第54話 対峙
「エミリア、よく聞いてくれ、俺はエミリアがいないと絶対に嫌だし、隣にいる資格が無いなんて他人に言われる筋合いなんて無いんだ……それにエミリアは弱く無い、負けたとしても俺がずっと特訓相手になるからさ」
「ア、アル……うっ、ああああああっ……!」
俺の胸元に顔を押し付け、エミリアは堪える事が出来ずに泣き始めた。
安心させる様にその頭を優しく撫で、そっと抱き締める。
そうだ、エミリアは弱くなんて無い、俺の事を助けてくれた、とても強い女の子だ。
だからエミリアにそんな事を言って、こんな怪我を負わせたこの女を絶対に許す事が出来ない。
「何で……おかしいわ!! どうして!? 貴方はもっと強くなれるのよ!? それを棒に振るつもりなの!?」
後ろで、ジュリが何かを喚いている。
あぁ……頼むからさ、これ以上俺を怒らせないでくれよ……。
「貴方はAランクになる素質がある! 才能を生かす為にもそんな奴に構っている暇は無い……」
「黙れってさっき言った筈だよな?」
我慢が限界を迎え、魔力と殺気が爆発した。
抱き締めているエミリアが体をびくりと震わせ、心配そうな目で俺を見つめる。
「ごめんなエミリア、直ぐ終わらせるから少しだけ我慢していてくれ……それからこれ借りるな」
そう言ってエミリアの傍にあった模擬剣を手に取り、俺は立ち上がる。
「……覚悟は出来てるんだよな?」
冷めきった目でジュリへと振り向き、殺気を全てジュリへとぶつける。
その殺気を受け、ジュリの表情は段々と歪んで行く。
「どうしてわかってくれないの!?」
「わかっていないのはお前だろ? 俺は確かに上のランク、それこそAランクを目指すつもりだ。 だけどそれはお前とじゃない、エミリアとだ」
「そいつにAランクになれる素質なんて無いわ!」
「お前が決めるなよ……まあいいか、お前を許すつもりは無いからな」
ゆっくりと剣を構えると、ジュリは表情を強張らせ咄嗟に後ろへと飛び退いた。
その瞬間、ジュリの首があった場所を、俺は一閃していた。
へぇ……少しはやるみたいだ。
今の一瞬で、首を取ろうと考えていたけど殺気から気付かれてしまったらしい。
「……いいわ、わからないなら私がわからせてあげる。 確かに貴方は強い、だけど私だって腕に自信はあるんだから」
「知るかよ……」
足に力を込め、吹き出る魔力を練り上げると魔力は風に変わり、体中を包んで行く。
剣を掴む手にも力を入れ、体を沈み込ませた。
一歩、踏み出した。
その一歩で、瞬時に距離を詰め肉薄するとジュリは驚愕の表情を浮かべる。
そのまま切り上げるが、寸前のところでかわされてしまった。
成る程、自分で言うだけあって中々やるらしい、反射神経も目を見張るものだ。
だけど、関係無い。
振り上げた剣を返し、そのまま二度三度と追撃を与える。
ジュリはそれらを避け、又は剣で受け、攻撃をいなして行く。
必死にかわしているが、表情から自分が対等に戦えていると感じているみたいだ。
……嘗めるな。
剣気を最大まで高め、鋭く一閃する。
その瞬間、ジュリの持つ模擬剣は滑らかな断面を見せながら真っ二つに切れた。
「なっ!? そんな、模擬剣なのに!?」
ジュリが驚愕の表情で半ばから切られた模擬剣を見つめる。
剣は無くなったが容赦はしない、そのまま追撃を与える為に剣を振るった。
「っ……負ける訳には、いかないのよ!!」
次の瞬間、ジュリは模擬剣を手放し腰に携えていた真剣を抜き放った。
その真剣で、俺の模擬剣を受け止めた。
甲高い音と共に刃がぶつかり合うが、俺の模擬剣は切られる事無くそのまま鍔迫り合いになる。
「どうして!? 模擬剣で、真剣と鍔迫り合いになるなんて!?」
「別に、剣気を纏わせれば簡単な事だろ?」
「き、規格外にも程があるわよ!!」
剣を一度引き、ジュリは距離を取った。
無駄だよ。
「ウィンドショック」
手を翳して放たれた不可視の風の塊、だが距離を取ったジュリは横に飛び退いてそれをかわした。
「それはこの間見せて貰ったわ!!」
つまり対策済みか、一度しか見てないのによくかわせる事が出来たものだと感心したけど、この魔法は直接当てるだけが取り柄じゃないんだよ。
一気に距離を詰めて来るジュリの前方、俺の前の地面にウィンドショックを放った。
「きゃっ!?」
地面が大きく抉れ、無数の石がジュリの進行を妨げる。
足を止めたジュリに接近し、顔を庇った為にがら空きになった腹部へと強烈な蹴りをお見舞いする。
「がはっ!?」
後ろへと吹き飛び、そのまま倒れるかと思ったが体勢を立て直して再び剣を構えた。
「へぇ、中々やるな」
「ぐっ……まだ、終わる訳にはいかないのよ……!」
痛む腹部を押さえながらも、ジュリは剣を俺に向け鋭い目付きで睨んで来る。
面白い、ならどこまでその強気な態度でいられるのか試してやるよ。
怒りとは別に、俺の中で違った感情が生まれた。
今まで女性に対しては紳士的にと考えていた自分が、そんな感情を抱いている事に戸惑う。
しかし今は深く考えるのはやめよう。
今はただこいつを屈服させ、泣いて命乞いをさせるだけだ。
俺も再び剣を構え、ジュリと対峙した。




