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賞金稼ぎと怪物の仮面  作者: 秋山春
第五章 旅立ち

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20/31

18話



1



 ポルユスの商店通りは、冬に向けて食糧品が値上がりする前に買い溜めておこうとする人々や、他の地方からやってきた、出稼ぎ商人たちの珍しい品を見ている者たちで賑わっていた。


 ガビは、人混みをすり抜けながら、あちこちの店に視線を走らせた。普段見ることのない屋台や、露店があちこちにあって、歩いているだけで気分が高揚する。


 ふと、野菜を売っている屋台の会話が耳についた。


「ジャガイモをこのカゴに入るだけおくれ」 


「あいよ。それじゃあ、八クラットね」


「これっぽっちで八クラット? せいぜい四クラットじゃないのかい?」


 客の中年女が文句をこぼしている。

 ジャガイモは日持ちするので、保存食として重宝するけど、そのぶん値段も上がる。たったあれだけで八クラットも取られるなんて、たまったものじゃない。


 急がなければ、いくら稼いでも日に日に生活が苦しくなってしまう。まける、まけない、という言い争いを背に聞きながら、ガビは足早に目的地へ向かった。



 いつか見た公園では、子どもたちが大騒ぎしながら走り回っていた。


 ガビも、同年代の子どもとあんな風に遊びたいと思った事もあった。でも、ガビが羨望の眼差しを向けるたびに、エレナに諭された。


「もう少し大きくなったら、あなたも友達と遊べるようになるわ」そう言ってガビの気を紛らわせるように、おやつを買ってくれたものだ。


 結局、ガビは遊ぶ事よりも修行に夢中になってしまったわけだが、本音をいうと、今でも憧れの気持ちはある。

 

 昔、エレナがそれとなく、まだ友達が欲しいかと聞いてきた事があり、ガビは修行の方が楽しいと答えた。その時、エレナがほっとした顔をしたのを見て以来、もう少し大きくなるまで友達というものに興味がないふりをする事に決めたのだ。


 子ども達の元へ、数人の大人が歩いて行った。

 買い物をしていたのだろう。肩に大きな袋を担いでいたり、物いっぱいのカゴを持っている。それに気付いた子ども達が、笑顔で駆け寄っていく。


 ガビは、その光景に背を向けて歩き始めた。


 向かう先には、こじんまりとした四角い建物と、その横に掲示板、そして、あの日と同じ兵士が立っていた。


 兵士は、ガビの姿をみるなり、おっ、という顔した。


「やぁ、こんにちは。君には見覚えがあるよ」


「こんにちは。兵士さんも覚えてるよ。今日は眠たくないんだね?」


 若い兵士は大きく笑った。


「昨日はぐっすり眠れたから元気いっぱいさ。今日は君ひとりかい?」

 

 ガビは事情を簡単に説明し、そして、仕事を受けたい旨を伝えた。兵士は腕を組み、眉間にシワを寄せた。


「君が賞金稼ぎで、仕事を受けたいと言うなら断る理由はないが……本当に大丈夫か? この町では簡単な依頼しか受けない事になっているが、それでも怪物や盗賊とやり合うようなものが多いんだよ。命の危険があるんだ。もちろん、それは理解しているね?」


「もちろんだよ。小鬼くらいなら五、六匹いたって平気さ。何度もやっつけた事あるし」


 ガビは体を傾けて背中を剣を見せつけた。少し話を盛ってしまったが、これは仕方ない嘘だ。何がなんでも仕事をしなければならないのだから。


 兵士はあごに手を当て、少しのあいだ何かを考えると、ため息をついた。


「カルブルーやカッフルトみたいなデカい町には子どもの賞金稼ぎも多いと聞くしな。君が大丈夫と言うなら信じよう。さぁ、好きな依頼を選ぶといい。ただ、出来れば優しいものを選んでくれると、俺の心労が軽くて済む」


 ガビは、掲示板に駆け寄ると端から順に目を通した。依頼は全部で二十ある。その中でガビが対処できそうなのは七つほどだった。そこからさらに報酬が高いものを選ぼうとした時だった。


「そうそう。初めて依頼を受ける人には、許可証を提示してもらう事になってるんだ。見せてもらっていいかな」


 ガビは、全身から血の気が引くのがわかった。

 賞金稼ぎの許可証……なぜそんな大切なことを忘れてしまっていたのだろう。賞金稼ぎになるには、特別な試験を受けて合格しなければいけないのだった。


「どうした? もしかして、持っていないのか?」


 動けないでいると、兵士が心配そうに顔をのぞいてきた。ガビが、かろうじて頷くと、兵士は困った顔をした。


「残念だけど、それだと仕事を受けさせてあげられない。君が小鬼を倒せるほどの腕前だとしても、のっぴきならない事情があったとしてもね」


 兵士は気の毒そうに、ガビの肩に手を置いた。

 

「どこで試験を受けられる?」


 ガビは青白い顔で、絞り出すように尋ねた。


「試験は賞金稼ぎ組合の施設で受けることになってるが、あいにくこの町にはないんだ。一番近いところだと、スレイニオの町だね。近いと言っても馬車で丸二日はかかるけれど」


 スレイニオという町には聞き覚えがある。

 確か、ポルユスの東にあるという大きな町だ。馬で行けるならそれに越したことはないが、乗り方など知らないし、何より馬を買うお金がない。


 馬車で二日ということは、ガビの足なら急げば三、四日ほどで着けるだろうか。


 往復の旅路の食糧と、スレイニオでの滞在費を考えると、金庫の残金はほとんど無くなってしまう。だが、旅に出なくてもいずれお金は尽きてしまう事に変わりない。


 それなら、賞金稼ぎになるための試験を受けに行くのが最善の道のはずだ。一人でポルユス以外に遠出するのは初めてだったが、ガビは考え込んだ末に、スレイニオへ旅立つことを決めた。


 兵士に礼を言うと、その場を後にした。

 試験に何日かかるか分からない以上、大急ぎで用意をして、明日の日の出とともに旅立ちたい。


 念のためいくらか持ってきていて助かった。

 ガビは、ジェイの店でパンと保存食を買えるだけ買って、帰路を急いだ。


 

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