……ねぇのか、よ。」
「確かに……さーせん。」
「ちょ……っと、待ってろ…………はぁーっ!」
朝比奈さんは最後の一回を終えて脱力した。俺はお疲れ様ですと手を伸ばすと、どーもと言いながらその手をとり体をおこした。
「……はぁ、、、で?なんだよ?」
「仁美さんと温泉って行ったことあります?」
「……温泉……?あー、あるよ。近場も遠出も……。」
朝比奈さんはそう言いながら、ベンチに腰かけてドリンクを飲み始めた。
「じゃあオススメ教えてくださいよ。」
「………………誰と行くんだ?」
「香奈さん。」
俺がそう答えると朝比奈さんはニヤニヤしながらこちらを見た。
「へ~……土産はあるんだろうな?」
「任せてください。」
俺がそう言うと、ならいいぜと言いながら朝比奈さんがドリンクを飲みながらスマホで調べ始めた。しかし途中でふと何かを思ったのか手が止まった。
「…………神山君……?」
「はい。」
「その旅行は……一泊?」
「はい。」
「そうか…………あの今回は大丈夫だよね?」
「何がですか?」
「……そういうつもり……多少はあるんだろ?」
「…………?」
朝比奈さんは周りをキョロキョロ見回した後に、俺の耳に耳打ちしてきた。
「…………あぁ、そっすね……まぁ別にどっちでもいいっすけど……。」
「お前……よくそんなんで彼女と旅行行けんな。」
「だって別にそれする為に行く訳じゃないし……。」
「いやいや、温泉よ?浴衣よ?……我慢できたらお前、聖人かよ。」
「……成人?」
「……あ、うん、神山君のせいじんはたぶん違うよ?」
「それより早く教えてくれません?俺まだトレーニングするんで。」
俺は全然教えてくれねぇなと思い、諦めて隣のベンチに腰かけた。パパっと聞いて自分もトレーニングしようと思ってたのに、すでに計画が崩れ始めている。そんな俺の気持ちは露知らず、朝比奈さんはスマホを触りながらまた話し始めた。
「…………神山さぁ…………もしかしなくても……まだ一回もないのか……?」
「…………さっきの話、まだ続けんの?」
「おっまえ!!重要よ?!特に君は恋愛初心者さんなんだからっ!」
「……はぁ、、、ないですよ。」
(今さらだけど、こういう話って朝比奈さんに話したら、香奈さんに怒られるかな……?)
「…………そうか……。」
朝比奈さんは真面目というか、神妙な顔をしながら、手を止めて考え始めた。
(まじで、早くしてくれねぇかな……?聞くタイミング間違えたかもな……。)
「……神山……。」
「………………はーい。」
俺は付き合わないと長引くんだろうなと、諦めながら適当に返事した。
「……勉強用に俺のベストセレクション貸してやろうか……?」
「………べんきょう……。」
「やっぱ文字の知識だけじゃ、難しいだろ!?」
「もじ?………………あぁ、まぁ……はぃ。」
「よしっ!トレーニング終わったら、俺の家に寄れ!」
「…………は?」
「よしっ!それで飯食いながら、旅行決めようぜ!」
「…………い?」
「神山もパパっとやっちゃえよ?!」
「……………………えぇ。」
朝比奈さんは何故かルンルンしながらマシーンに向かった。俺はいまさら声をかけた自分を後悔しながら重い腰をゆっくりあげトレーニングにとりかかった。
――――――――――――――――
「美咲は……下着ってどこで買ってる……?」
私がナポリタンを永遠にくるくるしながら、目の前の彼女に聞くと、美咲は目をまん丸にしながらグラタンを食べている手を止めた。
「…………いま、なんて……?」
「だ、だから………………下着ってどこで……買ってる?」
「え、、つまり、そういうこと……?」
美咲はグラタンをのっけたスプーンを置いて、手を組ながら聞いてきた。
「………………と、思って……るんだけど……。」
私がおずおずしながらそう答えると、美咲は次第にニヤニヤしながらまじまじと見てきた。
「でっでも!……それはあちら次第でもあるわけで!」
私は美咲に慌てて訂正をした。
「ふぅ~ん?」
「そ、備えあれば憂いなしって言うじゃない?!」
「ほぉ~?」
「…………だ、だ、だってっ……!」
「なによ。」
「さすがにっ!………………そろそろ……そういう意識は……してほしいぃ……。」
私はだんだん自分が何を言いたいのかよく分からなくなってしまい、ナポリタンを巻いたフォークを置いて、恥ずかしくなって顔を隠した。
「可愛いかよ、かんちゃん。」
「……私、こんな、ゆっくりなテンポで、事が運ぶの初めて過ぎて……もどかしい!」
「あ、意外と雄みな発言。」
「人間には三大欲求があるんです!」
「そしていきなりの生物学理論。」
私は近くにあったグラスに入った水を一気に飲み干した。
「まぁまぁ、かんちゃん……この後、行きましょうよ。」
「お店?」
私がそう聞くと美咲はコクコク頷いた。
「どっち路線でいく?可愛いかセクシーか。」
「………………ど、どっちだと思う……?」
「…………んん~、こればっかりは朝比奈さんに聞けないし……。」
「ぜぇっ、、たいに、やめて!!」
私は慌ててそう言うと、それはしませんよと美咲が笑いながら返事をした。そして何かが閃いたのかスマホで調べ始めた。私は何だろうと首をかしげながら、彼女の行動を眺めていた。
「……お!あった、あった!」
「何が……?」
「何かのインタビュー記事。」
「は?」
美咲はそう言うと、スマホの画面を私に提示してきた。私は美咲と一緒にその内容を読んでみた。
「まぁ世間体向けの返答な気がするけど……。」
私は読みながらそう言うと、まぁまぁと言いながら美咲が話し始めた。
「何もないよりはいいでしょ?」
「そうだけど……。」
「うん、内容的に可愛いにしましょう!」
「…………なんて、安易な……。」
私は大丈夫かなと少し不安になっていると、美咲はまたグラタンを食べ始めた。
「さ、かんちゃん、ナポリタンをすすっちゃって!」
私より美咲のほうが興奮しているのはなぜだろうと思いながら、言われた通り私も残りのナポリタンを食べ始めた。




