それぞれの大切な
長らく間が空いてしまったので現状を。
リーとフェイは風龍ディリスに人の世を見せるため、そしてウェルトナックの子龍たちと引き合わせるために、メルシナ村へと向かっています。
イリーガの町で何やら企むハーフエルフと遭遇したあとは、赤の五番の宿場町からデミロ地区を橙六番の宿場町へと抜けるルートを選択しました。
相変わらずひん曲がった線ですみません……。
街道を逸れ森を抜けた先、一面の畑の中を歩く人影がひとつあった。
小柄なその体躯に似合わぬ大剣を背負う、茶髪の男。顔付きは少年というほど幼くはないが、かといって青年というほど精悍にも見えず。その体型と相まって更に実年齢がわかりにくい。
男はスタスタと歩を進め、畑の先、山林を背負う村へと入っていった。
「こんにちは」
「やぁ、リー。護り龍から聞いてるよ」
余所者である自分をいつも嫌な顔をせずに迎え入れてくれるメルシナ村の村長ザイシェに挨拶をし、リーは村を突っ切って奥の森へと向かう。
最早見慣れた道程。最初にここを訪れてから一年、何度この道を歩いただろうか。
この一年に限っていえば、間違いなく自身の故郷であるバドックよりも多いだろうと内心笑う。
いつの間にか増えていく自分にとっての大切な場所。旅歩くことが常である身、そんな自分を受け入れてくれる場所があることはとてもありがたいことだとわかっていた。
もうすぐ、と。隠すつもりのない高揚が伝わってくる。
木々に遮られていた視界が開けると、現れるのは陽光に輝く池の水面と――。
「リー!!」
――更に眩い、一筋の黄金。
飛び込んでくるアディーリアを受け止めて、リーは相変わらずだなと笑った。
池の外には水龍の子どもたちと龍の姿のディリス。ウェルトナックはいつものように池から頭だけを出し、フェイもその傍に座っていた。
「久し振り……ってほどでもないか」
すりすりと甘えてくるアディーリアを撫でながら池へと近付くリー。
前回ここへ来てからひと月ほど。思った以上に早い再来となった。
「でも会えて嬉しい!」
「そうだな」
即答するアディーリアに頷くと、えへへと嬉しそうにしっぽをぱたぱたさせている。
嬉しさ全開の末娘に少々呆れた眼を向けながらも、ウェルトナックは自分への問いの返答をアディーリアに譲り、代わりによく来たなと告げた。
「詳細はふたりから聞いた。まぁゆっくりしていくといい」
「ありがとな」
今は軽く礼だけに留め、揃ってこちらを見ている子龍たちのところへ近付く。
円を描くように集まる様子に、やはり心配はなかったかと内心安堵した。
「歩くとこれくらいで着くんだね」
早朝に黄の六番の宿を出て、フェイとふたりで一足先にここへと飛んで来ていたディリス。
龍であるディリスはメルシナ村に断らなくてもいいだろうとの判断と、徒歩の自分が着くまでの間に龍としての話もできるかと思っての別行動だった。
「そんなに遠くはねぇからな」
「確かに空から見ると近いかな」
僕は歩いたことはないけど、とカルフシャークがユーディラルを見る。
「僕たちもちゃんと歩いてはいないから」
「いっぱい走ったもんね」
リーの腕からピョンと飛び降りたアディーリアが、どこか困ったようなユーディラルの言葉を継いだ。
子龍たちにねだられて、ディリスと一緒に旅の話をする。
初めて人の世を歩いた龍であるディリスの目線は、また自分とは違ったもので。こちらからすると何が面白いのかわからないことに喰いついては笑い合う子龍たちに、リーは先刻の安堵を改めて感じた。
(これでシラーの依頼も果たせた、かな)
あとはディリスを無事にドマーノ山まで帰せばいい。
特に何ができた旅路でもなかったが、それでもディリスにとって少しでも得るものがあったなら。
そんなことを思っていると、いつの間にか自分を見ているディリスに気がついた。
「どうした?」
声をかけるとどこか照れくさそうに笑ってから、唐突にありがとうと告げられる。
「リーたちと旅ができてよかった」
見上げるその眼には初対面の際の追い詰められたような必死さはなく、広がった世界への希望を映すように、明るく銀色に瞬く。
まるで直前の自身の思いに応えてもらえたかのようで。子どもでも龍は龍かと、リーは内心の驚きと納得を感じながら手を伸ばした。
「俺も、一緒に歩けてよかったよ」
見透かす眼にも同じように、自分の喜びが映っていればいい。
そんな思いも間違いなく届いたのだろう。ディリスのみならず、周りの子龍たち、そしてフェイからも、なんだか生温かい眼差しを向けられて。
少々居心地が悪くなり、強めにディリスの頭を撫でてごまかした。
定位置のリーの膝の上で旅の話を聞いていたアディーリア。嬉しくて時々見上げていると、気付いたリーが微笑んで頭を撫でてくれる。
向けられる笑顔もいつも通り。龍の眼などなくても、自分を――自分たちを大事に思ってくれているとわかる。
大好きで大切な片割れ。
『あの人』に向ける眼差しだけ違うけれど。
『あの人』に向ける眼差しは自分には向けてくれないけれど。
「どうした?」
巡る思いになんとなく寂しくなってリーに擦り寄ると、少しだけ心配そうな声が降ってきた。
「だって。リー、また行っちゃうから」
伝わってしまった感情を静め、寂しさの理由をすり替える。
「今日来たばっかりだろ」
「でも行っちゃうもん」
そうだけど、と呆れたようにではなく、どこか申し訳なさそうに呟いて。
あの眼差しとは違うけれども優しい目を向けて、大事そうにひと撫でしてくれる。
「それでも。絶対また来るから」
「……うん」
困らせてしまった自分への落胆も抑え込み、アディーリアはぎゅうっとリーにしがみつく。
自分にとってはただひとりの片割れ。
大好きで大切な、ただひとりの――。
普段は夜の闇を映す池面も、今夜はひとつの光を宿す。
池縁に置いたランプの周り、酒を酌み交わすリーとフェイ、そしてカナート。
「心配なかったな」
森の端に設営した三つのテントに入っては出てと遊ぶ子龍たちを眺めながら呟くリーに、カナートもいつも以上に穏やかな眼差しで頷いた。
「子龍同士はなかなか出逢う機会がないからな。いい縁となると思うよ」
連れてきてくれてありがとうと続けるカナートに、頼まれただけだからと笑うリー。
「そういやシラーはウェルトナックのこと知ってるみたいだったけど」
「まぁ会合で会う程度ではあるが」
「じゃあ街道のことも知ってたんじゃないのか?」
重ねた言葉にカナートは首を振る。
「千五百年前にはもうあったからな。初耳だ」
「だがチェドラームトなら知っているはずだろう?」
「だとしても、だ」
口を挟むフェイに、肯定を示しつつ否を告げるカナート。
「知っていたとしても、話す理由がない。誉はあくまで関わったものが得るもの、種としての龍にとっては誇ることでも恩を着せることでもない」
「誉っていうか、単に事実としてってことなんじゃねぇのか?」
「それこそ知らせる必要などないだろう」
迷いもせずに返すカナートに、そういうものなのかとリーは思う。
人からすると悠久ともいえる長い時を生きる龍。もしかすると史実として残す必要性を感じないのかもしれない。
フェイが自分寄りの考え方なのは、以前話していたように、幼い頃から人の世で過ごしていたせいだろう。
「っていうか、ウェルトナックは千五百歳なんだ?」
これ以上突き詰める必要はないかと思い話題を変えると。
「これでも龍の中ではまだ若い方だ」
意図に気付いてくれたのだろう、カナートも笑うような声で答える。
「俺には想像つかねぇけどな」
自分からすれば千五百年も二千八百年も、どちらも変わらず途方もない時間でしかないが。どうやら龍にとっては明確な違いがあるらしい。
まだ若いと言い張る様子は人と変わらないなと思いつつ。もっと若いだろうフェイを見やるが、もちろん年齢などわからない。
ユーディラルは自分より年上だと言っていた。となると、もしかするとアディーリアも自分より長く――。
「それはそうと。リー、フェイ」
取り留めもなく辿る思考に割り込むように、カナートが改まった声を出した。
何事かと思い視線を向け、リーはその真剣な表情に思わず息を呑む。
カナートはふたりが自分を見ていることを確かめてから、ゆっくりと言葉を継いだ。
「ふたりに頼みたいことがある」
戻ってきました!
遅くなってしまって本当にすみません。
お読みくださりありがとうございます。
あとは一気に! とはとても言えませんが。
とりあえず週一で出せたらいいなぁと思っております。
よろしければ気長にお付き合いくださればありがたいです。






