ジーク
本作は、新星ファンタジーコンテスト
テーマ「異世界ロマファンBL」参加作品です。
ひととき、楽しんでいただけたら嬉しいです。
冷たい石の壁が腫れた頬の熱を奪う。
何とか開いた目の先には、壁に片側だけ固定された黴びたベッドが見える。
その下にいる子猫ほどもあるドブネズミを見た時、自分が初めて床に横たわっていることに気がついた。
体の節々が痛い。
とりあえず体を起こそうとすると両腕にはめられた鋼鉄の鎖が、するどい音を立てて立ち上がることを阻止した。
床を走るレールに繋がる鎖は、完全に体を伸ばして立ち上がれない長さになっているらしい。
床にあぐらをかいて、しばらくじっとしていると、自分が何者で、どうしてここにいるのか、だんだんと意識がはっきりとしてきた。
「よぉ、新入りの兄ちゃん。目が覚めたかい?」
ベッドと反対側の壁を見ると、細く開けられた通気口から、隣の房の男が下卑た声をかけてきた。
僕は声を無視して、あぐらをかいたまま、体のあちこちをまさぐった。打撲や裂傷は激しかったが、幸い、骨折はないようだ。
「無視すんじゃねぇよ、兄ちゃん」
また、隣の房から声がかかる。
「新入りで、そんな傷じゃあ、当分、対戦はねぇからよ。安心して休んだらいいや」
がなり立てる声を無視して、僕は、その場で自分の膝を抱えて丸くなった。
石の床が固くて痛かったが、その冷たさが傷んだ体を冷やしてくれた。
「なぁ、お前、名前なんて言うんだ?」
隣の声がやたらとうるさい。
闘技場の奴隷闘士の房なんて地獄の底で、やかましく他人に関わろうとする奴がいるなんて、とても信じられなかった。
何も答えずに、さらに膝を深く抱え込んでも、その声が止むことはなかった。
しつこく問いかけをやめない声に、名乗る気はなかったが、僕は、たまりかねて
「ジーク」
とだけ名乗った。
すると、その声は嬉しそうな調子に変わった。
「ジーク?お前、ジークってんだ!俺はウルス、カブレドのウルスってんだ、よろしくな」
これでようやく静かになるかと思いきや、このカブレドのウルスと名乗った男は、通気口からこちらをのぞき込み、それから何かを投げ入れた。
「ジーク、お前、何も持ってないんだろ?今、水筒と手拭いを入れてやったから、それで手拭いを冷やして傷に当てろ。少しは楽になるぜ」
うるさい上に、おせっかいな奴だ。
「それからよ、お前、死組じゃなけりゃあ、俺たちの仲間に入れよ。八百長専門の『ゲスクラブ』によ」
からかうようなその声を聞きながら、僕は水筒に向い這いずる途中で、意識を失って、深い眠りに落ちた。




