俺の骨が脆すぎる
骨粗鬆症のスケルトンがいたら面白そうだなと思ったので書きます。
薄暗い洞窟の中に一人、いや、一骸骨だろうか。
体育座りをしていじけた様子の人影が見える。
「俺だって、頑張ってるのにさぁ…」
俺は自分の体を見ながらそう呟く。
そう、俺はいわゆるスケルトンだ。
以前は日本で平凡なサラリーマンをしていた俺だが、信号を渡っている際にトラックに跳ねられた記憶を最後に、気づけばここに居た。
最初は今流行りの転生物かとワクワクしたが、現実がそう甘くないと知ったのは、ゴブリンのような生物に出くわした時だった。
俺はゴブリンを舐めていた。
目の前でフガフガと鼻を鳴らし、丸腰で欠伸をする様子に、見慣れた雑魚敵のようなビジュアル。
転生したという高揚感と、目の前のゴブリン。
俺に実力の伴わない自信を付けるには充分だった。
俺は近くの石を持ち上げ、全力でそいつに投擲すると、そいつの頭にクリーンヒット
しなかった。
それと同時にボキッという音が洞窟に反響する。
音のした方向を見ると、俺の腕は取れていた。痛みは無かった。
俺は状況が理解出来ずにカタカタと騒いでる内に、ゴブリンはこちらへ気づき、手を振りかぶる。
俺の意識は暗転した。
そこで、俺はおそらく一度、死んだ。
次に目を覚ました時には、ゴブリンは消えていて、俺の腕も元に戻っていた。
そこで暫く混乱と恐怖に包まれていたが、俺は少しずつ思考をまとめていく。
現状を整理しよう。
推測でしかないが、俺はあの時死んだはずだ。
異世界のスケルトンの設定の特徴として、聖なる力的なものでしか死なない不死性がある。
おそらく俺は死なない。
厳密に言えば死んで生き返っているだけかもしれないが、とりあえず今は死なないということにしておく。
もっとも、ゴブリンに殴られた俺は意識を落とし、奇跡的に見逃された可能性だってあるため、命を粗末には出来ない。
現状、俺はゴブリンにも勝てない。
それに、石を投げたら腕が折れて吹っ飛んでいった。
ファンタジーのテンプレの当事者に自分がなるという高揚感に酔っていたが、冷静に考えれば俺には無理してゴブリンを殺す理由もない。
とりあえずは周りの状況を確認しよう。
そう思い、辺りを歩き回っていると、足元の石につまづいてしまう。
「あっ」
咄嗟に地面に手をついた俺は、ついた両手がそのまま折れ、勢いを殺しきれずに頭から地面へと突っ込む。
俺の意識はまたもや暗転していった。
これが、俺の経験した二度目の死だった。
目を覚まし、腕を確認すると、ちゃんと二本ともついていた。役たたずの腕め。
俺は先程の仮説がほぼ実証されつつあるのを感じた。
俺はおそらく死ぬことはない、あるいは死んでも時間が経つと蘇るのだろう。
痛みを伴わないということが、唯一の救いだった。
しかし、ついでに悲しい事実も明らかになった。
「俺の骨…弱くね?」
石を投擲すると吹っ飛んでいく腕。
腕をつくとそのまま折れる腕。
いや、まだ腕だけ弱いスケルトンかもしれない。
俺は無理やり思考をポジティブに切り替えながら、その場で思い切りジャンプをする。
体がきちんと垂直に飛び上がった所までは良かった。
その後、地面へと近づく俺の足が、地面に触れた途端崩れ落ちていくのを見て、俺は諦めたように意識を落としていった。
「いやさ、違うじゃん…」
「なんかもっとこうさ、滅茶苦茶チートな魔物に転生してさ、無双するとかさ」
「ステータスが開いて、神の声とかアナウンス的なのが聞こえるとかさ、もっとあるじゃん…」
俺は誰に言う訳でもなく、一人呟く。
そうしていると、洞窟の奥に人影が見えた。
ない目を凝らしてよく見てみると、それは俺と同じスケルトンだった。
だが、少し様子がおかしい。
そのスケルトンは、ショートソードの様なものを携え、全身に防具を纏っている。
俺があんなのを身に着けたら、即骨粉になるんじゃないか?
そんなことを考えていると、どこからか現れたゴブリンが、スケルトンへと仕掛ける。
スケルトンは上手く間合いを取りながらゴブリンをいなし、切りつける。
「えぇ…?」
やがて動かなくなったゴブリンを見て、そのスケルトンはまたフラフラと歩き始める。
「なんか、あいつ強くね?」
それを見て、俺が悪い意味で特殊なスケルトンだと気づくのは、そう難しいことではなかった。




