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第五十話 対決 大天狗

「さあ小さき者よ。儂と死合おうか」


 ベルの目の前には機嫌の良い大天狗がいる。ベルは大天狗の力を感じ取り、最初から警戒態勢でいた。

 反対に大天狗は余裕がある。むしろベルとの戦いを楽しみにしているような感じだ。


「キュ!」


 最初はベルの闇魔法から始まる。黒い幾千もの矢が雨のように大天狗に襲い掛かる。


「カッカッカ。面白いぞ」


 大天狗は羽団扇を大きく振るう。そこから発生する風が黒い矢を吹き飛ばす。


「次は、うん?」


 矢を吹き飛ばした先にベルはいなかった。黒い矢はただの目隠しだったと悟った大天狗はもう一度羽団扇を振るう。


「キュ!?」


 横からベルが黒い光線を放っていたのだが、それは避けられてしまう。

 そして大天狗は遠く離れた場所に移動していた。


「危なかったぞ。これは本当に楽しめそうじゃ」


 大天狗は羽団扇をまた振るう。するとベルを取り囲むように大天狗は分身した。


「さあどうする?」

「キュキュキュ!」


 お返しとばかりにベルも分身を披露して大天狗達の背後を取る。そしてベル達の闇魔法と大天狗達の羽団扇がぶつかる。


「ぬぅ!」

「キュー!」


 互いに吹き飛び分身達が消える。しかしベルも大天狗もすぐに次の行動に移る。


「キュキュキュキュキュ」


 ベルが闇の弾丸を連続で放つ。大天狗はその攻撃を躱すが、地面に打ち込まれた闇の弾丸はそこから触手をはやして大天狗に襲い掛かる。


「はっ!」


 大天狗は羽団扇を振るい嵐を巻き起こす。風が触手と弾丸を防ぎ雷雨がベルを襲いだす。


「キュー!!」


 ベルは自分の周囲に黒い渦を発生させる。雷雨は渦に飲み込まれてベルに届くことは無かった。


「カッカッカ。実に愉快じゃ。戦いはこうでなくてはな」

「キュキュキュ」


 ベルと大天狗は睨み合う。両者の実力は現段階では拮抗しているが、楽しそうな大天狗に対してベルは真剣だった。その違いが徐々に戦いに出始める。


「さあ。まだまだ行くぞ」


 羽団扇が振るわれる。それと同時にベルは脳を揺さぶられるような感覚に襲われた。そしてベルの前にはジュン達がいつもの部屋でご馳走を作って待っている光景が映し出された。


『ベル。早く来いよ。そろそろ飯の時間だぞ』

『早く来ないと食べられてしまうぞ』

『たぬぬ♪ たぬぬ♪』

『ベアベア♪』

『ピヨヨ♪』


 ベルは今戦っている事を忘れそうになる。それほどベルにとって至福の光景なのだ。


『キュキュキュ♪』

『キューキュ♪』

『キュキュー♪』


 さらにかつての仲間達も一緒にいた。昔のようにベルを誘っている。

 ベルは皆で森で暮らしていた時の事を思い出した。今ほど美味しい物を食べていなかったけれど仲間達と遊んだ日々もとても楽しかったのだ。


「キュー♪」


 ベルは完全に大天狗の幻覚にかかってしまった。大天狗はベルが幻覚にかかっている事を確信して止めを刺すために近づいた。


 ベルはその時も幸せな夢を見ていた。だが目の前に黒い虎が現れ大きな口を開いてベルに襲い掛かろうとしている。


 その黒い虎をベルは忘れることは無い。自分が仲間と離れ離れになった原因だ。そんな相手が急に現れた物だからベルは攻撃を仕掛ける。


「キュ!!」


 ベルは反射的に黒い光線を打ち出した。黒い虎は笑って消えていく。


「もう少しじゃったのにな」


 大天狗の声でベルはハッとした。そこで幻覚にかかっていたことに気が付いた。大天狗はベルを仕留められずに悔しそうにしたが、まだ面白い戦いが続くと思いすぐにまた笑いだす。


「カッカッカ。勝ったと思ったんだがな。儂の幻術からも抜け出すか」


 陽気に笑う大天狗をただただ見つめる。


 キーノとは正反対の幻覚だったがこちらも恐ろしいとベルは感じていた。


「さて、魔法じゃ中々決着はつかないようじゃな。ならば次は拳で語るか」


 羽団扇を振ると大天狗はベルの後ろに移動していた。ベルは速いだけなら見える自信はあった。それが二度も見えないならば、これは転移なのだと理解した。


 そしてギリギリで大天狗の拳を避ける。大天狗は武術にも精通しているようで、その動きは見事な物だった。一瞬でも気を抜けば勝負が決まる可能性がある。早く皆に会いたいが、自分が負けた方が危険が大きくなると思い、ベルは無茶な反撃はせずに確実に避けながら機会を待った。


 だが、大天狗は一向に隙を見せない。むしろより洗練された動きに変わっていく。 

 仕方が無いのでベルは賭けに出た。


「キュー!!」


 ベルの周囲が黒く浸食される。大天狗も触っていはいけないと思い距離を取った。

 そしてベルの頭上には大きな門が出現して門が開いていく。


「面白い! 面白いぞ!」


 大天狗は羽団扇を大きく振るって黒い炎を纏った竜を出現させる。


「さあ力比べじゃな」

「キュー!」


 扉が開くと沢山の黒い触手が大天狗に襲い掛かろうとする。だが真正面から黒い竜がそれを邪魔して衝突する。


「ぬん!」

「キュ!」


 互いに気合を入れる。二つの大魔法の余波は隔絶している空間にひびを入れるほどだ。

 そして決着は着く。


「儂の勝ちじゃな」


 ベルの門は粉々に砕かれて黒い竜はそのままベルを包み込んだ。


「キュー!!」


 黒い竜の炎はベルの体をどんどん蝕んでいく。さすがのベルも悲鳴を上げて転がりまわっている。月光水を出そうにも黒い炎が邪魔で使う事は出来ない。


「ふむ。本来は一瞬で消し炭なのだがな。ここまで堪えるか」


 大天狗は感心しているが、ベルの体は焦げていく。ベルは段々と意識が薄れていくが、悔しくて歯を食いしばっていた。


 キーノには騙されて勝つことが出来ず全滅するところだった。そして今度は真正面から打ち砕かれた。自分にできる最高の技を放ったが大天狗には届かなかった。


 ベルの目からは大粒の涙がこぼれる。悔しさもそうだが、このままだと皆に会えなくなることが嫌だった。


「キュー! キュー!」


 ボロボロになった体を無理やり起こす。体全体が焦げて自慢の毛並みも見る影もない。どう見ても虫の息の状態だ。だが大天狗は胸騒ぎを覚えた。


 確実に止めを刺すために、もう一体の黒炎を纏った竜を作り出す。


 この時のベルの脳裏にはキーノに立ち向かったコタロウが思い出されていた。自分の弟は格上の敵に対して立ち向かっていった。なのに兄である自分が諦めて終わるのはあってはならない。それにジュンが心配だ。自分が負けてしまったらジュンはまた壊れるかもしれない。


 だからこそ絶対に勝つと心に決めた。


「キュー!」


 見る見るうちにベルの体が元に戻っていく。


 “食いだめ”

 この能力は、食料の栄養をため込んで好きな時に体力や魔力の回復が可能となる物だ。だが普通であればここまでのダメージを回復させることは不可能だ。だがベルは本人も環境も普通ではなかった。毎日のように大量の食事を食べる事ができ、月光水や月光樹の魔力が混ざった水を普段から摂取しているのだ。


 そのため回復量は普通では考えられないレベルになっている。そして死にかけた事でベルは能力を極限まで引き出した。


 自然とベルは自身に纏わりつく黒い炎を食べてしまった。


 “悪食”

 どんなものでも食べてしまう能力だ。これも普通なら石や土などが食べられる程度のなのだが、ベルが使う事によって魔法まで食べてしまえるようになっている。


 大天狗は仕留めるために黒炎を纏った竜を放つ。

 ベルはそれに対して闇魔法ではなく、ジュンから貰った花や野菜の種、それに苗木を投げ出した。


 草木はベルの魔力によって瞬時に周囲を森へと変える。

 大天狗は驚いたが相性的に自分の方が上だと思い、そのままベルを狙う。


 だが成長した草木が竜を黒炎ごと食べてしまった。これには大天狗も驚きを隠せない。


「バカな!」


 大天狗が驚いている間も草木は成長していく。そして周囲は森を通り越してジャングルの様な空間へと変わる。ベルは森の木々に身を隠し、さらに多数の分身が駆け回る。


 羽団扇を振るって色んな攻撃を仕掛けてみるが、草木は全ての攻撃を食べている。


「世界は広いの」


 どこか嬉しそうに言いながら足を動かした時だった。大天狗の足が何かに食いちぎられた。すぐに再生して確認すると、そこにはトラバサミが置いてあった。


「いつの間に罠を。いや、それよりも儂の足を千切る威力だと!?」


 驚く大天狗だったが、ゆっくり考える暇は無かった。丸太や落とし穴など次々と罠が襲ってくる。恐ろしいのはどの罠も大天狗にダメージを与える威力を持つという事だ。


 この状況を覆せる手段を大天狗は持っていなかった。駆け回りながら攻撃してくるベルや分身達。それを躱そうとすると発動する罠。反撃を試みようにも本体の判別ができないうえに、炎ですら木々が食い尽くしてしまう。


「実に愉快じゃった」


 大天狗はその場で胡坐をかいて座る。そこに止めとばかりに植物が一斉に襲いかかった。


「いずれまた相まみえよう。さらばじゃ小さき者よ。いや森の王?…森の神よ」


 その言葉を最後に大天狗は光となって消えた。


「キュ~」


 ベルも力尽きて地面に落ちる。すると周囲の木々は消えてしまう。ベルは何とか立ち上がって周囲を見回すと最初の部屋に戻った事に気が付いた。


 そして駆け出してくる家族達を見てジュンがいない事に気が付いた。早く片付けて皆でご飯を食べたいなと思いながらベルは気を失った。

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