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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~魔道師団長編~
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前衛と後衛の役割

 開始の合図とともにミリンダがまずは動く。

 手を前にやり、アリスに防御魔法を発動。リーリンがしたのと同じようにアリスの身体に青色の光を纏わせる。

 そして青い光が無事に消えるのを待ち、アリスが踏み込んだ。

 一気にアルバとの距離を詰め剣で応戦してくる。

 突きや薙ぎはらいなど多彩な攻撃を織り交ぜながら、アルバに攻撃を繰り返す。

 アルバはアリスの剣に意識を集中させ、アリスの攻撃一切を全てかわしていく。腰にある刀は抜いていない。意図的に抜いていないのだ。

 アリスもそれに気づき攻撃の手をやめることなく問いかけてくる。


「あら。刀は抜いて構いませんと言いましたでしょ」

「ああ知ってるよ」

「では、どうして抜かないのです?私に対する当てつけですか?」

「違う」


 アルバは否定する。

 その間にもアリスの剣は鈍ることなくアルバの身体を切ろうと迫ってくる。

 アルバはそれを流れるようによけながら続けた。


「訓練だろ」

「刀を抜くまでもないと。そう言いたいのですか」


 アリスの語気が少し荒げる。

 心なしか剣の振りも早く力がこもってきた気がする。

 アルバはそれを認識しつつも、焦ることなく冷静に一個一個の攻撃を対処していく。


「そうじゃない。勘違いするな」

「では、どういった理由なのですか?」

「これは訓練だろ。リーリン達に見せる訓練。だったらまずは体術でいこうと思ってるだけだ。刀を使ったらリーリンはともかくミナセやユンフィの訓練にならない」


 あまつさえ高速移動をしてしまえば、見学しているリーリン達からはアルバの動きが見えなくなる。

 それでは意味がない。視認出来なければ盗めるものも盗めなくなる。


「だから、アリスも炎を使わずに攻めてきたんだろ。お前が炎を纏わせなかったのは今が初めてだ。魔物相手にだって炎を使ってるのにな」


 自警団が国外で訓練を行ったとき、アルバは綺麗に焼かれた魔物の死体を見つけている。あんな芸当出来るのは炎魔法が得意なアリスだけだ。

 王都近くの森の魔物相手にアリスが後れを取るなんてありえない。つまりは、弱い相手だろうとアリスは炎魔法を使っているということになる。

 決闘の時もアリスは必ずと言っていいほど炎を剣や周りに纏わせた。

 だが、今はそれがない。

 アルバがその違いに気づかないわけがないのだ。


「……正解です。やはりというかその洞察力、ムカつきます」

「うるせぇ。お前だって知ってて言ってきたくせに」


 アリスが自分で言ったことを忘れるわけがない。

 初めから訓練として、アルバが刀を抜かない理由を分かっていて、わざと挑発に乗るような行動に出たのだ。

 現に、アルバの発言に本当に気分を害したのなら剣に隙が出てもおかしくない。なのに、アリスの剣は力こそ強まったものの隙は一切感じられない。

 あえて挑発に乗るふりをして、剣を振る速度と強さを速めたのだ。

 相手が油断して攻めてくるのを待って。


「ですが、そろそろこのままというわけにはいきません」

「ああ。それは俺も同意見だ」


 アリスが渾身の突きをアルバに放つ。

 アルバはそれを身をよじることでギリギリのタイミングで避けると、そのまま身体を回転させがら空きのアリスの横腹に回し蹴りをお見舞いする。

 だが、アルバの踵がアリスの横腹を捉えることは叶わなかった。

 ミリンダが二人の動きをよく観察し、アルバが身体を回したタイミングで蹴りが来るであろう場所に小さくも固い障壁を展開。アルバの踵を押し返したのだ。

 その冷静で精密な防御魔法の使い方にリーリンは目を見開く。

 他の二人も同様だった。

 守られたアリスに焦りの色はない。まるでミリンダが守ってくれるのが分かっているかのような動きだ。アルバの意識を無防備な自分の横腹にあえて集めたようにも映る。

 誘われたな。

 アルバはそう思っていた。

 瞬間、自分の横から猛烈な気配を感じる。

 咄嗟にアルバはしゃがむことで回避。

 視線を上にすると、さっきまでアルバの頭があった場所をアリスの剣が通っていた。

 突きを避けられてからの切り返し。

 明らかに速い動作にアルバはアリスの身体を見た。

 アリスの身体全体が仄かに光っている。付与魔法だろう。

 防御魔法でアルバの蹴りを押し返し、アリスが身体の向きを変えようとするその数秒のうちに、ミリンダはアリスの身体に身体能力をあげる付与魔法をかけた。

 それで、アルバはアリスの剣を一瞬見失ったというわけだ。

 しゃがみこんだアルバはそこまで考えたのち、アリスに対して足払いを繰り出す。

 だが、それも見破られアリスは回るように後ろに飛ぶ。

 ミナセの時のように追撃しようにもアルバの体制は両足を曲げている状態だ。ここから足を上に上げることはいくらアルバとしても不可能。よってアリスは難なくアルバの足払いをよけ、距離をとることに成功。しかも、その途中で光弾の攻撃というおまけ付きだ。

 アルバは避けることもままならず仕方なく顔を腕で防ぎ、何とかやり過ごす。

 だが、腕に被弾したのには変わりない。

 アルバの左腕が少々負傷した。


「すごい」

「あのアルバ先生に一発食らわせちゃったね」

「うん。驚いた」


 見学していたリーリン達からも声がもれる。

 視線は全員、アリスとミリンダに注がれている。

 自分達があんなにも苦戦したのに、アリスとミリンダはこの短時間にアルバに一発お見舞いしている。それが、三人には信じられなかった。

 当たり前というかそうなのだが、やはりアリスと他の生徒ではレベルが違う。

 そしてなによりも。


「ミリンダさんってすごかったんだ……」


 ミナセの口からそんな言葉がもれた。

 王宮メイドだからそれなりの戦闘スキルはあると踏んでいたが、それでもミリンダの戦い慣れはリーリン達を驚かせたらしい。

 ミナセの呟きにリーリンとユンフィも頷いていた。


「あれ?教えてませんでしたっけ?」


 ミリンダがリーリン達の視線を感じ取り反応する。


「私、一応元王宮騎士なんですよ。今はいろいろあってメイドですけど」


 ミリンダが軽く自分の素性を話す。

 それにアルバはもちろんのこと、王族でもあるアリスも驚きはしない。昔からミリンダはアリスを知っていたというし、アリスもほうも王宮騎士時代のミリンダを知っているみたいだ。

 だが、他の三人はそうじゃない。


「えーー!?」


 ミナセが叫び、リーリンは驚いて開いた口が塞がらない状態。

 ユンフィだけは二人ほど驚いてはいないが、若干目が見開かれ大きくなっている。


「うそ!?知らなかった!」

「あはははは……すみません。でも、嘘じゃありませんよ」

「確かに、ミリンダさんってなんだか不思議と魔法に詳しかったような。教えるのが上手だなとは思ってました」


 リーリンは少し得心いった顔で呟いた。

 実際、リーリンは前にミリンダから魔法と性格の影響について直接教わっている。リーリンの性格は攻撃魔法には向いてない。人を守る方がいいのだとして今の戦い方を教わったのもミリンダだ。その時に王宮騎士を引き合いに出して説明していたのは覚えている。

 アルバには当たり前と疑問にも思わなかったが、リーリンからしてみると不思議と感じ取れたようだ。

 今やっとリーリンの中でミリンダのイメージがつながったみたいだ。


「元王宮騎士だからあそこまで精密な魔法操作が出来たんですね……」


 リーリンの口から感嘆の声があがる。


「いえ、違いますよ」


 しかしそれをミリンダがすかさず否定した。


「確かに元々王宮騎士の私はリーリンさん達のよりも戦闘経験が豊富です。ですが、防御魔法に至っては今までほとんど使ったことがありません。リーリンさんにも劣るほどですよ」

「でも、さっきアルバさんの攻撃をふせいで」

「あれはアリス様のおかげです」


 三人の視線がミリンダからアリスに向かう。


「アリス様がわざと分かりやすい攻撃をして、アルバ様の意識を自分の身体に引きつけてくださいました。だから私でも簡単に守れたというわけです。どんな攻撃でもくる場合さえわかれば後は簡単です。防御魔法の効力をあげればいいだけですから。全体の防御魔法にしなかったのは、強度重視です。私の魔力ではリーリンさんのように大きな障壁でアルバ様の攻撃を防ぐことはできませんから」


 最後に苦笑いを浮かべ、ミリンダが流れるように説明する。

 そしてそこにアリスも加わる。


「後衛は前衛で戦っている味方のサポートを主にしますが、前衛にもまた後衛がサポートしやすくするように相手の攻撃を誘導するといった役割があります」

「はい。その結果、アルバ様の意識が無防備なアリス様の横腹に集中。私は難なくアルバ様の攻撃に耐えうる障壁を張ることが出来て、弾かれたアルバ様にすかさずアリス様が剣で攻撃を仕掛け、動きの選択肢を絞らせたというわけです」

「アルバは人一倍の危機察知能力がありますからね。必ず避けてくれると思いました」


 まんまとアリスとミリンダに乗せられ、アルバはしゃがみこんでアリスの剣をよけた。

 

「そして、続くアルバ先生の足払いをアリス様は飛んで避けた。なぜなら」

「しゃがんでいたからアルバは追撃できない」

「その通りですわ」


 ミナセとユンフィの発言にアリスが頷く。


「だから、アルバさんに光弾が当たったんだね。足払いの途中で両足を曲げているから避けるのには使えない。かといってユンフィの言った通りアリス様の追撃も出来ない。結果、アルバさんは光弾を手で防ぐことしか出来なかった……というわけですね」

「正解です」


 リーリンの回答にミリンダが微笑む。

 アリスとミリンダ。互いが互いを信じ、短い時間で役割を認識した。前衛が攻撃を誘導させ、後衛がそれに応じるように前衛を守る。そして隙を見せない相手に自分達で隙をつくった。

 アリス達の場合だと、その後の動きまで計算に入れたわけである。

 すべては最後の光弾での攻撃をアルバに当てるために。

 ミリンダのやったことはリーリンがやったことと大して変わりがない。防御魔法でアルバの攻撃を防ぐというものだ。しかし、決定的に違うのはそれを咄嗟の判断でやったのか、前衛と連携をとってやったのかだ。

 ミリンダは冷静にアリスの動きもアルバの動きも見極めた結果、アリスの考えを読み取り防御魔法をピンポイントに展開。そしてアリスはミリンダが自分の考えを読み取り防御魔法で攻撃を防ぐところまでを想定して動いていた。さらには立て続けにミリンダによる付与魔法でアリスが予想以上の速さで動く。よってアルバにしゃがみこませ、後の光弾での攻撃に対して避けるという選択肢を無くし、受け止めるしかない状況にまで追い詰めた。だから攻撃を当てることが出来たのだ。

 これはアリスとミリンダだからできたこと。まだ一年生のリーリン達には難しい。

 だが、伝わったことはゼロではないだろう。

 その証拠にミナセがアリスとミリンダの説明を受け、なにか考える素振りを見せる。

 リーリンやユンフィもまた同じように何かを受け止めている様子だ。

 自分達の言っていることが伝わっているのを実感したアリスとミリンダは、三人の様子に満足げに見つめた後アルバに視線を戻した。


「そろそろ刀を抜きたくなったんじゃないですか?」


 アリスが挑戦的な態度でアルバを見据える。

 アルバは光弾が被弾した腕の調子を確かめるように軽く上下に振った後、

「いや、まだもう少しだけ刀なしでやってみたい」

 と言った。


「懲りない人ですね。あなたに攻撃が当たったとはいいましたけど、刀があればまだあなたは無傷でしょ。光弾ぐらいあなたなら切り伏せたはずです」


 アリスは剣を構えいつでも対応できるようにする。


「あぁそうだな。でも、ちょっとこの状況が楽しくなってきたからな」

「……楽しくなってきた?相変わらず変な人ですね」

「悪いな。そういう性格なんだよ」

「結局あなたの根底にあるのは、戦いが好きなグリードの戦士なのですね」

「仕方ない。そうやって今まで生きてきたんだ。簡単には変わらないよ」

「あなたが味方で心からよかったと思います。敵でしたら勝ち目なんてありませんから」

「安心しろ。俺が守り人である内はお前達の味方だ」


 アルバが床を踏み込んだ。

 だが、そう思った時にはすでにアリスの懐に入り込んでいた。

 咄嗟にミリンダがアリスにかけていた防御魔法の強度を高める。

 それでもアルバはお構いなしにアリスのお腹辺りに掌底を叩きこんだ。

 衝撃がアリスと、そしてミリンダを襲う。

 防御魔法でなんとか直接のダメージを防ぐとこが出来たアリスだったが、あまりの衝撃に気づけばアリスの身体はアルバから数メートル離されていた。

 ミリンダも、衝撃に対して苦悶の表情を浮かべている。


「まぁ、今は敵みたいなもんだけどな」


 アルバの冷静な声が屋内訓練場に響く。

 アリス、そしてミリンダもこれには気を引き締める思いだった。

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