ネズミ王子とわすれ姫 下
レギオンはコツコツと足音をたてながら、アリスに近づいて来る。
「……世界?」
アリスが呟くと、セオが応えた。
「奴は、ずっと君を結界のモヤの中に閉じ込めていたんだ。君の記憶を奪い、幻覚で普通の生活をさせているように思わせた。挙句、外部の人間は思い出させないよう、動物に見えるようにしたのだろう」
「なんですって……じゃあ、あの時のネズミは……」
「そう俺だ。幻覚でそう見えていたのさ。さらに、君に取り入るために奴は弟を装ったんだろう」
「そんな……」
「レギオンが脱走した噂を聞いていた。勘づいた俺は、君の魔法が解けるよう、魔術具を探した。そして、先程魔術具である宝石を壊したのだ。無事、呪いが解けて良かったが……」
するとレギオンは悲しそうな顔をした。
『まさか魔術具が壊されるとは思わなかった』
そう言うと、こちらに向かって歩いていたかと思いきたや、サッとアリスの背後に回り手を取った。
『だが、諦めぬ。これは僕が貰い受ける』
そう言うとセオからアリスを奪い、抱き寄せた。
『さあ、アリス。美しき姫よ。城も何もかも忘れて、僕とこのまま一緒に暮らそうではないか』
しかし、アリスは手を払いのけた。
「いやよ!」
『何故? お前が王子に傷つけられ嘆いていたのを助けたではないか』
「……え?」
アリスが拐われる前の記憶が、思い起こされた。
◇◇
その日は王子セオの婚約者が発表される日だった。
会場に婚約者候補が揃う中、同じく候補者ではあるはずのアリスの姿は無かった。他の候補者達に虐められてきたアリスは、惨めな姿にされてしまい、会場に入れずにいたのだ。
1人絶望感に浸っていたアリス。思わずこんなことを呟いた。
「もういやだ、誰か私をこんな場所から救って」
するとどこからともなく声がした。
『可哀想に、僕が大切にしてあげよう』
「誰?」
『大丈夫。恐れることはない。君をずっと待ち焦がれていた』
そう聞こえたが最後、アリスは森の中にいた。
◇◇
「もしかして、あの時私が助けを求めたから」
『そうだ。さぁ、またお前を傷つける王子から助けてやろう』
「待て!!」
レギオンがアリスに魔法をかけようとしたその時、セオが叫んだ。
「聞いてくれ! 誤解をしているようだが、あの日俺は会場にいないアリスを探し回っていた! ……他の令嬢は眼中に無かった。君は誰よりも美しく、優しい心の持ち主だと知っていたから。だから傷つけるつもりはない!」
「セオ様……?」
「後悔したんだ。今まで伝統やしきたりのせいで、周りに虐められ苦しむ君を守れずにいたから。会ったら絶対に求婚するって心に誓った」
「……」
「だから、君を見つけたときは嬉しくて……つい、先走って求婚をしてしまったくらいだ……」
「だからあの時、出会ってすぐ求婚を……?」
「君に記憶が無かったのに、驚かせて悪かった」
セオの目にはうっすらと涙が見えていた。
アリスは考えた。
思い出せば、王子セオは令嬢達に虐められているアリスを敬遠せず、分け隔てなく接してくれていた。他の令嬢よりも親しくしてくれていたくらいだ。だから、嫉妬されて虐めに拍車がかかった部分もあったが。
「セオ様……!私は……」
アリスは思わず王子に手を伸ばしていた。
しかし、レギオンがその手を阻んだ。レギオンは抱き寄せると、アリスの頬に手を添えた。
『もう遅い、さぁアリス。僕と一緒に……』
レギオンの顔がゆっくりとアリスに近づく。
ぎゅっと目をつぶったアリス。
あと数センチに近づいた時だった、アリスはレギオンの腰から短剣を取り出した。
そして、レギオンに力一杯突き刺した。
短剣はレギオンの胸元の宝石に刺さる。
するとどうだろうか、宝石は見る間に辺りの靄を吸い込み始めた。そして、レギオンも同様に吸い込まれていく。
『おのれ、謀ったな!』
アリスはサッとレギオンから離れた。
「弟に扮している時に、似た様な宝石をいつもつけているなって思ったの。もしかするとそれが弱点なんじゃないかなって思って」
宝石は一度封印されたレギオンが、再び活動を維持するに必要な魔力の供給源だったらしい。姿が維持出来なくなったレギオンは、『まさかそんな!』と叫びながら呆気なく消えていった。
一瞬にして辺りは明るくなる。
取り残されたアリスとセオ。
モヤが晴れた空間は、花が美しく咲き誇る野原だった。
「アリス!」
セオが駆け寄ってきた。アリスも駆け寄る。
「ごめんなさい! 心配をかけました!」
「凄いじゃないか! 自分で倒してしまうとは!」
「これも私を起こしてくださったセオ様のおかげです」
「奴はもう一度封印された。ただ、レギオンもだが……早く令嬢達からも君を助けられなくてごめん」
すると、セオは深呼吸をし始めた。そして、真剣な目でアリスを見てこう言った。
「もう君を失いたくない。今度はちゃんと言わせて。……俺と結婚してください」
「……!」
アリスは思わずセオに抱きついた。
「ええ、喜んで!」
短いですが、完結です。ありがとうございました!




