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episode:山岸ささら

 こんにちは、葛西さんですか? 良かった、あってましたね。

 私は斎藤くんの働いている居酒屋『鶏イチ』のリーダー、山岸ささらです。山手線の山に、岸和田の岸で、山岸。ささらは平仮名です。

 珍しい名前ですよね、私の妹は“すだれ”という名前なんですよ、どちらも竹からできた物の名前です。


 来て早々申し訳ないんですが、あの……、コーヒー、頂いてもいいですか? 今日暑くて、喉が渇いてしまって。

 ……ありがとうございます。

 すみません、アイスコーヒーをお願いします。ポーションシュガー二つと、フレッシュを一つ付けて頂けますか。マドラーは結構です。

 紙製のコースターがあれば、それも頂けますか。


 ……ふぅ、これだけ暑いと水も美味しいですね。

 それで……斎藤くんのお話でしたね。とりたてて話せるようなことは無いと思うんですが……。

 斎藤くんは、週五から六でシフトに入ってましたね。大体夕方の六時から深夜一時までで、仕事を覚えるのが早かったんですよね。


 ありがとうございます。すみません、いただきますね。

 冷たくて甘いコーヒーって、それだけでデザート感があると思います。

 斎藤くんは、仕事を覚えるのは早かったんですが、たまにお客様からお叱りを受けていて……それは大抵、領収書を切る時でしたね。

 斎藤くんはあまり字が……達者ではなくて、領収書の文字が読めない、どうしてくれると怒られていることが多くて、それによく、一緒に頭を下げていました。


 でも、やっぱり物覚えは良かったですし、ミスも少なくて、とても真面目でした。

 ただ、人付き合いは少なかったかな……。忘年会や新年会には参加していなかったし、送別会なんかにも参加してるのは見たこと無かったです。

 お酒が苦手なのかとも思ったんですけど、大体賄いも食べずに帰るので、単純に人付き合いが苦手なのかなと思ってました。


 正直、二年ほど一緒に働いてましたけど、何も知らないんです。

 いつも厚ぼったい瞼をして、濃い隈があったので、多分寝不足ではあったと思います。

 部活やサークルには所属していないと聞いていましたし、やっぱりバイトがしんどかったんじゃないかなと私は思ってました。

 でも、店長にとっては休みがあった時とか、誰もシフトに入れない時に重宝できる人材だったので、多分有り難がられてましたよ。


 バイト中、水を飲むことがあるんですけど、斎藤くんは同じグラスを使うのが嫌だったのか、必ず洗って新しいグラスを出して飲んでましたね。少し潔癖の気があったのかもしれません。

 彼は不潔ではありませんでしたし、常に洗剤の柔らかい香りがしていました。黒髪は好き勝手な方向に生えてましたけど、それも癖だったでしょうし。


 実直だったのでお客さんからも好かれてました。少し鈍臭いところや反応が鈍いところもありましたけど、それでも斎藤くんがいると、常連の方が「今日もいるのか!」なんて声をかけていたりもしましたね。

 お客さんが他にいない時には斎藤くんを捕まえて常連の方がお話するのがお約束のようなものでしたね。


 シフトを削ったり、早退きすることはありませんでした。妹さんのお話は伺ったこともありましたけど、別に体が弱かったりするわけでも無さそうでしたね。

 ただ、いつも見せてくる写真が同じ写真だけで、アップデートされていないのは少し不思議でした。


 そういえば、いつでも黒い大きなリュックを背負ってましたね。重そうだし、狭い物置でみんな着替えるので、次から置いてきてほしいと言ったら持ってくることは無くなりましたけど。

 一度、どこに置いてるのか聞いたら、駅近くのコインロッカーって言ってましたね。

 さあ、どこのコインロッカーかまでは……。


 そういえば、彼はバイトの掛け持ちもしてるとポロッと零してました。本屋で働いてると。

 土日や祝日はそちらで働いてからここに働きに来てると言ってましたね。そんなに働いたら体壊すぞって店長が笑ってました。

 ここ最近、斎藤くんがいなくて店長がとても大変なんですよ。シフトを必ず埋めてくれるスーパーマンがいないので。

 ふふ、スーパーマンなんて初めて言いました。


 葛西さん、斎藤くんに言っておいてください。早くバイトに復帰するようにと。

 店長が、斎藤くんのことを社員にするんだって張り切っていたので、逃げられませんよ。


 ああ、もうこんな時間……。ごめんなさい、私くし打ちをしないといけなくて……。ああ、焼き鳥の肉を切って竹串に刺していくのをくし打ちっていうんです。

 今度、食べに来てください。絶対美味しいんで。うちの居酒屋、その日の朝に捌されてその日中に届いた肉だけを使ってるんで、すごく新鮮なんですよ。


 すみません、失礼します。

 コーヒー、ご馳走様でした。

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