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賞金稼ぎと怪物の仮面  作者: 秋山春
第六章 認定試験

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31話



 全員にタグが行き渡ると、アブの講演が始まった。

 賞金稼ぎ組合の成り立ちや、活動する上でのルールなどだ。


 多くはエレナに聞いて知っている事だったが、それでも知らない事は多かった。例えば、色んな理由で行き場を失った人に仕事を提供する制度としての側面もあることだ。


 だから老若男女問わず誰でも試験を受けられるようになっているらしい。幼いガビが試験を受けられたのもその為だった。


 初めて聞く話にガビは熱心に耳を傾けていたが、隣のアーチーは頬杖をついたままうつらうつらとしている。


 時折り、白目を剥きながら必死に眠気に抗う姿がたまらなく滑稽で、ガビは必死に笑いをこらえていた。


「——以上が賞金稼ぎとして活動する上での厳守すべきルールです。違反した場合、みなさま自身が賞金首として追われる事になるので、そのつもりで」


 そう言うと、アブは鋭い視線で合格者達を見渡し、アーチーを見て呆れたような笑みを浮かべた。ガビは慌てて肘でつついて起こす。


 飛び起きたアーチーはアブの視線に気付いたらしく、顔を耳まで赤くして小さく縮こまった。アブの説明が再開されたのを見計らい、小声で話しかけてくる。


「寝てないよ。起きてたから、ほんろに」


「舌がまわってないよ」


 ぼんやりした目を手のひらでグリグリと擦りながら、アーチーは声を殺して大きなあくびをした。


 アブの話が依頼の受け方から手配書の読み方、懸賞金の受け取り方など、実務に関わる内容になった事でアーチーも興味を持ったようだ。


 ふんふんと鼻を鳴らし、時に頷きながら話を聞いている。これはこれで犬みたいで面白く、ガビはやはり笑いをこらえるのに大変だった。


「次に、序列制度について——」


(序列制度……? なんだろう。エレナから聞いた事ないなぁ)


 そう言った途端、合格者達が微かにざわついた。

 ニヤリと笑った者や、目をギラつかせている者、アーチーも期待に染まった瞳でこちらを見ている。


「賞金稼ぎ目指すなら、やっぱりこれが一番大事だよな」


 そう囁かれたが、ガビは知らない。自分だけが分かっていないこの状況がなんだか恥ずかしく、微笑んで意味ありげに眉を持ち上げる事しか出来なかった。


 アブが咳払いをして、ざわめきを鎮める。

 そして、「ご存知の方も多いと思いますが」と前置いて話し始めた。


「新人が多数を占める銅級。実績を積み上げ一人前と認められた者から大ベテランと呼ばれる者達が所属する銀級。そして、単独で一軍の大隊並の戦力を有する、文字通り規格外の力を持つ者達が所属する金級——以上の三つに分けられます」


 ガビは、ふと胸元のタグを持ち上げた。

 よくよく見れば板は赤茶色の銅板で出来ている。なるほど、これで級を識別する事も出来るということか。


 アブの説明は続く。


「銅級、銀級については、その中でも一つ星から五つ星まで細かく分けられており、勤務態度や実績を見て星を増減させます。結果を出せば星が増え、受けられる仕事の量も難易度も懸賞金額も上がり、生活は豊かに——そして銀級の四つ星以上にもなれば、貴族や大きな商会に召し抱えられる、なんて事も夢ではありません」


 再びざわめきが起こった。

 ピューっと口笛を吹いてる人もいる。あれはどこかの三男……確かカルロといっただろうか。


 詳しく話を聞いた今、彼らが高揚している気持ちがわかった。育ちなんて関係ない。腕っぷしと一般常識さえあれば人生をまるっとひっくり返せる可能性があるのだ。夢を見るなという方が無理だろう。


「うちのばあちゃんは銀級の三つ星だったんだ。じいちゃんと出会ってなかったら四つ星になってたはずだって耳にタコが出来るほど聞かされたよ」

 

「アーチーのおばあさん、すごいんだね」


 言いながら、エレナの序列はどこだったのだろうと首をかしげた。内緒にしていたという事は、そこまで高い序列じゃなかったのかもしれない。


 アーチーのおばあさんと同じくらいだろうか?

 でもうちの経済状況は決して良いとは言えなかった。建物はボロいし、服もエレナがどこかから貰ってきたお古ばかりだったし……だとしたら、おばあさんよりもう少し下という事になるだろうか。


 そう考えて、なんだか悔しい気持ちになる。ガビは頭を振った。いくら考えたって、わからないものはわからない。エレナに会ったら聞いてみよう。


 エレナの序列を聞かれたが、ガビは素直に知らないと答えた。アーチーは「ふーん」とだけ言って話題を変えた。


「そうだ。もしよかったらさ」


 パチンと破裂音がして、室内がシーンとなった。アブが両手を打ち鳴らした音だ。


「夢を見てやる気に満ちあふれるのも結構ですが、当然、逆もありますからね。適当な仕事をして、組合の信頼を地に落とすような事があれば、返しきれないほどの負債を生涯かけて返済する事になりますので、お気をつけて」


 アブの忠告に、みな一様に固唾をのんだ。

 


5



 長い長い説明会が終わったのは、日がほとんど沈んだ頃だった。くたびれた様子で講義室を出ていく合格者達の最後尾にいたガビとアーチーは、部屋を出ると、思い出したようにアブとアンネに声をかけた。


「一次試験のやり方さ、あれ見直した方がいいと思うよ」


「な。部屋にアンネさん一人ぼっちはさすがに危ないって」


 もし男が襲いかかったのがあの小部屋の中だったらアンネはどうなっていたか分からない。試験を変えるか中に最低二人配置すべきだと、そう話し合ったのだ。


 アブとアンネは互いに顔を見て、バツが悪そうに笑った。

 

「いや……申し訳ない。その件ですが、実は」


 アブの言葉を引き取り、アンネが困り顔で話し始めた。


「実は、私で十分対処できたのですけど、お二人が動くのが見えたのでアブさんと示し合わせて乗っかる事にしたんです」


「騙したようで申し訳ない。不測の事態に備えて、組合の従業員の半数以上が元賞金稼ぎなのですよ。危険のある試験官は当然、彼ら彼女らが担当するわけです」

 

 今度はガビとアーチーが顔を見合わせた。

 なんだか気恥ずかしさが込み上げてきて、あちこちがむず痒い。


「そういう事ならいいんだ。な!」


 アーチーが背中を力強く叩いてきた。なんだかいつもより早口になっている気がした。ガビも耳の辺りが少々あつい。

 

 手短に挨拶を済ませて、その場を足早に離れた。逃げるように組合を飛び出して、二人は腹を抱えて笑い転げた。


 ひと通り笑い尽くして息を整えた二人は、試験の話を肴に中央広場まで歩いた。アーチーの宿はガビと別の大通りの方角だったので、ここでお別れだ。


「さっき言いそびれたんだけどさ。よかったら明日一緒に初仕事受けない?」


 照れくさそうに頭を掻きながらアーチーが言った。


「えっ、いいの? 行こうよ! ぜひ!」


 ポルユスまでの旅費を稼ごうと思っていたガビにとって、願ってもない申し出だった。初心者は複数人で経験を積むのが望ましいとアブが言っていたし、何より心強い。思わずアーチーの手を取り、上下に振り回す。ガビの勢いに困惑した様子のアーチーだったが、すぐに笑みを浮かべた。


 二人は待ち合わせの詳細を決めてから、それぞれ帰路についた。


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