三十五、母の質問
私達はコンビニの前でしばらく会話をしていたら、朝比奈がこの後どうするか聞いてきた。
「初詣行くのはいいにしても、こんな年始に店ってやってんのか?」
「あぁ、確かにね、ハル調べてみなよ。」
2人が朝比奈のスマホを見ながら検索を始めると、弟の尚がいきなりまさかの提案をしてきた。
「あ、じゃあ、俺の家で出前しましょうよ!」
「はい?!」
(何を言ってるんだこいつ…………)
「寿司ならやってますよ!あ、ピザもやってるかな?!」
「ちょ、ちょっと尚?!……さすがに母さんに聞かないとさ。」
「おーそうだな、電話してくるわ!」
「……ち、ちが、ちょっと!」
尚は私の声が届いてないのか、すぐさま母に電話をし始めた。私は何で急に彼氏を実家に連れていく流れになってしまってるんだと頭を抱えた。それを見た仁美はニヤニヤしながら、私の耳元で話しかけてきた。
「……香奈も、挨拶してもらえば?」
「…………っ!」
「だっていい機会じゃん?忙しい仕事だから、なかなかタイミングないとさ。」
「いやいや、別に結婚とか同棲とかする訳でもないんだから、いらないよ!」
「別にいいっすよ、挨拶。」
後ろを振り返るといつの間にか彼が近くにいた。
「……ちょっと、こっちきて!」
私は澄の腕を思いっきり引っ張って、駐車場のすみに移動した。
「ね、いいんだよ無理しなくて!」
「無理……とは?」
「だって両親に会うなんて、特にお母さんは毎回質問責めにしちゃうから――――。」
「は?……毎回……?今のって、元彼の話?」
「……あ。」
「へぇ……元彼達はよくて、俺はダメなんだ。」
「違う違う、そんなんじゃ……。」
「ぜってえ、挨拶しないとですね。」
彼は悪魔のような笑顔で私にそう言ってきた。完全に私が墓穴を掘ってしまった。そんなことを知らない弟は遠くから大きい丸を腕で表していた。
それから私達は近所の神社に参拝した後、私の自宅に向かうことになった。
「あの神山さんって、いつもどんなトレーニングしてるんですか?!」
私の弟はあれからずっと澄に、マシンガントークで話を続けている。澄も弟と分かってから優しく答えているので、弟が嬉しくてしょうがないようだった。
「尚、めっちゃ神山ファンなんだな。」
私の隣で朝比奈が呑気にそう言ってきた。
「ねー、将来的に味方が多いほうがいいもんね。」
また呑気に仁美もそう言ってきた。
「あんたら、、、楽しんでるでしょ?」
『だいせーかーい!!』
2人は声を揃えて笑いながら言ってきた。
「しかも神山が彼氏って、尚に伝え損ねてるよな。」
「……あ、確かに……わー、より騒がしくなるやつじゃん……やだなぁ。」
「あー、楽しみだな。」
「朝比奈……あんた寿司代覚悟しときなよ?」
「げ、忘れてた……カード使えっかなぁ……。」
私の言葉に朝比奈は絶句しながら財布のお金を確認していた。そんなやり取りをしながら歩いていると、私の実家の前に到着した。何も考えていない尚はどうぞどうぞと皆を案内していた。私はこれからの時間が不安でしょうがないと思いながら家の門を閉めた。
「お母さーん!ただいま~!」
「はいはーい、おかえりなさい、あといらっしゃい。」
弟が呼ぶとリビングから、母が玄関までお出迎えにきた。
「急にすみません!おばさん、明けましておめでとうございます。」
「あ、朝比奈君、明けましておめでとうございます。いつもテレビで観てるわよ?」
「あははー、ありがとうございまーす。」
「それに仁美ちゃんも久しぶりね!」
「ご無沙汰してまーす。」
「いえいえこちら………え、、、ぎゃーっ!!!」
母が急に叫び始めたので、私達は全員ビクッとしてしまった。
「か、神山澄がいるぅ!!!カッコいいーっ!!」
(私の家族は何故にみんな叫ぶのだろうか……?そしてミーハーすぎないか……。)
「初めまして。香奈さんとお付き合いさせていただいてる神山澄です。」
「………………ちょっ!」
私はいきなりまさかの彼氏発言に驚いた。もう少し徐々に話していくとかはなかったのだろうか。しかしよく見ると、私以上に弟と母がビックリしすぎて硬直していた。そして始めに弟がゆっくりと喋り始めた。
「神山さんと……姉ちゃんが……付き合って…………る?」
私は2人の視線に対して、はいと小さく返事した。すると今度は母が口を開いた。
「…………お、お赤飯炊かなきゃっ!」
「何でよ!何言ってんの!?お母さん、落ち着いて!」
「落ち着けないわよ!新年早々、こんなイケメンが娘の彼氏だなんて!……なんでこんな日にお父さんは飲み歩いてるの~!?」
「もーいいからっ!!……とりあえず、皆をリビングに通して!」
私は靴を脱いで母の背中を押した。
「うわー!俺今日から神山さんのこと、澄君って呼んでいいっすか?!」
「いいよ。」
「尚!!」
「別にいいじゃーん!ねー?澄くーん?」
彼はクスクス笑いながらうんいいよ、と笑っていた。その後ろでさらに朝比奈と仁美もクスクス笑っていたので、私は心の中で面白がりやがってと悪態をついた。
私はとりあえず皆をこたつテーブルに案内して、キッチンにいる母のお茶の準備を手伝い始めた。
「陽翔くん、寿司頼もう!腹減った!」
「尚……お前、遠慮って言葉しらねぇの?」
調子のいい男2人は早々にスマホで出前を探し始めていた。それを仁美と澄は眺めながら世間話をしているようだった。そんなそちらのやり取りをチラチラ見ながら、母はさっそく私にこそこそと話しかけてきた。
「ちょっと、香奈!何で言わなかったのよ?!」
「…………2人が騒ぐからでしょ……。」
「バカっ!騒がない人いないわよ!」
母はそう言いながら、私の背中をバシバシと叩いてきた。
「……お母さん、余計なこと言わないでよ?」
「なに?言わないわよ。」
「変なこと聞かないでよ?」
「もー、野暮なことしないわよ。」
母はそう言うとお待たせしました~と、今まで聞いたことがない甲高い声で、皆のお茶を持ってこたつテーブルに向かった。みんなペコペコとありがとうございますと言いながら、お茶を受け取っていた。
「ありがとうございます。」
澄が母にそう言いながら、お茶を受け取ると母はキラキラした目をしながら彼をじっと見ていた。
「……澄くん?」
「はい?」
「香奈のどこに惹かれたの?」
「お母さん?!!」
私はキッチンから思わず叫んだ。さっきと言ってることやってること違うじゃん。
「……えっと……そうですね……。」
「…………ちょ、澄?!答えないでいいから!」
「もう、静かにしててよ、お母さん聞きたい。」
「さっきの口約束は?!」
私はバタバタと走って母を叱った。
「それくらい聞いたっていいじゃない。」
「それが余計なんだってばっ!」
「澄君みたいなイケメン顔の孫が産まれたら、母さん幸せすぎて死んじゃう。」
「お母さん?!話が飛躍してるからやめて!」
私はさっきは弟で恥をかいたのに、今度は親で恥をかくなんてと慌てて母を止めた。
「…………香奈さんみたいなお孫さんのほうが、俺は可愛いと思いますけど……?」
「へ?」
しかし私とは裏腹に彼は真面目な顔をして母に返事を返してきた。その言葉を聞いた瞬間、母はキャー澄君ってやるわねぇと彼を叩き始めた。彼はどもと言いながら何食わぬ顔でいた。周りはニヤニヤしながら私を見てきたので、私はもうやだと顔を隠した。




