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第拾玖話 狂気の始まる日

お待たせしました。一話でまとめたかったのですが、長くなりそうです・・・。


飛鳥ママの大冒険、始まり始まり~(`・ω・´)

第拾玖話 狂気の始まる日


 皆藤飛鳥は残り少なくなった夏休みを利用し、実家に戻ってきていた。某大学で院生として、最後の夏になる。就職はすでに薬品メーカーの研究員として内定をもらっており、来年からは遠くの都市に移り住む事になっていた。そのため、長期間の帰省はこれが最後になるので、課題の論文を早々に完成させて愛車のラパンを走らせて来たのである。滞在期間は2週間程だった。流石にそれ以上は後々に自分の首を絞める。実家に着くと、母と姉、それに姉の子供達が出迎えてくれた。姉は旦那が単身赴任なのをいい事に、子供達の夏休みは実家で過ごしているのだ。


「飛鳥叔母ちゃんこんにちはっ!」


玄関を開けた瞬間、ラパンの音に気付いて待ち構えていた甥の健太郎が走り寄ってくる。今年小学校に上がったばかりで、飛鳥にはよく懐いていた。


「飛鳥、早かったわね。ご飯食べたの?」


母親も健太郎の後ろから現れ、長旅をしてきた娘を労った。


「お母さんただいま。ご飯は途中のコンビニでサンドイッチ食べたから夕飯までは大丈夫よ。」


飛鳥は母に軽く挨拶を済ませると、運転用のシューズを玄関に脱ぎ捨てて旅行バッグを玄関に置くと茶の間へ向かった。姉は妹などお構いなしに娘の花梨を団扇で扇ぎながらお昼のワイドショーに釘付けになっていた。部屋の入り口に立った飛鳥をチラリと見ると「おかえり」とだけ言いTVに視線を戻す。相変わらずのドライさに苦笑しつつ、飛鳥はテーブルに座る。そこに母が麦茶を持って入ってきた。


弥生やよい、花梨はもう寝たの?」


「ええ、やっと寝たんだから騒がないでよ。健太郎、あんたも暴れちゃダメよ。」


姉の弥生は、どうやら今しがたやっと花梨を寝かしつけたようである。子育ても大変だなと飛鳥は他人事のように微笑んだ。あと何年かすれば、自分にも降りかかるであろう災難なのだろうが、今は独身の飛鳥にとっては他の国の物語のようでまったく自覚は無い。飛鳥は寝付いた姪を起こさないようにゆっくりと2階へ上がり荷物を置くと、夕飯まで健太郎と一緒に外で虫捕りや散歩をして久しぶりの故郷を満喫した。





 その夜は、母が腕を振るって食べきれないような料理を作り、仕事から戻ってきた父を交えて楽しい夕食になった。姉は花梨の口を拭いたり、行儀の悪い健太郎を叱ったりと忙しく動き回り、両親は帰省した娘の大学の話を聞きたがった。院は楽しいか、恋人は出来たのかなど、在り来たりの質問にタジタジになりながらも、久しぶりの我が家は楽しく、時間はあっと言う間に過ぎていった。夕食も終わり、健太郎とお風呂に入り髪を乾かしていると、母親の悲鳴が聞こえた。


「お母さんどうしたの?ゴキブリでもいた?」


姉が花梨を抱きながらそう言うと、父と母は食い入るようにTVの画面を見つめている。飛鳥も健太郎の頭にタオルを巻いて浴室から出てきたが、今度は姉もTVに張り付いている。先ほどの悲鳴の原因がTVの放送にあることは明白だったが、どうも様子がおかしい。


「どしたの?3人とも変よ・・・。」


飛鳥は健太郎の手を引きながら3人の興味が集中しているモニタに向かった。そこには、TVのリポーターらしき女性が何やら必死で中継をやっている背後で、人間がヨタヨタと歩き回っている。まるで酔っ払いの行進だった。


「何これ?どこかで変なお祭りでもしてんの?」


まだよく状況を理解していない飛鳥がそう呟くように誰とも無しに質問したが、3人とも固唾を飲んで見守っているだけ。


「ちょっと、どうしたのよ?お姉ちゃん、何なのよ?」


「黙ってっ!この放送見なさい・・・。」


「何なのよ・・・?これ映画?」


飛鳥は状況を理解出来ないが、TVの放送は常軌を逸しているものだと言う事は理解できた。よく昔のロードショーでやっていたようなゾンビの行進に似ている。だが、それはリポーターが居る時点で映画ではない。だけど、最近はこういうドキュメンタリーな手法で映画を作ることがある事も知っている。まぁ手の込んだドラマか何かなのかもしれないと高を括っていたのだ。


「映画じゃないわよっ!これは普通のニュース番組。現実に起こってる事よ・・・。それにこれ隣の県でも起こってるって・・・。」


「まっさかぁ!こんなこと現実に起こるわけ無いじゃない。性質の悪いTVのドラマよきっと。だって私が今日通ってきた街は普通だったわよ?何もこんな馬鹿げたホラー映画みたいなことはなかったわ。そんなの本気にしても無駄だって。」


「飛鳥、あんた少し黙って。これ本当だとしたら家に居ると危ないわよ・・・。お父さんっ!服とか食べ物まとめておいた方がいいんじゃないかしら?」


母親が本気にしない飛鳥を黙らせて、父親にとんでもない提案をしている。服や食べ物をまとめてどうしようと言うのだろうか。


「ちょっと・・・、お母さんもお姉ちゃんも本気なの?何がそんなに危ないわけ?」


「さっきチラッと映ったんだけど、その酔っ払いの集団、人を襲ったのよ。どうも噛み付くらしいのよね。飛鳥、あんたの荷物はまだそのままよね?それ玄関に持ってきといて。ちょっと様子見てから避難した方が良さそう。」


「避難って何処にっ!?いい加減にしなよお姉ちゃん。そんなTVに踊らされてどうしたのよっ!」


飛鳥が心底呆れたと言わんばかりに声を荒げた瞬間、リポーターが叫び声を上げて倒れた。その次の瞬間、カメラマンも倒れたのだろう。画面が大きく揺れて、カメラが地面に転がったらしい。ザザッというノイズ音の後に、それが画面にアップで映し出された。


『ひっ!!!』


女3人の絶句で漏れた悲鳴がハモる。父は目を見開いてTVから後退りした。それは信じがたい光景だった。顔の半分が食いちぎられたように肉が露出した若者が、先ほどまでマイクを握っていたリポーターの首筋に顔を埋めている。リポーターは半狂乱で暴れていた。


「ななななな何なのよこれええええええええっ!!!」


飛鳥の悲鳴が部屋中に轟く。誰もがTVから離れ、その光景から目が離せないでいる。押し倒されたリポーターの必死の形相とその首筋に頭を埋める特殊メイクのような顔の若者。必死で手を突っ張ってその若者を引き離そうとしていたリポーターだったが、グブッと言う嫌な音と共に信じられないという顔で固まってしまった。さらにグチュッという音がカメラに拾われ、次の瞬間画面が真っ赤に染まる。


「・・・何なのよ。これ一体何なの・・・?」


画面が報道局に切り替わった瞬間、飛鳥は小さく呻いた。





 夕飯の残りをタッパーに入れて、残っていた肉や野菜をサッと炒めると、それもタッパーに入れる。ジャーに残っていた白飯もおにぎりにすると、飛鳥は家を出た。父のワゴンにはすでに荷物をまとめた母と姉家族も乗り込んでいる。目的地は近くの小学校だ。先ほどからサイレンが鳴り響き、避難を促す町内放送がずっと流れている。これはただ事ではない。隣家でも避難は始まっており、この田舎ではあり得ないほど道が混雑していた。小学校近くに行くと、拡声器を持ったオッサンが車を降りて徒歩で運動場に入るように指示している。ささやかな運動場にはこれだけの車を停めるスペースが無いのだろう。路側帯が車で埋まっていく。飛鳥達もワゴンを乗り捨て、入り口から200mほどの距離を歩かざるを得なかった。運動場に大き目のトラックが数台停まっているのが見える。○○物流と書かれたそのトラックからは恐らく非常食のような物が運び込まれていた。


(これは思った以上に深刻な事態なのかもしれない。)


飛鳥はこの異常な空気を直に肌で感じ、事の重大さを理解した。運動場に面した出入り口では、町内会の人達が入る人間に名前を書かせている。誰が避難したか書かせているのだろう。


「お、皆藤さん。遅かったですな。奥さんに・・・、娘さん2人とお孫さんですか?」


見知ったオッサンが父を見つけると帳簿を持って寄ってきた。この事態に慣れてしまったのか、随分と落ち着いている。


「ええ、名前を書いたら何処に行けばよろしいのですかな?もう警察とか動いているんですか?」


父が口早に質問したが、オッサンは苦笑いをしながらボールペンで頭を掻いた。


「それが我々にもよく状況が分からんのですよ。住民の避難はまだ3割という所ですな。もう隣の市では死人が歩き回って人を食うとるそうですわ。奇病なのか何なのかいまいち状況がはっきりしない。隣の市から逃げてきたってご家族も多くてね・・・。すでに何人か怪我人も運び込まれておって。ただ凄い勢いで被害が広がっとるみたいで、対処が後手後手に回ってるようですな。まぁ非常食もたっぷり運ばれてますし、300人くらいなら10日くらい保つんじゃないでしょうか?憶測ですが・・・。」


「ううむ・・・。弥生と母さんは健太郎と花梨を連れて中に入っとけ。飛鳥、お前はここでお手伝いしなさい。」


「ええっ!私手伝うの・・・?」


「そうだ。怪我人も居るみたいだからお前看てやれ。」


父はそう言うと運動場を横切ってすでにバリケードを作り始めてる輪に加わってしまった。飛鳥は1人取り残されて、オッサンと一緒に名前の記入に奔走する羽目になってしまった。もう時刻は23時を回っていたが、人は次から次にやってくる。狭いと思っていた町内に、こんなに人が居たのかと驚いたが、お年寄りや子供を優先に体育館に誘導する。比較的若い男性は皆バリケード作りに回ってもらい、小学校はお祭りのような喧騒に包まれていた。そして0時を回る頃、やっと人の波が落ち着いてきた。鉄筋の小学校の1階の窓は全て木で打ち付けられ、狭い体育館は人で溢れ返っている。やっと仕事から解放された飛鳥は、別れた家族の姿を探したが、体育館には居なかった。校舎の中に避難したらしい。小学校は鉄柵で覆われていたので、バリケードがうまく機能すれば校舎内でも安全かもしれないが、やはり頑強な体育館に避難したい。呼びに行こうと校舎に向かおうとしたその時、体育館から大勢の人が校舎に向かって移動を開始した。


「何?なんで皆こっちに来るんだろう?」


不審に思った飛鳥は一先ず体育館の入り口に向かう。中からお年寄りや子供を中心にどんどん吐き出されていく。これはどう言う事なのだろうか。まだざわめきが聞こえる中、飛鳥は人の波に逆らって体育館に入ろうとした。その時、40くらいの男性が通せんぼをした。


「何だね君は?」


「あの、家族を探してて・・・。」


飛鳥は戸惑いながらも言い訳をしてみる。その返答に、男は眉を顰めながら飛鳥をじっとりと眺めた。


「家族ならここには居ない。ここは役場関係と駐在しか居ないんだよ。一般の方は皆校舎の方に移動するように指示が出てね。」


その答えに飛鳥は仰天した。


「はっ!?役場関係と駐在って・・・。だってここが一番頑丈ですよね?それに無理すれば300人は入れるでしょ?何でそんな事に?」


「ここは食料保管庫に使う。もし救助が遅れたら暴動が起こるかもしれないからな。食料は騒ぎが収まるまで配給にするから問題無いだろう。だから役場関係の人間と駐在が管理するんだ。何か問題でもあるかな?」


飛鳥は納得いかないと言う顔で40男を見たのだろう。男は腕組みをして飛鳥の前に立ちはだかる。チラリと後ろを覗くと、中には30人ほどが広々とした体育館で思い思いの場所に座り込んでいた。役所関係と言いながら、自分達の家族は体育館に入れているようだ。主婦のような女性や、子供、老人などの姿も見受けられた。


「あの・・・、役場関係者って自分達の家族も含まれてます?」


「当たり前だ。自分の家族は関係者だろうが?」


飛鳥はその返事に激しい怒りを覚えた。この人達は、自分の家族は安全な場所に匿い、他の町民は校舎に押しやってしまったのだ。


「何の職権乱用ですかこれっ!確かに全員は入らないかもしれないですけど、お年寄りと子供くらい入れてあげてもいいんじゃないですかっ!?それに町役場の人間がどうして仕切るんですっ!?駐在さんや町長さんに決めてもらいましょうっ!」


「黙れ・・・。すでにこれは決定事項だ。さっさと校舎に移動しないと避難所から追い出すぞ。」


男はそう言うと飛鳥を突き飛ばし、体育館の入り口を閉めてしまった。飛鳥が起き上がったときには、無常にも鍵の閉まる音が聞こえた。


「何なのよこれっ!横暴じゃないっ!入れなさいよこのうすらハゲッ!!!」


すると中から鍵が開き、駐在が顔を出した。飛鳥はパッと顔を輝かせたが、すぐにその顔は恐怖に引き攣った。何故なら駐在の手には小銃が握られていたからだ。


「うるさいよ君。まだハッキリした状況が分からないのだから食べ物の管理はきっちりやりたいんだよ。文句があるならここに居なくてもよろしい。家族全員で他に行きなさい。君みたいな輩が居るからちゃんとした管理が必要なんだよ。君がやっていることは公務執行妨害だぞ。ちゃんと聞き分けなさい。」


「・・・分かりました。」


飛鳥はそう言う他無かった。この時すでに、狂気がこの小学校を包んでいたのかもしれない。





 校舎に入ると、廊下にまで人が溢れていた。皆がちゃんとした寝具も無いまま、冷たい床で横になったり胡坐を掻いたりしている。家族はすぐに見つかった。


「飛鳥、こっちよ。」


2階の端の教室に入った瞬間、姉が飛鳥を見つけて声をかけたのだ。


「あ、お姉ちゃん達ここに居たのね・・・。」


「どうしたのしかめっ面して・・・?」


「それがさぁっ!聞いてよ。」


飛鳥は事の顛末を皆に話した。飛鳥が作った野菜炒めとおにぎりを頬張っていた両親も腹立たしげに顔を顰める。姉はぐっすり眠る花梨を腕に抱きながら、何やら考え込んでいる。旦那さんに携帯が繋がらないらしい。不安は募るばかりだろう。飛鳥は憤慨しながらも、昼の疲れも手伝ってそのまま硬い床に横になるといつの間にか眠ってしまっていた。





 次の朝、事態は急変していた。皆が持参していたラジオが全て雑音受信機と化したのだ。ワンセグの携帯でTV放送を見ていた人間も、全ての局が映らない、もしくはテロップ放送に切り替わったと大騒ぎをしている。つまり何も新しい情報を得られなくなってしまったのだ。事態は何一つ好転しておらず、寧ろ悪化の一途を辿っているのは誰の目にも明らかだった。異常事態に皆が不安を覚え、教室中にざわめきが絶えない。恐怖と焦燥が全員に感染していた。校庭にはまだ怪しい影は無かったが、隣の市ですでに犠牲者が出ている。逃げてきた人間もこの避難所に数人居て、その恐怖は皆の知るところとなっているのだ。人が人を食う病気、それが今分かっている全てで、警察や自衛隊がどう動いているのか定かではない。飛鳥は情報を得ようとまた体育館の扉に向かった。校舎の1階から渡り廊下を抜けると体育館があるのだが、渡り廊下は沢山の人間で埋まっていた。


「あの、何かあったんですか?」


飛鳥は最後尾に居たオバサン連中に何が起きたか尋ねて後悔した。


「何があったかですってっ!?役場の連中が扉を開けないのよっ!朝の配給はどうなってるのか聞きに来たんだけど、配給は昼に1回だけだって言って後は無視。だから皆怒ってるんだけど、頑なに鍵を開けないの。窓は全部鉄の格子が付いてるから誰も中に入れなくてね。」


「住民をバカにしてるわっ!誰の税金で食わせてもらってると思ってるのかしらっ!?」


「開けろっ!この税金泥棒っ!!!」


オバサン達の怒りは凄まじく、聞いた飛鳥も苦笑いを浮かべて引き下がるしかなかった。しかし、予想通りの展開に飛鳥もかなり頭に血が上ってしまった。


(やっぱり自分達だけ安全にやり過ごそうって腹ね・・・。今どれだけ配給を配るか考えてるんだわ。多分まともな量にはならないはず。何とか中に入る手段を考えないと・・・。)


飛鳥はそう結論を出すと、踵を返して校舎の中に戻る。体育館の1階からの侵入は無理だろう。ここは飛鳥も通った小学校だ。構造は把握している。子供の頃に1度はやってみたかったことを試そうと考えたのだ。





 飛鳥は校舎2階のトイレに入った。ここから窓の外にはちょっとした足場があり、そこを伝うと体育館に伸びる渡り廊下の屋根に下りられるのだ。子供の頃、男子がやって先生にこっぴどく叱られていたのをよく覚えている。自分もやってみたかったのだが、当時優等生の飛鳥にそんな無謀な事は出来なかった。しかし今は出来る。飛鳥は少しだけドキドキしながら、窓に手をかけて絶句した。子供の転落防止のためなのだろうが、窓にストッパーが付いており、10cmほどしか開かない仕掛けになっていたのだ。これではいくら細身の飛鳥でも通り抜けられる訳が無い。それでも諦めきれない飛鳥は、ストッパーをよく調べる。そして、ネジで固定されているだけだと言う事が分かった。+ドライバーがあればすぐにでも外す事が可能だ。飛鳥はすぐに小学校の用務員室に向かう。用務員のおじさんが工具を持っていることは知っていた。だが、少子化で子供の少なくなった集落の小学校には、すでに用務員は必要では無くなっており、かつて用務員室があった場所はただの空き部屋となっていた。飛鳥は空き部屋の前で腕を組んで途方にくれるしかなかった。


「おい、皆藤か?」


腕組みして唸る飛鳥に男の声が届いた。ここは生まれ故郷。知り合いが居て当然だったが、飛鳥は予期せぬ声にビクッと体を震わせた。人間よからぬことを企んでいると、こういう反応は当然だろう。恐る恐る振り返ると、そこには小中と同じ学校に通っていた馴染みの顔があった。


「ああ、海老沼君かぁ。脅かさないでよ・・・。」


海老沼と呼ばれた青年はタハハと渋い顔をしながら飛鳥に近寄ってくる。正直飛鳥は、この海老沼をあまり好ましく思っていない。中学校を出てすぐに実家の農家を手伝いだし、高校にさえ行かなかった彼を飛鳥は心のどこかで見下し、蔑んでいたのだ。


「久しぶりだな。こっちに戻ってきてたのか?」


「ううん、帰省してるだけよ。」


「そっかぁ、今何してんだ?」


「+のドライバー探してるんだ。海老沼君持ってない?」


「いや、何の仕事してるかって話なんだけどな・・・。ちなみにドライバーなら外のバリケードの所に沢山あったはずだぞ。」


「ほんと?ありがと。」


飛鳥は目的が達成され、さっさとそこを後にする。足早に遠ざかっていく飛鳥を見ながら、海老沼は呆然とそこに立ち尽くしていた。





 外に出ると、すでに夏の熱気が充満していた。むせ返るような暑さだ。飛鳥はそそくさとバリケードまで歩いていく。目的のドライバーはすぐに見つかった。辺りには工具と木材が散乱していたが、ドライバーなど容易に発見できた。


「さて、後はストッパーを外せば大丈夫ね。中で何やってるか見てやるんだから・・・。」


ストッパーを外すと、窓は簡単に全開した。これで足場に乗る事が出来る。飛鳥は一先ず家族の元に戻り、パンプスを脱ぐとシューズに履き換えた。こんな歩き辛い靴であんな足場に下りるのはご免だ。


「飛鳥、あんたさっきから何してんの?」


姉は飛鳥が忙しなく校内をうろついていることを知り合いに聞いたらしく、眉根に皺を作って飛鳥の顔を覗き込んだ。


「ん、ちょっとねぇ。」


飛鳥はサクッとその視線を受け流す。姉はまだ何か言いたそうだったが、花梨を抱き寄せて黙ってしまった。


「じゃ、また外に行ってくるから。配給はお昼だってさ。お母さんに伝えておいてね。」


飛鳥はそう言うと、また教室の外に出る。その足でさっさとトイレに向かうと、飛鳥は窓の外へ降り立った。落ちたら骨の1本くらい軽く折れそうな高さだ。踏み外さないように慎重に進む。子供の頃に考えていたより、遥かに狭い足場だった。その足場も10mほどで終わり、校舎の側面に出る。この先は足場はなく、2mほどの距離に渡り廊下の屋根があった。コンクリで固められたそれは丈夫そうだったが、2mの距離がやけに遠く感じられる。しかし、飛ばなければ目的は達成出来ない。飛鳥は心の中でカウントダウンを開始し、0と同時に意を決して屋根に飛び移る。少し長めの浮揚感を味わい、呆気なく屋根に飛び移る事が出来た。後は屋根を進んで体育館の側面の明り取りの窓まで行くだけだ。飛鳥は腰を低くして窓に忍び寄る。そして中を覗いてとんでもない光景を見てしまった。昨日、飛鳥を通せんぼした男が小銃を持っていたのだ。駐在は縄で縛られて口に猿轡をされている。怯えたような顔をしているのは駐在の家族だろう。皆、一箇所に追いやられて縮み上がっている。役場関係の人間達は、非常食を勝手に開けて食事をしていた。無論その家族も当然の様に食べている。何があったか分からないが、これはクーデターだ。駐在は昨日の態度から自業自得だと思い同情は沸かなかったが、このままだと物資は役場の人間に全ていいようにされてしまう。飛鳥は事態が想像以上に悪い方向へ進んでいる事を知り、その場で座り込んでしまった。

飛鳥ママ、意外に行動派でした。アグレッシブになりすぎたかな?


余談ですが、High school of the deadと言うアニメを見ました。このシリーズとだだ被りですね。目が見えないゾンビなんて画期的だと思っていたのですが、公式かよ・・・。ネイルガンまで使いやがってっ!何だか作者がパクったような気分になってあまり楽しめませんでした。人間の想像力って結局の所同じなんだと思い知りましたね。

言い訳のようですが、このシリーズを書き始めた頃にこのアニメは知りませんでした。もうアニメ見るって歳でもないですし。あくまでもオリジナルです。頑張って続き書きますので、応援よろしこしこ(ㅎωㅎ*)

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