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第四十九話 対決 女天狗

 蛇達との戦いから二週間。また現れる事もあるかと思っていたがそんなことも無く、俺達は七十階の試練の扉の前に辿り着いた。


「ついに七十階か。ここの魔物を倒せば次は竜か」

「そうだが気を抜くなよ。竜と戦える力があるかここで試される。生半可な魔物は出てこないだろう」


 俺達は試練の扉を前にして一度気合を入れる。


 そして扉を開けて中に入ると、そこにはもう見慣れた景色しかない。


「相変わらず殺風景な部屋だよな」

「私は趣向を凝らした部屋の方が嫌だがな」


 話をしていると魔法陣が光り魔物が現れる。今回は三体の魔物のようだ。


「ふむ。儂等が呼ばれるか」

「何十年ぶりのことか」

「あれ?あの人達最近見た気がするな」


 一体目は鬼のような顔に長い鼻、二体目は鳥の顔、三体目は女性だった。三体の共通点としては羽が生えていることだ。…大天狗・烏天狗・女天狗だよな。


 何か話しているようだけど付き合う必要は無いしな。

 俺達は顔を見合わせて先手必勝で魔法を放った。


「せっかちじゃの」


 大天狗はそう言いながら羽団扇を振るう。すると俺達の魔法が掻き消されてしまう。


 驚いていると今度は烏天狗が手に持っている錫杖を鳴らす。途端に空間が引き裂かれて、俺達はまた別々になってしまった。



 シェリル(三人称視点)


「さあ戦おうか」


 シェリルは女天狗と対峙している。女天狗は決して大きくないがその手には自分の身長以上の大剣を手にしている。


「その前に一つ聞かせてもらおう」

「何? お喋りは好きだから一つと言わずどんどん聞いて」


 女天狗は無邪気な笑顔でシェリルに話しかけてくる。その無邪気さにシェリルは少しだけ毒気を抜かれてしまう。


「…貴様を荒野の階層で見たはずだ。人に交じって何をしていた?」

「ああ、そっか。どこかで見た事があると思ったら野営地だった」


 女天狗はモヤモヤがとれたとように晴れ晴れとした顔をしている。


「答えになっていないぞ」

「ごめんごめん。質問の答えだけど修行だよ。大天狗様や烏天狗と一緒にダンジョンの探索をしているんだよ」


 その返答はシェリルにとっても衝撃だった。平然と人の姿で紛れ込んでいたのだ。下手をすれば大惨事になってもおかしくないからだ。


「…目的は何だ」

「目的? 修行だよ」


 女天狗はあっけらかんと答える。


「人を殺す事はあるのか?」

「基本的には魔物しか狩らないよ。ただ賊とか危害を加えようとするなら話は別かな」

「本当に修行が目的なのか?」

「そうだよ。私達は強くなることが好きだからね。まあそんな事をしているのは私たち三人くらいかな。村の皆はただ暮らしているだけだよ」


 シェリルはまた訝しげな眼差しを向ける。


「村だと?」

「そうだよ。天狗の隠れ里があるんだ。どこかは秘密だけどね。さてお喋りも良いけどそろそろ戦わないない?」


 これ以上は聞いても答えなくなるだろうと思って互いに武器を構えて向き直る。最初に動いたのは女天狗だ。シェリルに向かって高速で滑空して、物凄いスピードで大剣を振るう。


 シェリルは一目でその大剣の威力を感じ取ったため打ち合う事はせずに方向を逸らす。


「おわ!?」


 体勢が崩れた隙にシェリルはソウルイーターで攻撃を仕掛ける。だが「ガキッ」とした音と共にシェリルの攻撃は防がれた。


「いやー、危なかったよ」


 女天狗は大剣を盾にして防いでいたのだ。

 シェリルは一度距離を取る。


「早いな」

「ふふん。これが自慢だからね」


 完全に崩した体勢から防がれたことでシェリルは接近戦を不利だと感じとった。

 そしてシェリルの放てる九属性の魔法を放つ。


「凄い! 凄い!」


 シェリルの魔法は女天狗を囲む用に放たれているが、女天狗ははしゃぎながら躱している。

 落とし穴や地面からの攻撃もあるのだが、それも分かっているかのように躱し続ける。


 結局シェリルの魔法は全て躱されてしまった。


「あれ? もう終わりなの。楽しかったけどな」


 女天狗は残念そうな顔をしたが、すぐに好戦的な顔でシェリルを見つめる。


「じゃあ今度は私の番だね」


 シェリルの周囲に無数の武器が出現する。そしてシェリル目掛けて飛んできた。


「さっきのお返しだよ」


 無邪気に笑う女天狗に対してシェリルは冷静だった。そして飛んでくる武器に対してソウルイーターを振り回して全て打ち壊してみせた。


「やるー♪ そして注意を引きつけている内に地面から魔法かな」


 女天狗はそう言うとその場から少し下がる。すると女天狗の言った通り地面から魔法が飛んできていた。女天狗がその場に留まっていれば当たっただろう。


「やっぱり相手が強いと楽しいね」

「生憎と私は楽しむつもりはない」


 シェリルは魔法と武術のコンビネーションで果敢に攻めていく。だが女天狗はその攻撃を全て避けていく。


「うんうん。いいね。とても努力したんだろうね。魔法も武術も一級品だと思うよ。でも私の目には見えているんだよね」

「何?」


 すると女天狗は真っすぐシェリルに突っ込んできた。シェリルはそのまま魔法を放っていたが、女天狗は最小限の動きだけで躱す。


 近づく女天狗にソウルイーターを振るう。女天狗はその一撃を大剣で受け止めてそのまま押し込んできた。


「くっ、バカ力が」


 シェリルはまた力を逸らしてその場から飛び退いた。


「見えているよ」


 だが女天狗はシェリルの動きに付いて来ていた。そして大剣の一撃でシェリルを吹き飛ばす。

 シェリルはギリギリでソウルイーターで防ぐことはできた。だが尋常でない女天狗の膂力のせいで呼吸すらままならない。


「上手く防いだけど。あんまり頑張りすぎると痛いだけだよ。それに君って呪い持ちでしょ」

「だから何だ」


 なぜ呪いの事を知っているのか疑問だが今はそれを問いただす暇はない。

 シェリルは苦しくても女天狗から視線を逸らさない。


「どうせ死ぬんだから、それなら痛い思いする方が損だと思うよ。今なら私が痛みも感じさずに殺してあげるよ」

「ふざけるなよ」


 女天狗の笑顔にシェリルは怒りを覚えた。

 死なないためにダンジョンに潜った。本来は一人で潜るはずだったが、色々あってジュン達も一緒になった。初めは長くても一ヵ月程度を考えていたが気が付くとその何倍もの時間を共に過ごしていた。


 そして死にそうな目にも合ったにも関わらず、最後まで私を手伝おうとしてくれている。だからこそシェリルも最期まで諦めるつもりはないのだ。


 シェリルの怒りに呼応するかのようにソウルイーターの圧力が増していく。女天狗はそれを見てさらに笑顔になる。


「うわー。凄いね! 私もどんどん楽しくなってきちゃうよ」


 女天狗の大剣も形を変えて禍々しくなっていく。


「はっ!」


 シェリルはソウルイーターで剣閃を無数に飛ばす。さらに動物の姿を魔法を飛ばす。炎の虎・水の鮫・風の兎・土の熊・雷の狼・氷の狐・闇の鳥・光の馬・毒の蛇。この魔法は避けても避けても意思を持っているかのように女天狗を狙っていく。


「凄い凄い。よくその状態で魔法をバンバン使えるね。でも最近も思い切り戦ってみたいだね。呪いが抑えきれなくなっているよ」


 女天狗の言う通りにシェリルの体に黒い痣が広がっていく。

 だがシェリルはそんな事は関係ないように動いている。


「だからどうした?」

「そのままだと勝っても大変なことになるよ」

「勝ってから考えるだけだ」


 女天狗の言う通りシェリルの体を呪いは蝕んでいる。その状態でこれだけの魔法を使っているので体には激痛が走っている。だがシェリルは攻撃の手を緩めない。


 だが女天狗の優位は崩れない。女天狗は思い切り大剣を振り回すとシェリルの魔法を全て消し去ってしまった。


「いやー、楽しかったよ。でもこれで終わりにしようか。多分他の所も終わっているだろうしね」


 大剣に途方もない魔力が込められる。

 シェリルもソウルイーターに魔力を込めて迎え撃つ姿勢を取る。


「いいね♪ でも残念だよ私には君が消える姿が見えているんだよね」

「…避けるのが上手いと思ったが未来視でもできるのか? まあどうでもいいがな」


 そして互いの全力の一撃を繰り出した。

 互いの力がぶつかると衝撃波が周囲を襲う。


 そしてシェリルは膝から崩れ落ち、女天狗は高らかに笑い声をあげた。


「アハハハハ。いやー、最後まで楽しめたな」


 すると女天狗の真ん中に一本の線が入る。


「私の見ていた未来が切られるなんてね。もし大天狗様や烏天狗も退けて、呪いをどうにか出来たらまた戦おうね。それじゃあまたね。私に勝ったご褒美を置いていくね」


 そう言って女天狗は消えていった。女天狗がいた場所には手のひらサイズの宝石のようなものが落ちていた。


「…どうにかここを出ないとな。う!?」


 シェリルは呪いによる痛みが苦しみが溢れそうになる。アイテムボックスに仕舞っている月光水を取り出そうとするが開くことが出来なくなっている。


「くそっ」


 何とか歩き出して女天狗の落としたアイテムを拾った。

 その時。シェリルのいた空間は元の場所に戻る。


「たぬ~!」

 

 コタロウがすぐに駆け寄ってきてシェリルに聖魔法をかける。少し遅れてリッカとムギが月光水を手渡した。


「すまないな」


 聖魔法と月光水のお陰で少し楽になる。お陰で周りの状態を確認できるくらいに意識が回復した。

 シェリル達の目の前にはジュンとベルが戦っている空間が見えている。先程までシェリルも同じように見えていたのだろう。だからこそすぐにコタロウ達はシェリルに駆け寄れたのだ。


 だがシェリルが見た光景は嬉しい物ではなかった。ジュンの腹に風穴が開き、ベルが黒炎に包まれるという光景だった。


 シェリルに意識を持っていかれたコタロウ達もシェリルと同時にジュン達の様子に気が付いた。


「ジュン! ベル!」


 シェリル達の悲鳴が響く。コタロウ達は駆け出すが切り取られた空間に届くことは無い。シェリル達はただただ見ているしかなかった。

 分かりにくいと思うので補足説明です。第三十五話で、ジュンが気になった冒険者の三人が大天狗達の人間状態です。

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