第25章:凍てつく代償
25章:凍てつく代償
一
太平洋上の対魔局大型輸送艦。
深海から帰還した「リヴァイアサン」から運び出された結月は、即座に艦内の集中治療室へと搬送された。
「……結月の状態はどうだ?」
治療室の前で、蓮が血の滲むような声で尋ねる。
その手は、怒りと焦燥で微かに震えていた。
「……バイタルは安定しているわ。……でも……」
治療室から出てきた紗綾局長が、重苦しい表情で首を振る。
「……でも、なんだよ! ……結月は助かるんだろ!?」
蓮が、紗綾に詰め寄る。
「……落ち着きなさい、蓮。……命に別状はないわ。……ただ、彼女の『絶対零度』の代償が、ついに肉体的な限界を超えてしまったの」
紗綾が、蓮の肩を両手で押さえてなだめる。
「……肉体的な限界……?」
蓮が、呆然と呟く。
「……ええ。……結月の魔法は、周囲の熱を奪うだけでなく、彼女自身の体温や生命力をも凍結させていく。……今回の戦闘で、彼女は限界以上の魔力を引き出した。……その結果、彼女の右腕と右足の細胞が、完全に凍死してしまったの」
紗綾が、残酷な事実を告げる。
「……凍死……。じゃあ、結月の腕と足は……」
蓮の顔から、血の気が引いていく。
「……現代の医療魔法でも、凍死した細胞を蘇生させることはできないわ。……彼女は、もう二度と……右腕と右足を動かすことはできない」
紗綾が、目を伏せる。
「……そんな……」
蓮が、その場に崩れ落ちる。
「……俺のせいだ……。俺が、もっと強ければ……結月にあんな無茶をさせずに済んだのに……!」
蓮が、床を強く叩きつける。
その手から、再び血が滲み出す。
「……自分を責めないで、蓮。……結月は、あなたたちを守るために、自らの意志で魔法を使ったのよ。……彼女の覚悟を、無駄にしないで」
紗綾が、蓮の背中に優しく手を置く。
「……局長……」
蓮が、涙で顔を歪める。
「……今は、彼女の回復を祈りましょう。……そして、教団の野望を完全に打ち砕くための準備を進めるのよ」
紗綾が、力強く言う。
蓮は、無言で頷き、治療室の窓越しに結月の姿を見つめた。
ベッドの上で眠る結月の右腕と右足は、特殊な魔法包帯でぐるぐる巻きにされていた。
(……結月……。俺は、お前のために……何ができるんだ……)
蓮の心に、深い絶望と、それ以上の強い決意が渦巻いていた。
二
数日後。
対魔局本部の病室で、結月が目を覚ました。
「……ここは……」
結月が、ゆっくりと目を開ける。
白い天井と、消毒液の匂い。
「……結月! ……気がついたか!」
ベッドの傍らで付き添っていた蓮が、結月の手を握りしめる。
「……蓮……。私……」
結月が、蓮の顔を見て、微かに微笑む。
「……よかった……。本当によかった……」
蓮が、結月の手に額を押し当てて涙を流す。
「……泣かないでください、蓮。……私は、大丈夫ですから」
結月が、左手で蓮の頭を優しく撫でる。
「……ごめん……。俺が不甲斐ないばかりに、お前にこんな……」
蓮が、顔を上げて結月を見る。
結月は、自分の右腕と右足に視線を落とした。
感覚が全くない。まるで、自分の身体の一部が切り取られてしまったかのような喪失感。
「……私の腕と足……動かないんですね」
結月が、静かに言う。
「……ああ。……ごめん、結月。……俺が……」
蓮が、再び俯く。
「……謝らないでください。……これは、私が選んだ結果です。……蓮や、透くん、アリスちゃんを守れたなら……腕や足の二本や三本、安いものです」
結月が、真っ直ぐな瞳で蓮を見つめる。
「……結月……」
蓮が、結月の強さに言葉を失う。
「……それに、私にはまだ左腕があります。……魔法だって、まだ使えます。……だから、これからも……蓮の隣で戦わせてください」
結月が、蓮の手を強く握り返す。
「……バカ野郎。……お前はもう、戦わなくていい。……これ以上、お前を傷つけたくないんだ」
蓮が、首を横に振る。
「……嫌です。……私は、蓮と一緒にいたい。……蓮の背中を守りたいんです」
結月が、涙を浮かべながら訴える。
「……結月……」
蓮は、結月の強い想いに胸を打たれた。
感情を失っていたはずの彼女が、これほどまでに強い感情を露わにしている。
「……分かった。……でも、無茶だけは絶対にしないって約束しろ。……お前が死んだら、俺は……」
蓮が、結月の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
「……はい。……約束します」
結月が、涙を拭って微笑む。
二人の間に、言葉以上の強い絆が結ばれた瞬間だった。
三
結月の意識が戻ったという知らせを受け、凛音、透、アリス、シロ、アランが病室に駆けつけてきた。
「……結月! ……よかった、本当に……!」
凛音が、結月に抱きついて号泣する。
「……凛音……。心配かけて、ごめんなさい」
結月が、左手で凛音の背中を撫でる。
「……白石さん……。僕のせいで、こんな……」
透が、申し訳なさそうに俯く。
「……透くんのせいじゃありません。……透くんがアリスちゃんを助けてくれたから、私たちは生きて帰れたんです。……ありがとう」
結月が、透に優しく微笑みかける。
「……ゆづきおねえちゃん……。ごめんなさい……」
アリスが、透の後ろから顔を出し、涙ぐむ。
「……アリスちゃん。……もう、怖いことはないからね。……私たちが、ずっと守るから」
結月が、アリスに手を差し伸べる。
アリスは、結月の左手を両手で包み込み、泣きじゃくった。
「……結月さん。……あなたの自己犠牲の精神には、感服します。……しかし、論理的に考えれば、あの状況での最適な選択は……」
シロが、淡々と分析を始めようとする。
「……シロ、今はそういうのはいいから。……空気読めよ」
アランが、シロの頭を軽く小突く。
「……痛いです、アラン。……私はただ、事実を述べようとしただけで……」
シロが、不満そうに頬を膨らませる。
「……ふふっ。……みんな、変わらないですね」
結月が、そのやり取りを見て小さく笑う。
病室に、温かい空気が流れた。
過酷な戦いを乗り越え、彼らの絆はより一層深まっていた。
しかし、その平和な時間は長くは続かなかった。
「……みんな、揃っているわね」
病室のドアが開き、紗綾局長が入ってきた。
その表情は、かつてないほどに険しかった。
「……局長。……何かあったんですか?」
蓮が、紗綾のただならぬ雰囲気を察して尋ねる。
「……教団の動きが、活発化しているわ。……世界各地で、同時多発的に魔法災害が発生しているの」
紗綾が、タブレット端末を操作し、空中にホログラムのモニターを表示する。
モニターには、世界地図上に無数の赤い点が点滅していた。
「……これは……。どういうことだ?」
蓮が、モニターを見つめる。
「……教皇とイヴが逃亡した後、教団は残存勢力を結集し、世界中にある『特異点候補』の施設を襲撃しているのよ。……彼らは、アリスに代わる新たな特異点を手に入れようとしている」
紗綾が、厳しい声で説明する。
「……新たな特異点……。じゃあ、まだ他にもアリスちゃんみたいな子がいるってことですか?」
透が、驚いて尋ねる。
「……ええ。……対魔局が把握しているだけでも、世界中に数十人の特異点候補が存在するわ。……教団は、その全てを狙っている」
紗綾が、頷く。
「……くそっ! ……あいつら、まだ諦めてねえのか!」
蓮が、拳を握りしめる。
「……それだけじゃないわ。……教団は、奪った特異点候補たちを使って、『人工特異点』の量産を開始したという情報もあるの」
紗綾が、さらに絶望的な事実を告げる。
「……人工特異点の量産……!? ……あの、舞に似た化け物を、大量に作るってのか!?」
蓮が、顔を青ざめさせる。
「……ええ。……もしそれが実現すれば、世界は完全に教団の支配下に置かれることになるわ」
紗綾が、重々しく言う。
「……そんなこと、絶対にさせねえ! ……俺たちが、教団をぶっ潰す!」
蓮が、立ち上がる。
「……蓮。……気持ちは分かるけど、今のあなたたちでは、教団の総力には太刀打ちできないわ。……結月も、こんな状態だし……」
紗綾が、結月を気遣う。
「……私は、大丈夫です。……戦えます」
結月が、ベッドの上で身を起こそうとする。
「……無理しないで、結月。……あなたの身体は、まだ……」
凛音が、結月を制止する。
「……局長。……俺たちに、何か策はあるんですか?」
蓮が、紗綾に尋ねる。
「……一つだけ、あるわ。……教団の野望を完全に打ち砕くための、最終作戦が」
紗綾が、蓮の目を真っ直ぐに見つめる。
「……最終作戦……?」
蓮が、息を呑む。
「……ええ。……作戦名は、『オペレーション・トワイライト』。……教団の真の本拠地である『天空の城』への、総攻撃よ」
紗綾が、モニターに巨大な浮遊都市の画像を表示した。
四
「……天空の城……。教団の本拠地は、空にあるってのか?」
蓮が、ホログラムに映し出された巨大な浮遊都市を見上げて驚愕する。
「……ええ。……彼らは、古代の魔法技術と現代の科学を融合させ、成層圏に巨大な要塞を築き上げたの。……そこから、世界中の特異点候補を監視し、人工特異点の量産を行っているわ」
紗綾が、浮遊都市の構造図を展開しながら説明する。
「……成層圏……。そんなところに、どうやって攻め込むんだよ。……潜水艇の次は、宇宙船でも使うのか?」
アランが、呆れたように言う。
「……対魔局の航空戦力では、バビロンの防空システムを突破することは不可能よ。……だから、少数精鋭による潜入工作を行うしかないわ」
紗綾が、蓮たちを見渡す。
「……少数精鋭……。つまり、俺たちが行くってことだな」
蓮が、覚悟を決めた表情で言う。
「……ええ。……蓮、凛音、透、シロ、アラン。……そして、結月。……あなたたち六人に、この世界の命運を託すわ」
紗綾が、深く頭を下げる。
「……待ってください、局長。……結月は、右腕と右足が動かないんですよ。……そんな状態で、成層圏の要塞に潜入なんて……」
蓮が、結月を庇うように前に出る。
「……蓮。……私は、行きます」
結月が、蓮の背中越しに静かに、しかし力強く言う。
「……結月! ……お前、自分がどんな状態か分かってんのか!?」
蓮が、振り返って結月を怒鳴る。
「……分かっています。……でも、私が行かなければ、誰が蓮の背中を守るんですか? ……誰が、アリスちゃんのような子供たちを救うんですか?」
結月の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
「……それは……」
蓮が、言葉に詰まる。
「……それに、私には考えがあります。……シロ、アラン。……お願いがあるんです」
結月が、シロとアランに視線を向ける。
「……なんでしょうか、結月さん」
シロが、首を傾げる。
「……私の右腕と右足の代わりに……魔法義肢を作ってくれませんか?」
結月の言葉に、病室の空気が凍りついた。
「……魔法義肢……!? ……お前、本気で言ってるのか!?」
蓮が、目を見開く。
「……魔法義肢の理論は存在します。……しかし、それは使用者の魔力を直接神経に接続し、義肢を動かすという非常に危険な技術です。……少しでも魔力制御を誤れば、激痛と共に精神が崩壊するリスクがあります」
シロが、冷静にリスクを説明する。
「……それに、今の結月の魔力回路は、絶対零度の代償でボロボロのはずだ。……そんな状態で魔法義肢なんて繋いだら、命に関わるぞ!」
アランが、強く反対する。
「……分かっています。……でも、私にはこれしか方法がないんです。……お願いです、シロ、アラン。……私に、戦う力をください」
結月が、ベッドの上で深く頭を下げる。
「……結月……」
凛音が、涙ぐみながら結月を見つめる。
「……九条くん。……白石さんの覚悟、無駄にしちゃダメだよ」
透が、蓮の肩に手を置く。
蓮は、結月の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
彼女の決意は、誰にも曲げられないほどに固い。
「……分かった。……シロ、アラン。……結月に、最高の魔法義肢を作ってやってくれ。……絶対に、壊れないやつをな」
蓮が、苦渋の決断を下す。
「……蓮……。ありがとうございます」
結月が、涙を浮かべて微笑む。
「……了解しました。……結月さんの魔力波長に最適化した、専用の魔法義肢を設計します」
シロが、タブレット端末を取り出し、即座に計算を始める。
「……しゃあねえな。……俺の技術の粋を集めて、最高のパーツを組み上げてやるよ。……覚悟しとけよ、結月」
アランが、ニヤリと笑う。
「……はい。……よろしくお願いします」
結月が、力強く頷く。
こうして、結月の魔法義肢開発プロジェクトが極秘裏に開始された。
五
それから一週間。
対魔局の地下開発室では、シロとアランによる魔法義肢の調整が最終段階を迎えていた。
「……結月さん、魔力接続のテストを行います。……少し痛むかもしれませんが、耐えてください」
シロが、結月の右肩と右太腿に接続されたケーブルのスイッチを入れる。
「……っ……!」
結月の顔が、激痛に歪む。
魔力が神経を直接焼き切るような感覚が、全身を駆け巡る。
「……結月! ……大丈夫か!?」
見学していた蓮が、思わず駆け寄ろうとする。
「……来ないでください、蓮! ……私は、大丈夫です……!」
結月が、歯を食いしばって痛みに耐える。
「……魔力波長、同調率80%……90%……95%……。同調完了。……結月さん、義肢を動かしてみてください」
シロが、モニターを確認しながら指示を出す。
結月が、ゆっくりと右腕に意識を集中させる。
すると、銀色に輝く金属製の右腕が、微かにピクリと動いた。
「……動いた……!」
凛音が、歓声を上げる。
結月は、さらに意識を集中させ、右手の指を一本ずつ動かしていく。
そして、ゆっくりと右腕を持ち上げ、拳を握りしめた。
「……成功です。……結月さんの魔力による、完全な制御が確認されました」
シロが、安堵の息をつく。
「……へへっ。……俺の作った関節モーター、最高だろ? ……人間の腕よりスムーズに動くぜ」
アランが、得意げに鼻を擦る。
「……シロ、アラン。……本当に、ありがとうございます」
結月が、魔法義肢の右腕で、自分の左手を握りしめる。
冷たい金属の感触が、彼女に新たな力を与えてくれた。
「……結月。……無理はしてないか? ……痛くないか?」
蓮が、心配そうに結月の顔を覗き込む。
「……少しだけ、ピリピリしますけど……大丈夫です。……これで、また蓮と一緒に戦えます」
結月が、蓮に向けて、これまでで一番の笑顔を見せた。
蓮は、結月の笑顔を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。
彼女は、自分のために、これほどの苦痛に耐えてくれたのだ。
「……ああ。……一緒に行こう、結月。……天空の城へ」
蓮が、結月の魔法義肢の右手を、両手で包み込むように握りしめる。
「……はい!」
結月が、力強く頷く。
翌日。
対魔局の飛行甲板に、蓮たち六人の姿があった。
彼らの前には、成層圏への到達が可能な最新鋭のステルス輸送機「ナイトフォール」が駐機している。
「……準備はいいわね、みんな」
紗綾局長が、蓮たちの前に立つ。
「……ああ。……いつでもいけるぜ」
蓮が、共鳴剣を背負い直す。
「……アリスちゃんは、安全な施設に保護したわ。……あなたたちは、教団の野望を打ち砕くことだけに集中しなさい」
紗綾が、透に視線を向ける。
「……はい。……アリスちゃんのためにも、絶対に勝ちます」
透が、決意を込めて頷く。
「……シロ、アラン。……ナビゲートとハッキングは任せたわよ」
紗綾が、二人に指示を出す。
「……了解しました。……バビロンのシステムを、完全に掌握してみせます」
シロが、タブレット端末を操作する。
「……俺の腕の見せ所だな。……教団の連中に、本物のハッキングってやつを教えてやるよ」
アランが、ニヤリと笑う。
「……凛音、結月。……蓮と透を、しっかりサポートしてあげてね」
紗綾が、二人のヒロインに微笑みかける。
「……任せてください、局長! ……私の超電磁砲で、教団の要塞ごと吹き飛ばしてやりますから!」
凛音が、レールガンを構えて自信満々に言う。
「……私も、全力を尽くします。……この新しい腕と足で」
結月が、魔法義肢の右腕を軽く動かして見せる。
「……よし。……『オペレーション・トワイライト』、作戦開始! ……全員、無事に帰還すること。……これが、私からの唯一の命令よ」
紗綾が、力強く敬礼する。
「……了解!」
蓮たちが、一斉に敬礼を返す。
六人は、ステルス輸送機「ナイトフォール」に乗り込み、天空の城「バビロン」へと向けて飛び立った。
青空を切り裂き、成層圏へと上昇していく輸送機。
その先には、人類の存亡を懸けた、最終決戦の舞台が待ち受けていた。
蓮は、隣に座る結月の魔法義肢の右手を、そっと握りしめた。
結月も、蓮の手を強く握り返す。
言葉はなくても、二人の想いは一つだった。
絶対に生き残る。そして、この狂った世界に、終止符を打つ。
残響魔術の真の力が、今、天空の城で試されようとしていた。
六
成層圏。
高度二万メートルを超える空域は、濃紺の宇宙と薄青の大気が交じり合う、静寂と死の世界だった。
ステルス輸送機「ナイトフォール」は、光学迷彩と魔力隠蔽システムを最大出力で稼働させながら、目標空域へと接近していた。
「……現在、高度二万五千メートル。……目標の『天空の城』まで、距離五十キロ」
操縦席のアランが、計器を確認しながら報告する。
「……外は、もう宇宙みたいだな」
蓮が、小さな窓から外の景色を見下ろす。
眼下には、雲海が広がり、そのさらに下には、青く輝く地球の丸みが見えた。
「……美しいですね。……でも、あの美しい世界を、教団は壊そうとしている」
結月が、魔法義肢の右手を胸に当てながら言う。
「……ああ。……絶対に、守り抜いてみせる」
蓮が、結月の言葉に力強く頷く。
「……シロ、バビロンの防空システムはどうなってる?」
蓮が、後部座席でタブレット端末を操作しているシロに尋ねる。
「……バビロンの周囲には、強力な魔力探知レーダーと、自動迎撃用の魔法砲台が多数配置されています。……ナイトフォールの隠蔽システムでも、距離十キロまで接近すれば、確実に発見されます」
シロが、冷静に分析結果を伝える。
「……距離十キロか。……そこから先は、強行突破するしかねえな」
蓮が、共鳴剣の柄を握りしめる。
「……任せておけ。……俺の操縦テクニックで、魔法砲台の弾幕を潜り抜けてやるよ」
アランが、操縦桿を強く握る。
「……私も、迎撃のサポートをするわ。……超電磁砲で、砲台を片っ端からスクラップにしてやる!」
凛音が、レールガンのチャージを開始する。
「……距離二十キロ。……まもなく、敵のレーダー圏内に突入します」
シロの声に、機内に緊張が走る。
「……全員、衝撃に備えろ!」
アランが、叫ぶ。
距離十キロ。
その瞬間、ナイトフォールの計器が一斉に警告音を鳴らし始めた。
「……敵レーダーに捕捉されました! ……魔法砲台、多数ロックオン!」
シロが、モニターに表示された無数の赤い光点を指し示す。
「……来たぞ! ……振り落とされるなよ!」
アランが、操縦桿を急旋回させる。
直後、ナイトフォールの周囲を、無数の魔法弾が掠めていった。
光の矢のような魔法弾が、成層圏の暗闇を切り裂く。
「……くそっ! ……弾幕が厚すぎる!」
アランが、必死に機体を操りながら舌打ちをする。
「……凛音、迎撃を頼む!」
蓮が、指示を出す。
「……了解! ……『雷撃』――超電磁砲・連射!」
凛音が、機体のハッチを少しだけ開け、そこからレールガンの銃身を突き出す。
連続して放たれる雷撃のレーザーが、迫り来る魔法弾を次々と撃ち落としていく。
「……すげえ! ……凛音、ナイスだ!」
アランが、歓声を上げる。
「……油断しないで! ……まだ来るわよ!」
凛音が、さらにレールガンを連射する。
「……距離五キロ。……バビロンの姿が、目視で確認できます」
シロが、前方を指差す。
雲海を突き抜けるようにして、巨大な浮遊都市「バビロン」が姿を現した。
それは、まるで神話に登場する空中庭園のように、荘厳で、そして不気味な威圧感を放っていた。
「……でけえ……。あれが、教団の本拠地か……」
透が、圧倒的なスケールに息を呑む。
「……アラン、着艦ポイントはどこだ!?」
蓮が、尋ねる。
「……バビロンの下部にある、搬入用のドックを狙う! ……あそこなら、防空システムが手薄なはずだ!」
アランが、機体を急降下させる。
ナイトフォールは、バビロンの巨大な構造物の隙間を縫うようにして、下部のドックへと接近していく。
「……ドックのハッチが閉まっています! ……このままでは、激突します!」
シロが、警告する。
「……結月! ……ハッチを凍らせて、脆くしてくれ!」
蓮が、結月に叫ぶ。
「……はい! ……『氷結』――絶対零度・氷結破城!」
結月が、魔法義肢の右腕を前方に突き出す。
義肢の先端から、極低温の魔力が放たれ、ドックの巨大な金属製ハッチを一瞬にして凍結させた。
「……今だ、蓮!」
結月が、叫ぶ。
「……おおおおおッ! ……『残響』――全式共鳴・絶華!」
蓮が、機体のハッチから飛び出し、凍結したドックのハッチに向けて共鳴剣を振り下ろす。
黒い斬撃が、凍りついた金属を粉々に粉砕した。
「……突破した! ……アラン、突っ込め!」
蓮が、機内に戻りながら叫ぶ。
「……了解! ……しっかり掴まってろよ!」
アランが、ナイトフォールをドックの内部へと滑り込ませる。
機体は、火花を散らしながらドックの床を滑走し、やがて静かに停止した。
「……なんとか、潜入に成功したな」
蓮が、安堵の息をつく。
「……みんな、怪我はない?」
凛音が、周囲を確認する。
「……大丈夫です。……結月さんも、無事ですか?」
透が、結月を気遣う。
「……はい。……魔法義肢の調子も、完璧です」
結月が、右腕を動かして見せる。
「……よし。……ここからが本番だ。……教団の野望を、完全に打ち砕くぞ」
蓮が、共鳴剣を構え、ドックの奥へと続く通路を見据える。
六人の決死の潜入作戦が、今、幕を開けた。
天空の城「バビロン」の奥深くで、彼らを待ち受ける運命とは。
そして、教団が企む「人工特異点」の真の恐ろしさが、間もなく明らかになろうとしていた。
【第25章終了】
【第25章登場魔法・用語解説】
「魔法義肢」:使用者の魔力を直接神経に接続し、失われた四肢の代わりとして機能させる特殊な義肢。魔力制御を誤れば激痛や精神崩壊のリスクを伴うが、結月は自身の強い意志とシロ・アランの技術によって、これを完全に制御することに成功した。
「天空の城」:教団の真の本拠地であり、成層圏に浮かぶ巨大な浮遊都市。古代の魔法技術と現代科学が融合した難攻不落の要塞であり、ここから世界中の特異点候補の監視と「人工特異点」の量産が行われている。
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