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第七十七話 教会の聖女

 魔導船は雰囲気的に海に常駐させておくことにした。一応セラピードルフィン達に確認したら構わないという事だったので安心した。


「いやー。バイキングという料理も良い物じゃな」

「好きな物を好きなだけ食べられるというのは確かに楽しい物だったな」


 朝食はバイキングにしてみたのだが、結果は成功だったようだ。ただシェリルのケーキとアイスとフルーツの山盛りは強烈だったな。


 そして腹ごなしをした俺達は今日もギルドへと向かう。タマモは魔導船で遊ぶらしい。一体何をするんだかな。


「しかし結構楽しかったな」

「十分人を呼んで稼ぐことが出来るような物だったな」


 そんな話をしているとギルドへと着いたのだが、いつもとは雰囲気が違う。チラッと教会関係者の服が見えたので引き返す事にした。


「良かったのか?」

「進んでいざこざを起こす気は無いからな。ギルドからいなくなった後に行った方がお互いのためだろう」

「貴様への用事だったりしてな」

「それは考えたくないな。まあ、俺への用事だったら伝言を聞いてから考えよう。さすがに昼過ぎにでも行けば帰っているだろうし」


 呑気に話をしながら適当に街をぶらつく。孤児院にでも行こうかと思ったが、そちらにもエルメシア教が来ている可能性があるので止めておくことにした。


「どこか行きたい場所はあるか?」


 尋ねても誰も反応は無かった。ただの散歩だけでも楽しいようだ。


 屋台で買い食いをしながら歩き続ける。ただ、街の人の中にもメアを疎むような視線があることに気がついた。


 メアも気がついているようだが、必ず側に誰かがいるためか、威嚇したり怯える事もない。そして、メアを楽しませようとベル達が気にかけてくれている。


 今も気に入った屋台の料理をメアに食べさせたりしているしな。


「おい、気がついたか」

「何がだ?」


 俺は呑気にベル達のやり取りを見て和んでいたのだが、シェリルが真剣な表情で話しかけてきた。


「先程からエルメシア教の者達が走り回っているぞ。まるで誰かを探すようにな」


 良い予感がしない。まさか俺を探していたりしないよな。


 そう思っていると一人のエルメシア教徒と目があった。


「いたぞ!」


 まるで犯罪者を見つけたような感じだ。予感はしていたけど俺を探していたらしい。会談の件か司教の件か知らないけど、何があるんだか。


 続々と集まってくるエルメシア教徒達に、ベル達は警戒している。


「おい。我々と一緒に来てもらおうか」

「やだ」


 あまりにも偉そうな態度だったので、つい反射的に答えてしまった。


「我等をエルメシア教と知って、そんな口を聞いているのか!」


 怒りを買ったらしいが、俺にも言い分はある。あんな上から目線で言われたら協力する気なんて起きないだろ。


「知っているけど。人に物を頼むのなら言い方はあるんじゃないか。それともエルメシア教は命令口調で頼むのが普通なのか?」


 男は苛立ちながらも言い返さないでいる。すると、一人の女性が俺と男の間に入ってきた。


「失礼いたしました。この者の非礼を代わりにお詫びいたします。聖女様が貴方にお話がありますので、着いてきていただけないでしょうか」


 女性は丁寧にお辞儀をすると俺に頼み込んできた。ここで断っても騒ぎが大きくなるだけなので、俺はついていくことにしたのだが。


「聖女様はお一人にしかお会いになりません。また、従魔もご遠慮下さい」


 この言葉にはシェリルが顔をしかめた。


「何の用かは知らんが、大抵の事にはここにいる全員が関わっているのだが」

「それでもです。それに"旅する風"のリーダーは彼のはずです。聖女様はあまり人目には触れていけないお方ですので、リーダーだけでお願いいたします」


 折れる様子が無かったので、俺は連絡用の小さい人形をシェリルに見せる。


 シェリルは悩んだ末に軽く頷いた。


「それじゃあベル達の事を頼んだぞ」

「分かった。早く戻ってこいよ」

「長くなりそうなら暴れてでも帰るから。邪竜の死体は俺の手元だからな」


 俺が何をするか予想がついた教徒達は若干顔が青くなった。恐らく、あの場にいた者なのだろう。


 シェリル達が心配そうに見つめる中、俺は連行されるように教会へと連れて行かれる。教会の中は荘厳と言うよりは煌びやかと言う表現の方が相応しいだろう。そして案内された部屋は謁見の間のような場所だ。豪華なイスが置いてあり、そこには一人の女性が座っている。耳の形状からしてエルフかな。


「あの御方が聖女様です。失礼が無いようにしてください」


 失礼ね。どこからが失礼に当たるんだか。そもそも人を呼び出しておいて高い位置から見下ろされている時点で気分が悪いけどな。


 するとエルフは側に控えている女性が口を開いた。


「貴方が"旅する風"のジュンで間違いありませんね」

「そうだけど」

「貴方の活躍は私達の耳にも入っています。タカミの街のダンジョンの最高到達階層を更新し、邪竜を倒したと聞きました。その言葉に嘘はないですか」

「ありません」


 聖女は聞いているだけか。形だけのお飾りの可能性もあるな。 


「貴方のした事は偉業でしょう。ですがそれだけの偉業を成す方がなぜエルメシア教と揉めることが多いのでしょうか? それと何故穢れた存在を率いているのですか? それでは偉業も悪魔の所業に変わります」


 落ち着け。落ち着け俺。

 女性であっても殴り飛ばしたいという衝動を抑える。


「揉めたのは考え方や行動の違いでしょうね。貴方達は教会の意向に沿った行動でしょうが、私は良くも悪くも自分の意思に従っていますから。それと穢れた存在を率いた事はありませんよ。勘違いでは?」


 場の空気が凍ったように感じられた。この程度で怒るのね。


「考え方や行動の違いならば、貴方の考え方や行動を見直すべきではないでしょうか。そして穢れた存在と行動している事は確認済みです。嘘はいけませんよ。黒猫まで増えた事も知っておりますよ」

「そこで自分達の行動を振り返らないのがある意味素晴らしいよ。もう何も言う気はない。だけど俺の周りに穢れた存在はいない。黒猫は確かにいるが穢れてなんかいないぞ」


 何人かが武器を抜いた音が聞こえた。俺も即座に対応できるように"黒影針"を用意する。


「黒猫はエルメシア様と敵対した者の使い魔です。それだけで穢れているのです。黒猫を従魔にするという事はエルメシア様と敵対するという事ですよ。他の魔物達にしても聖なる獣は一匹たりともいません。つまりはただの魔物しかいないのです。穢れていると言われて当然です」


 本当にエルメシア教の教えは俺の考えと違うよな。俺も怒りが段々抑えきれなくなってきたぞ。


「お前等がベル達の何を知っているんだ? アイツ等は全身全霊で仲間を守ろうとする素晴らしい仲間だよ。俺の我儘にも付き合って、死にそうな目に遭っても一緒にいてくれるんだぞ。そんなアイツ等が穢れているならお前達は何なんだ? 俺にとってはお前らよりもベル達の方がずっと上の存在だからな」


 教徒の一人が武器を抜いて俺に斬りかかってきた。「うぉぉぉ!」と自分の存在をアピールしながら大振りでだ。これでも俺はダンジョンで強敵と戦ってきたのだ。これくらいなら問題ない。


 最小限の動きで躱して足を引っかけて転ばせる。これだけで済ませるんだから、俺は優しいし我慢強いな。


「これが神の意思なのか? エルメシア教は不都合な事があれば暴力で解決しようとするんだな」

「今のはその者の暴走です。しかしそれはエルメシア様への信仰の強さの証拠でもあります。彼を惑わせたのは貴方の悪しき心なのですよ」

「へぇ。俺の方が神様より影響力が強いのか。俺も立派になったものだな」


 向かってはこないが、敵対心はどんどん強くなってくる。だけどコイツ等もメア達を穢れた存在とか言ってきたからな。言い過ぎだとは思わない。


「それで用はこれだけか? もう話す意味は無さそうだから帰りたいんだけど」

「私も貴方のような男性と話しを続けたくはありません。しかし、まだ聞くことがあります。貴方は会談に出て何をするつもりですか?」

「やりたいことをするつもりだ」

「答えになっていません」

「周囲の出方次第だから何とも言えない」


 まあ多分アンタ達とぶつかるんだろうけどな。


「逆に聞くけどアンタは会談に出て何をするつもりだ」

「決まっています。悪しき者を処罰します」

「なる程。真実はどうでもいいってわけか」

「真実はもう出ていますよ。リア教は邪教徒の集団。聖王国の調査とエルメシア様に選ばれた聖女様の言葉が信用できないと言うつもりですか」

「もちろん♪」


 この言葉にはこの場にいる俺以外の者達が驚愕の表情を浮かべた。それこそ怒る事を忘れるくらいに。


「物事は一つの方向から見たら気が付かない事がある。お前等がリア教が犯人だと考えて行動するなら俺は逆をいかせてもらう。その方が真実に近づけると思わないか?」

「真実はすでに出ていると言っております」

「それが虚構じゃないとは言えない」


 次の瞬間。エルフの女性が立ちあがり今まで座っていたイスが倒れる。そして俺を睨みつけてきた。その様子に周りの教徒達はオロオロしているだけだったが、今まで喋っていた女性が聖女を宥めて再び座らせた。


「それは聖女様や聖王国が嘘をついていると言いたいのでしょうか」

「いや? 別にそんな事は言ってないだろう。むしろ第三者がリア教とエルメシア教を嵌めるために画策した可能性だってある。万が一そうだったらアンタ達も困るだろう。そうならないように俺は別の視点で見ているんだよ」

「詭弁ですね」

「詭弁も弁の内だろう。なら説法でも雄弁でも何でも構わないから俺の口を黙らせたらどうだ? つーか。そろそろ聖女本人が喋ったらどうだ? ここでの最高権力者はアンタなんだろ」


 話をしながら聖女も見ているが聖女も唯の人だ。いやエルフか。まあどっちでもいいけど、そこまで特別な物は感じない。


 ……考えてみれば俺もシェリルもそうだもんな。


「もう我慢なりません。貴方は聖女様に無礼すぎです!」


 突然の怒号が響き渡る。


「聖女様は特別な存在なのです。エルメシア様の代弁者とも言われております。その聖女様に向かってその口の利き方は何ですか!」

「そんなに特別なのか?」

「ああ。無知とはなんて愚かなのでしょう」


 その場でふらつきながら頭に手を当てる。

 演技臭い動きだな。


「聖女様はエルメシア様に直接お声をかけられて、直接触れられた存在なのですよ。私達は集団としてお声を聞くことはありますが、個人として会話をして触れ合う事ができるのは勇者様と聖女様だけなのですよ。この前はお食事も共にしたのです。世界中を探してもこのような特別な方他にいないでしょう」


 ………え? 俺達は毎日のように食事をしているけどな。何なら一緒に温泉に入っている上に、髪を洗う事もあるし、結構な頻度で同じベッドで寝てるのにな。まあ言っても信じないだろうから言わないけど。


「もう話すのは無理そうだな。俺は帰るぞ。ああ分かっているとは思うけど、邪魔するようなら邪竜の死体をこの場に出すからな。……あ、聖女様なら浄化できるんじゃないか。邪竜の死体が悪用されないように浄化してもらっても良いか」

「無礼者! 帰りなさい!」


 メッチャ怒ってきたけど、無事に帰れたから良しとするか。


 教会から出るとシェリル達が待っていた。そしてベル達がお出迎えで駆け寄ってくる。


「顔がにやけているぞ」


 シェリルがクスリと笑いながら話しかけてきた。


「嫌な空気だったからな。だから余計に癒されるんだよ」


 撫でる度に気持ちよさそうにする姿を見るともっと撫でたくなってしまう。


「しかし、エルメシア教や聖王国は完全にツバキ姉さんを罪人として捕まえる気なのだな」

「大丈夫だ。最悪攫って逃げればいい」


 俺の返答にシェリルはポカーンとしていたが、すぐに笑い出した。


「そうだな頼りにしているぞ」

「キュ!」

「たぬ!」

「ベア!」

「ピヨ!」

「ニャー!」

「皆やる気だな。頼もしいや」


 気合を入れるベル達に頼もしさと可愛さを感じながら、隠れ家に戻るのだった。

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