第4話 絡まれキレて
あれから少し時間が経ち、俺達は村へと戻って来た。
時間は昼時、腹も減ったし何か食べようというウィルの考えで俺達は村の中央にある露店がいくつか並ぶ通りへとやって来た。
露店とは言ってもこの小さな村ではそんなに数は無く、いつも買っている行きつけの所へと真っ直ぐに向かう。
「すみません、いつものやつ下さい」
「お、今日も来たなチビ共! 待ってろよ直ぐ作るから!」
声を掛けた中年のおじさんはいつもこんな感じだ。
七歳だから仕方ないけど、チビって言われるとちょっと悲しいな。
「あいよお待ち! いつもありがとな!」
おじさんは先程の言葉通り直ぐに俺達に商品を手渡して来た。
この露店で売っているのはシャムと言う薄いパンで野菜や塩漬けの干し肉等の具を挟んだ、所謂サンドイッチである。
安くてボリュームもそこそこあるから、育ち盛りの俺達にはもってこいの物だ。
受け取ったシャムを頬張りながらその場を後にした。
「さてと、この後はどうする?」
最後の一口を飲み込んでから二人に尋ねる。
ウィルは既に食べ終えて何をするか考えている。
対してエミリアはまだ半分くらい残っていて、俺達に合わせようと急いで口に詰め込む。
「エミリア、そんなに慌てて食べなくても大丈夫だよ、食べ終わるまでちゃんと待ってるから」
「ん、ありがと……」
俺の言葉にエミリアの食べるスピードが落ちる。
うん、エミリアは一口が小さいから何か小動物みたいで可愛いな。
黙って見つめていると、エミリアは顔を赤らめながら再び食べるスピードを上げた。
あ、何か早く食べる様に催促したみたいになっちゃったかな?
あんまりじっと見るのは控えよう、反省反省。
「あ、ごめんアル、僕午後から手伝いを頼まれてたんだった」
「そうなのか? じゃあ帰らないと」
「うん、またねアル、エミリア!」
手を振ってウィルは走って行った。
大変だな、ウィルも。
さてと、二人残された訳だけどどうするか。
「どうするエミリア?」
「あ、えっと、私は何も無いから、まだ遊びたいな……」
「そっか、じゃあ……っ!」
咄嗟に、エミリアの腕を引いて後ろへと庇った。
その瞬間、目の前から大量の水をぶっかけられた。
「きゃあっ!?」
突然のことにエミリアが悲鳴を上げる。
けど後ろに庇ったからエミリアに水は掛かって無い、良かった。
……さてと、こんな低レベルなことをするのはどこのどいつだ?
「よっしゃ命中!」
「やるじゃん!」
目の前に、水が入ってたであろう桶を持った二人の少年がいた。
年齢は俺達よりも二、三歳上くらい。
あぁ、何となく見たことがあると思ったら何度か遠目から俺を見てたことのある奴らだ。
確かあれは初めて外に出た時、周りの大人達と一緒に俺の方を見て何かを企んでる様に話してたな。
それから何度かエミリアやウィルと遊んでいる時にも近くまで来ていたが、何もしてこなかったから無視してたけどまさか今仕掛けて来るとは思わなかった。
「ちょっと! いきなり何するの!?」
エミリアがずぶ濡れになった俺を心配しながら二人に大声で問い掛ける。
「ふん、変な奴がいるから退治しただけだよ!」
「そうだそうだ!」
うーん、見事に悪ガキとかいじめっ子という言葉が似合いそうな奴らだ。
要するに、見たことの無い黒髪黒目の俺をいじめの標的にしようという訳だ。
何ともレベルの低い子供の考えだ……あ、俺も今は子供か。
「変じゃ無いもん! アルに謝ってよ!」
エミリア、凄く優しい子だ。
俺の為にこんな必死になってくれるんだから。
でも、その態度が気に入らなかったのか二人はエミリアへと近付いてきた。
「何だよお前! 女の癖に生意気だぞ!」
「女は引っ込んでろよ!」
「うっ……嫌! 早く謝って!」
俺の前に立ち強気な態度で立ち向かうエミリアだが、その体は恐怖で震えている。
……おい、何恐がらせてるんだよお前ら。
「何だと!」
一人がエミリアを突き飛ばそうと手を伸ばした。
うん、もう限界だ。
別に俺に水を掛けるだけだったら笑って許してやらなくもなかったけど、エミリアに手を出すって言うのなら容赦しない。
「おい、待てよ」
突き飛ばそうとした手を掴んで睨み付ける。
「な、何だよ!?」
は? 何ビビってんだよ? 言っとくけど先に手を出して来たのはそっちだからな?
「あのさ、お前ら女に手を上げるとかクズか?」
「うるせぇな! それはそいつが生意気だから……!」
「黙れよクズ」
掴んだ手を捻り上げる。
それだけで相手はその場に倒れ込む。
これはレイド直伝の護身術だ。
何でも人の体の構造上、この捻り方をしたら体が勝手に倒れるらしい。
ちなみにもう少し力を入れたら肩の関節が外れるけど、それは許してやろう。
「ぎゃあっ!? 痛い痛い痛い!?」
「あのさ、女に手を上げるなんて男として最低なんだよ、俺だけなら許そうと思ってたけどエミリアに手を出すって言うなら……覚悟は出来てるよな?」
「この野郎放せ!」
もう一人が俺に掴み掛かって来る。
腕は掴んだまま軽くかわし、足を掛けた。
当然転びそうになるそいつの尻に蹴りを入れてやると面白い様に顔から地面に突っ込んでいった。
「まだやるか? あぁ?」
「ひ、ひぃっ!?」
「お、覚えてろ!?」
手を放して凄むと二人は互いに涙目になりながらお約束の台詞と共に逃げて行った。
まあ覚えておく必要は無いから直ぐに忘れるけどな。
「はぁ……エミリア、大丈夫か?」
エミリアに振り向くと呆然とその場に立ち尽くしていた。
あぁ……不味いな……
二人の前で今の様にキレたことなど無かったし、口調も思わず素が出てしまっていた。
恐がらせてしまった。
「ごめんなエミリア、恐かったよな……? えっと、服も濡れちゃったし今日はもう帰るよ、またな」
なるべく早くその場から立ち去ろうと思い踵を返す。
が、進むことが出来なかった、袖を後ろから掴まれたから。
「エミリア……?」
「……か、風邪ひいちゃうから、家に寄ってって」
「……えっ?」
状況は違えど、俺は人生で初めて女の子から自宅に招待された。