第八十一話 話し合いの終わり
話し合いは一日で終わることは無かった。そのため俺達はウォーレン様の屋敷に泊まる事になったのだが、案内された部屋はとても豪華な部屋だった。
「凄いな」
「ツバキ姉さんが泊まっていた部屋と変わらないな。…感謝しないとな」
あの時の台詞はシェリルをツバキさんに会わせるための方便だったんだな。粋な計らいな事で。
「ベル達も行儀良くしていたな。偉かったぞ」
隠れ家で待っていても良かったのだが、俺達と一緒にいる事を選んだベル達に労いをかける。
部屋で休んでいるとノックの音が聞こえてシズクさんとツバキさんが入ってきた。
「シェリル~」
部屋に入るとシズクさんはシェリルに抱き着いた。
「お、おいシズク。抱きつくな。恥ずかしいだろ///」
「だって心配だったのよ。貴女が邪竜の呪いにかかって、行方不明になったって聞いたし。それにいつの間にか聖女にもなっているし、心配だってするわよ」
泣きながらシェリルを抱き締める姿は確かに母親だなと思ってしまった。
その様子をツバキさんは微笑を浮かべて眺めていた。
「貴女は混ざって来ないんですか?」
「妾はもう少ししてからじゃ。二人の時間も必要じゃからな」
それでも手持無沙汰だったのだろう。近づいてきたメアを抱き上げて可愛がっていた。その内ベル達も近づいてきたので、ツバキさんはベル達に囲まれ楽しそうに遊び始めた。
「しかし主様よ。お主は少し迂闊じゃ」
急に俺へのダメ出しが始まった。
「エルメシアが現れた時に形だけでも礼を取るべきじゃ。不必要に揉めても面倒なだけじゃからな。妾が頭を下げさせなかったら、あの時点で何か言ってきたはずじゃ」
あの時の手はツバキさんだったのか。
「すみませんでした。ありがとうございます」
「………主様はいつまで他人行儀なのじゃ?」
さすがに初対面の人にフレンドリーにいくのは難しいんだけど。
そう思っていると今度はシズクさんから声がかかった。
「お腹空いたー」
ウォーレン様が夕食を準備して食べたはずなのだが、もうお腹が空いたらしい。
「ねぇ、カップ麺のシーフード頂戴」
当たり前のように言ってくるシズクさんに俺は自然と渡してしまった。やはり渡り人であるシズクさんは、地球の食料を食べたくなる時があるのだろうか。
「シズク。またそんな物を食べおって」
「いいじゃない。食べたかったんだもん」
今度はシズクさんとツバキさんのやり取りが始まった。その様子をシェリルは楽しそうに見ていた。ただ俺はこの時疑問を感じた。
「なあシェリル。シズクさんに俺の事って伝えたのか?」
「いや、まだ話してないぞ」
…じゃあ何で俺にあんな事を頼んできたんだ?
「すみませんシズクさん」
「何かしら?」
「俺の事を知っているんですか?」
「え?」
シズクさんは何か考え始める。そしてツバキさんを手招きして二人で何か話し始める。そして俺の方を向いてこう言った。
「秘密♡」
シズクさんはそう笑っていたが、ツバキさんは睨んできている。
「貴様は何かしたのか?」
「俺今日初めて会ったと思うんだけど」
ツバキさんの視線がさらに鋭くなった。シェリルも首を傾げ、二人に質問するが答えが返ってくることは無かった。
そして話し合いも数日が過ぎていく。決まった事から各教会に指示を出して動いていくが、まだまだやる事は多い。だがそれもタマモ達の登場によって終わりを迎えた。
「ほれ、おおよその流れを纏めてきたぞ」
突然現れたタマモ達は大量の書類をテーブルの上に置いた。その内容はリア教の事件に関する事ばかり。書類によると主犯は聖王国の幹部とエルメシア教の枢機卿の一部となっている。
「もしかしたらさらに上がいるかもしれんが、儂らが手を出すのはここまでじゃ。後は自分達で調査すんじゃな」
この言い方だと確実にもっと上が関わっているのだろう。もしかしたらエルメシアが関わっているのかもしれない。だが、そこまで追い詰めてしまうとエルメシア教がどう出るか分からなくなる。そのため、タマモ達はここまでにしたのかもしれない。
そしてタマモ達は再び姿を消した。それと同時にロクサーヌさんの隠れ家への入場許可を求められたので隠れ家に向かったのだろう。
この書類や証拠のお陰で一気に物事は進んで行く。エルメシア教はもう何も反対できないようで、リア教の名誉回復のために自分達のしでかした事を世界中に公表するはめになった。
「暫くはエルメシア教は大人しくなるかな」
「それだけじゃなく聖王国も大きな顔をできないだろうな。だがその分勇者を使って何かしてくる可能性はあるな」
「こっちに影響がなければ何をやっても良いんだけどな」
でも関わってくるんだろうなと思いながら、話し合いや作業を続けていく。
「これで一段落だな。皆ご苦労だった。今日は少し豪勢に夕食を用意している。酒などもあるから遠慮なく食べてくれ」
全ての作業が終わったところで、ウォーレン様が俺達に夕食を用意してくれた。言葉通りいつもより豪勢で腹が減ってくる。教会も食に対する制限は特に無いようで、全員で出された料理を食べ始める。
ベル達が同席にしている事にエルメシア教は何か言いたげな表情だが、今回は何も言えないようで黙々と食事を続けている。
食事を終えると用意された部屋に戻る。せっかくなのでシェリルはシズクさんとツバキさんと一緒に過ごしてもらう事にした。
俺としては家族の時間も大切だと思って送り出したのだが、相変わらずツバキさんには睨まれた。シズクさんも笑うだけで理由が分からん。
そしてサラちゃんがベル達と一緒に泊まりたいとの申し出があった。ベル達にそれを伝えると相談をし始めて、ベル以外がサラちゃんの部屋へと移動した。
「ベルは行かなくて良かったのか?」
「キュキュ」
俺を一人にしないようにしてくれたのかもしれない。
「それなら部屋で少し飲むか」
「キュキュ♪」
部屋に備え付けてあるテーブルの上につまみと酒を出す。いつもは肉やチーズ系ばかりにしていたが、今日はナッツや野菜スティックも出してみた。テーブルの上に並べられたつまみは半端ない量になってしまったが、ベルがいれば大丈夫だろう。
「今日は何を飲むかな?」
本当は色々なお酒を出して楽しめれば良いのだが、チャンポンは気持ち悪くなるから多くても三種類程度にするつもりだ。
「やっぱり日本酒と梅酒にしておくかな」
酒を取り出すと、ベルはもう自分の酒を出していたので二人で乾杯する。
「キュー♪」
酒を美味しそうに飲み干して、すぐにお代わりを注ぐベル。今日も中々の飲みっぷりだ。
二人で酒を飲んでいるとノックの音がして扉が開く。そこにはウォーレン様とネズミの従魔が肩に乗っていた。
「私も混ぜてもらおうかな」
そう言ってウォーレン様は俺の向かいに座る。以前のように俺とウォーレン様は世間話を交えながら飲みだした。俺が出したつまみも気に入っているようだ。そしてウォーレン様と従魔は俺がこの前渡した仙桃酒を飲んでいる。
「その子も酒を飲むんですね」
「ああ。食べる事と寝る事が大好きな子でね。“ウェーブラット”のモルというんだ」
「可愛らしいですね」
モルの隣にはベルが座り込んで、酒を注いで一緒に飲んでいる。たまに会話を交わしてどことなく楽しそうな雰囲気だ。
「ところでモルはサラちゃんの達の所にいなくていいんですか?」
「ああ。私が君と話をしようと立ちあがったら代表して付いて来てくれたんだ。どうやら私を一人にはできないらしい」
どことなく嬉しそうなウォーレン様。そして俺も気持ちが分かるな。
「付き合いは長いんですか?」
「そうだな。モルは私が子供の頃からの付き合いで一番の古株だ。私は中々契約できなくてな。やっと契約が出来たのがモルだったんだ」
ウォーレン様はモルを優しそうな目で見つめている。
「モルも“泥ネズミ”という最低クラスの魔物だったんだが、とても頑張ってくれてね、今じゃ誰よりも強くなってくれたよ。本当に自慢の家族さ」
竜とかもいたけど一番強いのがこのモルなのか。ちょっと意外だが、見かけじゃ分からない事が多いからな。
「それはそうと、君には感謝しないとな」
「何をですか?」
「君達が聖者と聖女だった上に、タマモ様と懇意だった事にだな。おかげで暫くの間はエルメシア教は大人しくするだろう。」
ウォーレン様にとってもエルメシア教は邪魔だったんだな。まあ、ギルドとも癒着もあるだろうし、色々要求してきそうだしな。
全てが終わった事で開放感があるのかウォーレン様は中々のペースで飲んでいる。
「ところで君はツバキ様とは知り合いなのかい?」
「いえ、今回が初めてのはずなんですけど」
「そうなのか? 先日君達が来た後にツバキ殿と話をしたんだが、その時に君の事を聞かれたのだ。私と部屋で飲んでいたことを話したら酷く不機嫌になったがな。だから知り合いだと思たのだが」
俺は改めてツバキさんの事を考えてみる。女性にしては長身・スレンダー・獣耳・褐色肌・一人称が妾・語尾に“じゃ”がつく事もある・美人。うん。記憶に無い。会った事があれば忘れるはずがないと思うけど。
……まさかツバキさんも渡り人で生前の俺を知っている? いや、俺は容姿がかなり変わってるから一目で気が付くはずがない。それに日本で一人称が妾の人は少なくとも俺の近くには居なかった。
「考えてみましたけど、やっぱり記憶に無いんですよね」
「そうなのか。…だが気を付ける事だ。ツバキ殿もSランクの冒険者。そのお方を怒らせたらどうなるか分からんぞ」
「……とりあえず話でもしてみます」
「その方が良い」
ウォーレン様はどこか楽しそうに話を続ける。
「そうそう。君達には近々王都に行ってもらう事になる。それとその前にパーティーを開くからよろしく頼むぞ」
「一応聞きますけど出なきゃダメなモノですか?」
「無論だ。面倒なのは分かるが、必要だと理解して欲しい」
「分かりました」
項垂れてため息をつくと、ベルが肩に登って元気づけてくれる。
「そこで君にお願いがあるのだが、ダンジョンで肉を手に入れたりしていないか」
「色々ありますけど」
「買い取らせて欲しい。酒もあればそれも買おう」
俺はベルに視線を向けると、ベルは良い笑顔で親指を立ててくれた。
「キュ」
ベルは収納していた竜の肉を色々と出してくれた。それは百キロ以上の量になる。
「竜の肉か。見事なものだ。酒は果実酒が色々とあるな。全部買い取らせてもらおう。明日までに用意しておこう。そうそう。国王もかなりの酒好きだから珍しい酒を用意すると喜ぶぞ」
いつの世も酒好きは多いな。そう思いながら俺達は朝まで飲み続けていた。




