3話
私が馬車から降りるとそのまま国王の元へと案内されていった。
王城の中も外と同じで立派なものであった。高そうな装飾があったり、かなりの値が張ると歩いただけでもわかるぐらい、良い歩き心地のカーペット。飾られている絵や壺などの美術品もどれも高そうである。……まぁ私は絵や壺なんかの良し悪しなんてあんまわからないけど。なんとなく凄いなぁ~程度ぐらいしかわからん。
これに関しては多分私の趣味も入っているのだろう。前世のときから芸術を読み取る――特に抽象的な絵から読み取ったりするのは苦手であった。
私はそれが何を言いたいのか、いわゆるテーマを読み取るというのが苦手で、普通に見てて凄いと思えるような、直球的な絵の方が好きであった気がする。
そういう点で考えるとレオナの絵はやはりすごいし、私の趣味に合っている。リアルのモノを描いているからか、その絵のきれいさとか美しさみたいなものがビシバシとわかりやすく伝わってくる。
いや~本当にレオナと出会えたのは幸運だった。出会い方はなんか変だったけど。ストーキングだったけど……。まぁ結果良ければすべて良しってね。
そしてそんなモノたちに囲まれながら歩く私の横を王城で働いているであろう人たちは急ぎ足で通り過ぎていく。
皆、手には書類を抱えていたり、相談をしながら歩いている。目の下には隈ができているものも多数。
本当にお疲れさまと言いたくなるぐらいの忙しさである。
私はそんな風に心の中で礼をしながら王城の中を連れられて行った。
ちなみに、もちろんと言うべきか、アロガンスもしっかりいる。馬車の中でかけられた最後の言葉以降ずっと黙り込んで何も話さない。黙り込んで、うつむいて、何かに悩んでいるような様子で前を歩いている。
時折私の方を振り向いたりしてくるので、なんだか鬱陶しい。
いい加減言いたいことがあるなら言えばいい。
はぁ……もうめんどくさい。
そう思った私はアロガンスに声をかけようとした。
「アロ」
「着きました。こちらで国王はお待ちです」
だがその前に国王の元へ到着してしまった。私はすぐに口を閉じ、一応意識を切り替えた。
これから会うのは国王だし、その人相手に失礼な態度とか普通にアウトだ。しっかりとそこら辺は意識しながら合わなければならない。
「陛下。アロガンス様、ウイ様の御二方をお連れ致しました」
「入れ」
案内をしてくれた人の声に対して、部屋の中からは静かだがはっきりと聞き取れる声が響いた。そして扉が開かれた。
「……失礼します」
そしてそこへアロガンスが入っていった。
「失礼いたします」
私もそれに続いて中へ入っていく。
部屋の中の内装はテーブルに、それを両脇から囲むようにソファーが置かれ、脇には本棚、そして高そうな燭台が飾られた棚がある。そして部屋の奥には書類の山が四つ積み上げられた机があり、そこに国王は座っていた。
セオス王国、国王――バシレウス・セオス。
アロガンスに比べると若干薄いような髪色をしており、揃えられた髭を携えている。そしてその瞳は持っている書類の文字を追って動き回っていた。
「呼んでおいて悪いが、少々待ってくれるか。今執務にひと段落を付ける」
「わかりました」
私はその言葉にそう返した。
私とアロガンスは扉の近くで立ちながら、バシレウスが執務にひと段落付けるのを待った。
執務にひと段落突くのにはそう時間はかからなかった。
20分も経たない内にバシレウスは書類の山一つを半分ほど削り終えた。
「うむ、待たせたな。……ん、ずっと立っていたのか。そこに腰掛けて良いぞ」
バシレウスはそう言いながらソファーの方を指した。私とアロガンスはその言葉に反応し、ソファーへ座った。うん。座り心地は抜群である。
「にしても久しいな。元気そう……とは言えないな」
バシレウスを見るのは私の就任の儀以来である。それ以外でもたまに屋敷で見たりもしたし、小さいときだがちょっと話した記憶もある。
話したのはそれが最初で最後だし、何を話したのかもとっくに忘れてしまったけどね。
「こんな短期間で2度も死の淵を彷徨うとは……災難だったな……」
バシレウスは優しそうな声色で話しかけた。
「体に異常はあったりしないか?」
「はい。特別おかしなところはありません。このようにほぼ完治しております」
私はそう言いながら軽く腕を回した。
するとバシレウスは「そうか、そうか」と嬉しそうに首を振った。
私としてはやりたいことをやって、その結果できた傷、そして行った死の淵なのでこうも心配されると逆に気まずい。
「父上。話の方へ」
「そうだったな。すまない、すまない」
「……いえ。大丈夫です」
このままだと本題に入らないまま脱線&私が気まずさのあまり爆発しそうとなったそのときアロガンスの声が低く響いた。その表情は何かつまらなそうな感じである。
いつもは面倒だし、さっきからずっと鬱陶しいが、今回はナイス。
私は心の中で親指をグッとした。
「今回お前たちを呼んだのは事前に伝えた通り、先日のセオス王立学校襲撃事件のことについてだ。
だがその前にウイ……。我が息子を守ってくれて感謝する……。本当にありがとう」
そう言ってバシレウスは静かに頭を下げた。
「いえ。結果的にそうなっただけで、守ったというほどではありません」
私は反射的にそう返した。
別に守ってはいない。たまたま強い奴がアロガンスを殺そうとしていた。それだけである。
私の言葉にバシレウスは「そうか」と言いながら頭を上げた。
流石に心臓に悪い。偉い人が頭を下げるのを見るのって、結構気持ちが良かったりするのかなとか思ったことはあったが、気持ちいというより心臓に悪いだけだ。
「……」
「……」
「……」
てかなんか話し出すタイミング逃してない⁉ 国王様⁉
なんか空気が気まずいんだけど。
バシレウスはそうか、そうかと、なんか感慨深そうにしてるし。
アロガンスはアロガンスで、なんか苦々しそうに目を瞑って歯をギリギリしてるし。
「あの。陛下……。話の方へ」
「ああ。そうだったな。すまぬ」
本当に頼みますよ。早く話へ。さっさと進めてくださいよ。
「まずは奴らの襲撃の目的だ。二人は襲撃の主犯と思われる人物と接触した。そこに相違はないな」
「はい。奴らは俺を殺すことが目的と言っていました」
「ウイの方も、それであっているか?」
「恐らく合っています」
「そうか……。では次だ。これはウイに聞きたいのだが、その主犯の者ら。その名前は?」
「えっと、ドローガと……確か……トートと言っていました。ドローガは隻腕で、影を媒介にして攻撃していました。それとトートの方は……魔法の技術が高いだろうということぐらいしかわかりません」
にしても本当に楽しかったな~。死にかけたけど楽しいもんは楽しいのだ。
今回は途中で終わっちまったが、ドローガとは必ずどこかでまた斬り合い、そしてそのときは今度こそ私が勝つ。絶対に勝つ。
それとトートの方とも戦ってみたいなぁ~。あの魔法の腕だ。絶対に強いに決まっている。
二人同時に戦ってみたいなぁ~。絶対今のままだと負けそうだけど、やってみたいなぁ~。絶対胸躍る、興奮しまくる、昂りまくる戦いになるだろうなぁ~。
にへへへ~。
にへへへへ~。
「うへへへ……」
「ん? どうしたのだ?」
「ッ⁉ し、失礼しました。特に何もありません⁉」
「そ、そうか……?」
つい妄想に浸ってしまった。しかも声まで漏れていた。
私は思わず羞恥のあまり顔が赤くなりそうになるのを堪えた。
バシレウスは不思議そうな顔をしつつ、質問を続けていった。その間さっきのことはそれ以上何も言わなかったのでちょっとだけありがたかった。
それから質問はどんどん進んでいき、それに私かアロガンス、もしくは両方が答えていった。そうして1時間ほど経ったころようやくバシレウスによる襲撃事件の確認が終わった。




