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第四十話 道化師キーノ

 翌日の探索からリッカが加わった。


 砂漠から火山の階層へと環境が変わったのだが暑い事だけは変わらない。ただ、足場が砂よりはしっかりしているのだけは良かったと思う。


 十日間程同じ階層に留まってリッカの特訓をしたのだが、リッカは中々優秀だった。戦闘能力も悪くないが、それよりも探索能力が素晴らしかった。


 リッカは偵察人形を使って、常に周囲の情報収集を行ってくれていたのですごく助かる。隠れている魔物も発見してくれるので、こちらから奇襲をかける事も可能だった。


「はっ」


 今もシェリルが一体の魔物を倒した。


「お見事」

「リッカのお陰だ。事前に遠くから見つけてくれていたからな。見つからない位置から攻撃が出来たのだ。私やベルの探知でも分かるのもあるが、視覚的にみられるのは強みだな」


 俺も同意見だ。俺自身は視力の強化で遠くは見られるが、先行して物陰などを見られるわけではない。熱感知にすれば隠れているのも見つかるが、魔力の消費が激しい上にこの場所だとあまり意味が無いのでリッカの参入はありがたい。


「この調子なら結構進めそうだな」

「そうだな。この辺りは環境はきついが強い魔物はいないからな」


 シェリルの言う通り、強い魔物や面倒な魔物もいなかったため、俺達は順調に進んで行った。

 


「私はあまり気配を感じないな」

「キュキュ」


 シェリルとベルは特に魔物の気配を見つけられないらしい。そんな中俺とコタロウはリッカと一緒に偵察人形から送られてきた映像を確認する。


 そこで画面の端に変な影を見つけた。


「リッカ。そこの岩陰をもう一回映してくれないか」


 違和感を感じた俺はリッカに指示して、その場所に近づいてもらう。

 そこにはピエロ姿の男がいた。人か魔物かは分からない物凄く嫌な予感がした。


「何か見つけたのか…どうした!?」

「キュ!?」


 シェリルとベルが声をかけてきた時、俺は物凄い顔をしていたのかもしれない。


「一回戻るぞ。早くしろ!」


 入り口を開けて戻る準備をした時だった。


「ただいま舞台が開演します。帰らず最後までご鑑賞ください」


 知らない男の声が聞こえたと思ったら、俺達は全く知らない場所に連れて行かれた。そこはまるでサーカス会場だ。誰もいない観客席が不気味に感じる。


 俺はそう思いながらも隠れ家の入口を急いで開こうとしたのだが、それは開くことが無かった。


「何だよここは?」

「…誰かの空間魔法だ。ヤバい奴に目を付けられたのかもな」


 シェリルも不安そうな表情になる。そしてリングの中央にスポットライトが当たる。

 そこにいたのは俺が見たピエロだった。ピエロは俺達の方を見て不気味に笑う。


「約束を覚えているようだね。そんな所にいないで君達もこっちに来なよ」


 不意に物凄い力で引っ張られる。抵抗するがビクともしない。

 そのまま俺達はリング上へと連れてこられた。


「初めまして、そして久しぶり。俺っちは“絶望の道化師”キーノさ。短い間だけどもよろしくな。これはお近づきの印だ」

「痛っ!?」


 両手に痛みが走る。見ると俺達の手にはナイフが突き立てられていた。いや、ベルだけは躱して反撃を試みていたのだが、キーノはベルの攻撃を避けて俺達に攻撃していた。


「たぬ!」


 コタロウがすぐに聖魔法を使って傷を癒してくれた。


「おお!これは俺っち驚いちまったよ。まさか俺っちの攻撃を躱す奴がいるなんてな。それに魔物が聖魔法とはね。そいつは神獣かい?」

「うるさい!消えろ」


 話すつもりは無いので、思い切り風の刃を放ってやった。


「あらま。短気だねぇ。そして……弱くなってない?」


 キーノは簡単に避けて俺の後ろに回った。そして俺の首に手を添える。


「お喋りの途中だったのが見えなか…ぶ!?」


 余裕綽々だったのでそのまま後ろに頭突きをしたら、キーノの顔にヒットしたようだった。そしてそれに合わせてシェリルが大鎌を振るって真っ二つにした。


「アハハハハハハハハハハハハハハハ♪」


 キーノは何事も無かったかのように体をくっつけると、上機嫌に笑っていた。


「面白いよお前達。リスと狸にも驚かされたけど、普通俺っちに後ろを取られて首に手を置かれたら恐怖で動けなくなるだろ。なのにお前と来たら頭突きをしてくるなんてな。俺っち予想外過ぎて固まっちまったよ。それに女の動きも見事だったな。隙を逃さない攻撃。今日は楽しめそうだ♪」

「付き合ってられるか」

「キュキュ!」


 シェリルとベルはすぐに動き出す。シェリルがキーノの動きを制限するように魔法を放ち、ベルが強力な闇魔法で仕留めにかかる。


 その魔法は黒く重く全てを飲み込むような魔法だ。


「これは俺っちでもヤバいかも。そんな時は…じゃん。“吸引フープ”」


 キーノはフラフープを出現させると頭上に掲げる。するとベルの魔法もシェリルの魔法もフラフープの輪の中に吸い込まれて消えてしまった。


 これには俺達は驚きを隠せなかったが、リッカがすぐに動いていた。


「ベア!」


 戦闘人形がキーノに襲い掛かる。


「へえ♪面白いね。でも俺っちも人形や猛獣を手なずけているんだよ」


 キーノが指を鳴らすと、リング上にライオン型の魔獣やピエロの人形が現れる。


「う~ん。本当は俺っちも全員と遊びたいけどさすがに人数が多いからな。…やっぱりここは強そうなリスと女にするかな。他の人達も頑張って生きていたら遊んでやるからな♪」


 俺達とコタロウとリッカは客席へと飛ばされる。リング上には大きなカーテンがかかり中の様子が見えなくなる。そして俺達を追うように、魔獣とピエロの集団が襲ってきた。

 

「邪魔だ」


 思い切り嵐舞を振るうが人形も魔獣も攻撃を受け止めてくる。その辺の魔物よりも明らかに強い。シェリルとベルの方も気になるが、まずは目の前の敵を何とかしないと。


「リッカ。戦闘人形を可能な限り出してくれ。コタロウはリッカの側で結界を張りつつ、光魔法で援護を頼む!」

「たぬ!」

「ベア!」


 すぐに俺の言う通りに動いてくれる。俺は嵐舞を握りしめる。


 魔獣も人形も強いし連携もとれている。だけど、俺だって実践経験は積んできたし、ベルに鍛えてもらってきたんだ。


 俺は相手の動きに集中する。魔獣は動きは速いがパワーにも重きを置いている、一撃の威力は高いが動きは単調だ。ピエロの人形は笛を吹いたりバイオリンを弾いているが、音による攻撃ではなく精神的な作用の方が強い。


「だけどこの程度」


 水魔法に土魔法を混ぜた一撃を放つ。要はウォータージェットだ。魔法の力で威力はとんでもない物に仕上がっている。今も魔獣を一体葬った。


 俺が魔法を放った隙に魔獣達は攻撃を仕掛けてくるが、そこはコタロウやリッカがカバーしてくれる。

 だけど、キーノが出した魔物達なので一筋縄ではいかなかった。無理な攻撃はせずに時間稼ぎに徹している。こちらが無茶な攻撃を仕掛けると反撃を受けてしまう。


「これはちょっとヤバいな」


 どうしてもシェリル達の事が気になって焦ってしまう。そこを見透かしたように魔獣たちは俺を攻撃してくる。


「少しくらい無理しなきゃダメか」


 魔獣達は無理な攻撃は仕掛けてこない。こちらの様子を見て攻撃をしてくる。逆に言えば先手は俺にくれているのだ。覚悟を決めて俺は四方から牽制してくる魔獣達の一角に向かって特攻を仕掛ける。


 魔獣達はここぞとばかりに俺に襲い掛かってきた。だが、コタロウの魔法やリッカの戦闘人形が魔獣達の動きを遅らせてくれる。その間に俺は目の前の敵に向かって嵐舞を振るう。


 攻撃は受け止められるが無理やり振り抜く、そして風の刃とウォーターカッターを放つ。魔獣や人形は吹き飛ばされて客席は壊れる。その瞬間に背中に痛みが走る。。魔獣の一体が俺の背中をひっかいていた。


「邪魔だ!」


 俺は振り向いて蹴り飛ばす。多少痛みはあるが、今は気にならない程度だ。そのまま俺は攻撃を仕掛ける。ここまでくると体の傷などは気にならなくなってくる。無我夢中で戦い続け、俺の体はボロボロになっていた。


「たぬぬ!」

「ベア!」


 するとコタロウ達も参戦してきた。敵との距離を上手くとりつつ俺の回復やカバーをしてくれた。そのおかげもあって俺は魔獣と人形を倒すことに成功した。


「シェリルとベルは」


 自分の戦いに集中していたため二人の様子が目に入らなかった。そしてリングを見るとカーテンが丁度落ちて中が見えた。そこには倒れて苦しんでいる二人の姿があった。

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