十九、作戦の実行
「水河さんすみません。車で送って貰っちゃって。」
私は神山のマンションの前で水河さんにお礼を言った。
「あ、全然いいよ。荷物は大丈夫?」
「はい!力はあるほうなんで!」
私はガッツポーズしながらアピールした。水河さんは笑いながらたくましいねと褒めてくれた。
「香奈ちゃん。」
「はい?」
「神山のこと、よろしくね。」
「……え。」
「あいつあんな感じだからさ、よく先輩達に嫌味言われててさ、だから香奈ちゃん見習って少し愛想ってやつを教えてあげて。」
「あは、分かりました。」
そう私が返事すると、水河さんは颯爽と去っていった。なんだかんだ面倒見がいい人なんだろうな。私はそのまま神山から受け取っていたカードキーで部屋へと向かった。もう2ヶ月も経つと慣れたものですいすい向かえた。扉の前に着くと、またカードキーをかざしてロックを解除した。私は玄関に着くと荷物を床に置いた。
「ふぅ、なかなか、、重かった。」
「呼んでくれれば良かったのに……。」
廊下から声がしたので顔をあげると、帰宅したばかりの神山が立っていた。
「あれ、早いね。」
「逆にそっちが遅いっす……。」
「あー、ごめんね。」
私は水河さんと写真を見ながら話に花を咲かせてしまったのが原因だなと思いながらも言えなかった。
「……ん?」
「あ、ううん。ご飯まだ?」
私は靴を脱ぎながら彼にそう聞くと、彼は後ろから抱き締めてきた。
「…………っ!」
「腹減りました……今日は何にするんですか?」
「きょ、今日はタコライスにしようかな……。」
「やば……香奈さんのタコライス、好き。」
「……そっ、そっか!じゃあ、急いで作るね。」
「ん。」
彼は頭をポンポンと優しく叩くと買った袋を持ってリビングに向かった。
「さ、作戦通用するんだろうか……。」
私はいざ決戦だという気持ちでリビングに向かった。リビングに着いて、私はまず上着を脱ぎ始めた。彼はキッチンで買ったものを出していた。それを確認し、私はわざと声を出してこっちに気を向かせてみた。
「なんか、部屋……暑いね?」
「そうっすか。温度変えてないですけど……。」
「あれ?じゃあ、私が暑いだけかなぁ?」
私はさっき3人で選んできたタイトでミニなニットワンピース姿を披露した。正直こんな洋服買ったことない。さすがに生足は厳しかったので、肌が少し透けて見える黒ストッキングにした。男性には見えそうで見えないのがいいってネットに書いてあった。すると彼はこっちに近付いてきた。
「…………えっ。」
「香奈さん……。」
(え、効果はやくない、逆に心の準備が……。)
「な、なに?」
「上着、俺の部屋にかけるんで下さい。」
「へ?」
「ん?それお気に入りのやつですよね、シワにならないようにハンガーにかけますよ。」
「ありがとう。」
私がお礼を言うと彼は部屋に行ってしまった。私はテーブルに倒れた。やはり手強いと思いながら、ゆっくりとキッチンに向かった。
―――――――――――――
私は次の作戦に向けて彼をチラ見しながら作っていた。彼はダイニングテーブルでいつも通り、眼鏡をかけながら動画を見ていた。私は鍋を焦がさないように火を止めて、彼の背後に近付いた。そしてそっと彼の首に手を回し抱きついた。
「わ、どうしたんすか?」
「集中してるなぁって思って……。」
「……まぁ、それなりに。」
私は背中にぴったり引っ付いた。これは仁美曰く、効果テキメンだと言っていた。ちょっと朝比奈と同類と思うと複雑な気持ちになるけど背に腹は代えられない。
「…………。」
(え、反応なし……?)
私は少しだけ彼の横顔を覗いてみた。神山はいつも通りの真剣な顔でじっと見ていた。私はこれ逆に邪魔して嫌がられてるのではという不安がだんだんつのってきてしまった。
「……ごめん……なさい。邪魔だよね……。」
私はショボンとしながら離れようとすると、彼は腕を掴んできた。
「…………っ!」
「離れんの?」
「……え、だって邪魔しちゃ……。」
「邪魔じゃないっすよ。むしろ寒かったからちょうどいい。」
彼はそう言うと、そのままさすりながら手をスライドして私の手の甲を握りしめた。私は一気に自分の身体が熱くなった。
「ご、ご飯食べてないからだよね!今、用意するから待っててっ!」
「あ、確かに。それでか。腹減った~。」
彼は何食わぬ顔でパソコンを閉じて、食器の準備を始めた。
(ぜ、全然ダメだ……むしろ私が殺られてしまって、もはや負け戦……2人に謝らないといけなくなりそう。)
「……お茶温かいの入れますか?」
「あ、うん。お願いします。」
私は彼の見えないところで胸に手を当てて何とか心臓を落ち着かせた。
夕飯を食べ終えて時計をチラッと見ると夜の9時になろうとしていた。私はそろそろ帰らないとだなと思いながら食器を洗っていた。
「俺、食器拭いちゃいますね。」
「ありがとう。」
「そう言えば……。」
「うん?」
「今日は珍しい格好してますね……。」
「……へ?」
「友達と遊ぶ用ですか……?」
(いえ、あなたを誘惑する用です。)
「…………に、似合わないかな……?」
私は食器を洗いながら彼に聞いてみた。すると彼は何故か悩み出した。そんなに返答に困るほど好みじゃないのか。
「………………難しいっすね。」
「……………はは。」
私は彼の返答に少し泣きそうになった。背伸びしてるの似合わなかったのかも。
「どっちもいい……どちらでもいい?」
「………はい?」
「いや、香奈さんなら、何でも?」
「何でも……?」
「はい。格好関係ないかなって。」
私は彼の言葉に脱力した。もう何をやっても通用しない気がしてきたところで、洗い物が終わった。
「私……帰るね。」
「送りますよ。」
「……うぅん。今日は……いい。」
「いや、危ないんで……。」
私はチラッと彼を見て最後の望みにかけてみることにした。濡れた手をタオルで拭いて、身体を彼の方に向けた。そして数歩近付いて、そのまま顔を上にあげて目を瞑った。私はもう自然にとか諦めて、いさぎよく彼を受け止める作戦に出た。正直恥ずかしい。今まで付き合ってた人とは受け身で生きてきた私にはこれが精一杯だった。
「………………。」
私は音沙汰が無いのでゆっくり目を開けた。彼はまさかの腕組みしながら私を眺めていた。
「………………。」
「………………ん?何か考え事してたんじゃ……。」
「………………。」
「どうしました?」
「………………い。」
「何て言いました?」
「しばらく神山に会わないっ!!!」
私はソファにある荷物だけ手に取り玄関に走った。しかしさすがに彼に追い付かれて腕を取られた。
「……急にどうし……。」
「私にはプラトニックは無理です!」
「……プ、プラ……何すか、それ。」
私は無神経な発言にいらっとして、彼のお腹に正拳突きをした。元々筋肉質だから大したことはなさそうだったが、急な攻撃は少し痛かったのかいてぇと言いながらお腹をさすっていた。
「~~~っ神山のばかーっ!」
私は彼にそう叫んで扉を勢いよく閉めて走り去った。




