episode:斎藤郁恵
どうも、斎藤郁恵です。
斎藤……ああ、アイツね。ええ、私の義理の息子よ。
ずっと本ばかり読んで、気持ちの悪い子供だったわ。本当に気色悪い子供だった。なまっ白い肌に黒目がちの目が、まるで海獣のようで。
バツイチ同士の、医者との再婚だったから我慢していたけど気持ち悪くて仕方なかった。
めぐみのことも気持ちの悪い目で見ていて、私のことをすぐに「お母さん」なんて呼んで、自分の死んだ母親すら母親だと思っていないようで……気持ち悪くて気持ち悪くて仕方なかったわ。
めぐみはお兄ちゃんができたって喜んでたけど、あんなに気持ち悪いのを息子だなんて、信じたくなかったわ。
注文は結構、水だけでいいわ。
……ワンオーダー制? ならそう書いててちょうだい。
なんでもいいわ、アイスティー。ああもう、どっちでもいいわよ。ならミルクで持って来て。
アイツ、いつも私のことを見てお母さんって呼んでくるのよ。気持ち悪いでしょう。
健気? 全然そんな事ないわよ。いつもオドオドして、薄ら笑いして。
めぐみが死んでから更にオドオドし始めたわ。
アイツが死んだ時、やっと死んでくれたって、私は安心したわ。
ええ、死んだのよ、アイツ。
刑事さんだから知ってるでしょ、そのことで話を聞きに来たんじゃないの。
二週間くらい前よ。
アイツが死んだの。
自殺よ、じーさーつ。自殺したの。
廃ビルから飛び降りて。あの気持ち悪い顔も、目もぐっちゃぐちゃだったわ。
遺書は無かったわ。何を思って死んだのかも分からないけど、いまはもうどうでもいいわよ。
煙草、吸ってもいい?
どうも。
ほんと、嫌な子供だったわ。ずっと本を読んでるせいでいらない知識ばっかり付けて。
何か言えばすぐに豆知識だのなんだのを語ってくるのよ。それを五月蝿いって言ってたら、アイツ、どんどん気持ちの悪い笑顔を浮かべるようになって。
アイツの豆知識とか雑学を楽しんでたのなんてめぐみくらいだったわ。
アイツがまともな人間だったら、めぐみだって死なずに済んだのよ。
アイツの妹だって言って、それで虐められたのよ。カネタニっていう教師のせいよ、アイツの妹なら虐めてもいいって言われてたのよ。
許せないわ、本当に。
あのクソ教師も辞めさせたわ、小学校を。いまは何してるか知らないけど、もう二度と小学校の教師はできないんじゃない。
灰皿持ってきて! 灰皿!
全く……アイスティーより先に灰皿でしょ、客が煙草吸ってんのよ!
ああもう、やっと死んでくれたのに、アイツのこと思い出すだけでイライラするわ。
嫌な子供だったわ。本当に。自分は世界を知ってると言わんばかりに斜に構えてて。
アイツ、でっかいリュック背負ってたの知ってる?
黒いリュックよ。死ぬ時もずっと傍にあったわ。あの中にめぐみの遺品が入ってたのよ。あのリュックの中に、めぐみのランドセルとか、めぐみの大切にしてたぬいぐるみとか、色んなものをいれてたの。
馬鹿馬鹿しいわよね。そんなものいれてたって、めぐみが帰ってくるわけじゃないことなんて分かりきってたのに。
灰皿どうも。
良かったわ、灰がテーブルの上に落ちる前で。
ほんと、アイツは父親に似ず馬鹿だったわ。理系の大学にも行けず。
本当は医学部に行かせたかったのよ。なのに文系の大学に行って。ほんと馬鹿よね、家のために生きることもできず、結局死んだのよ。
アイツが父親と似ていたのなんて、身長くらいじゃないかしら。ヒョロヒョロ伸びて、ムーミン知ってる? ムーミンのニョロニョロみたい。
あはは、全身白くて、ほんとにニョロニョロみたいだったわ。
顔は母親似だったわね。写真に写ってた、アイツの母親と瓜二つだったわ。
ここのアイスティー、結構美味しいじゃない。さっきまでのイライラもマシになったわ。
アイツよりも、めぐみのことを大事に育てたかったわ。なんでめぐみがあんなに早く亡くなったのかしら。
可哀想で可哀想で仕方ないわ。
もういいかしら、私はもう行くわ。アイツについて話すことも特にないし。
母親だからって、私は義理の母よ。アイツに思い入れなんて無いわ。
むしろ、死んでくれて清々した。本当に腹の立つ子だったわ。可愛くもないし、好きでもなかった。
愛想の無い子供だったわ、本当に。
これから養子でも取って、跡継ぎにするわよ。
それじゃあ、私はもう行くわ。さよなら。
いらないわ、進展があっても聞きたくないもの。




