第1話 新しい人生
この世界に来て早くも七年が経った。
日が昇ったばかりの朝、家の中を進み俺は目的の部屋へと向かっていた。
「父さん母さん起きて、朝だよ?」
両親の寝室へと入って俺は両親を起こす。
両親、それはあの時俺を助けてくれた二人だ。
あの後、意識が戻った俺はこの二人の家に連れて来られた。
二人は俺のことを自分達の実の子として引き取ることを決めたのである。
やっぱり俺の体は赤ん坊のもので、新しい人生を歩むのだということを再確認した。
あ、記憶に関しては思ってた程に消されて無かった。
名前と出生とかは完全に覚えて無いけど、元の世界で死んだってことは覚えている。
あとは知識、例えば学生の頃に授業でやった計算だったり化学的なものも覚えていた。
計算はわかるけど何で化学的なものまで? そう思ったがこの世界には魔法がある、つまり化学を応用して魔法に工夫出来たりもするってことなんだと思う。
……まあ、俺が魔法を使うことが出来たらの話だけど。
それから意外なことに神様のことも覚えていた。
あんな会話を交わして別れたからてっきり覚えていないと思ってたんだけど、はっきりと会話を覚えている。
でもまさかあの神様、女神だったとは……。
それはそうと、この二人についてだ。
母さんの名前はフィオナ、愛称はフィー、種族は人間とエルフのハーフだそうだ。
エルフ、それを聞いて興奮を隠せなかったが色々聞いてみたらこの世界では割とハーフは珍しく無いらしい。
この美貌もエルフの血が入ってるからだと思えば納得出来る。
けど、この美貌と隠すことの出来ない巨乳は余りにも危険だった。
家に連れて来られた俺は当たり前だが赤ん坊として扱われたんだけど…あれだ、赤ん坊の食事ってさ…母乳なんだよな。
フィオナは何の躊躇いも無くその巨乳をさらけ出して『おっぱい飲みましょうね~』なんて言って来たんだよ。
そりゃあ赤ん坊相手だから躊躇いなんて無いだろうし当然のことをしたんだろうけど、記憶がそこそこ残ってる俺にとっては生地獄というか拷問というか、本当に赤ん坊の体で良かったと思うよ。
体がまだ発育してないから勃つことも無いし。
勃つで思い出したけど、生理的欲求の方もかなり恥ずかしかったな……。
けどそれも含めて、今の姿は赤ん坊だから仕方ないって割り切ってからは何とか慣れた。
とまあ今の話でわかるかもしれないけどフィオナの性格は温厚で俺に対してかなり甘い、大丈夫なのかと聞きたくなる程にだ。
子供を育てたことの無い俺が言うのもあれだけど、もう少し厳しくしてもいいんじゃないかと思う。
次に父さんの名前はレイド、種族は人間。
人間とはいってもこの世界の人間は屈強だ。
神様から説明された様にこの世界にはモンスター、所謂魔物がいる訳で、当然自分達の身は自分達で守らなければならない。
その手段として俺の憧れである魔法か、剣等の武器を使って倒すことになる。
そしてレイドは剣を使ってモンスターを倒す剣士、その実力はかなりのものでこの村の自警団のリーダーをしてるぐらいだ。
そんな人物だから性格は真面目で厳格なのだろうと思ってたんだけど、優しくて時折茶目っ気を見せる時もあって良い父親という言葉が見事に当てはまる。
あの夜、俺のことを連れて帰ると言ったフィオナに余りいい顔をして無かったから余り好かれていないとばかり思ってた。
でもフィオナに説得され、俺を受け入れてからは本当に愛情を注いで育ててくれた。
本当に自慢の父親だよ。
「ん……おはよう、アル」
母さんが目を覚まし、俺に視線を向けて微笑んだ。
そうそう俺の名前、アルと呼ばれたけどそれは愛称。
本名はアルファンドと名付けられた。
ちなみに名字、この世界では家名だが、王族や貴族しか使うことが出来ないらしい。
だから大半の者は名前だけとなる。
「おはよう母さん、もう朝だよ?」
「んぅ……そうね、良い天気だわ……おやすみなさい……」
「ちょっと母さん! 朝なんだから起きてよ!?」
そういえば言い忘れてた。
フィオナのもう一つの性格、かなりマイペースなところだ。
現に今、フィオナは本当に目を閉じて寝息を立てている。
慌てて肩を揺すって起きる様に促すと、『むぅ…』とくぐもった声を漏らしながら渋々といった様に起き上がる。
いやいや、俺腹減ったから早く朝御飯作って欲しいし午前中は用事があるから起きて貰わないと困るんだけど。
「ほら早く」
「わかったわよ、ふぁ……」
大きく伸びて欠伸を漏らすフィオナを思わずジト目で見てしまう。
ちなみにレイドはその隣でいち早く起きて既に着替えを済ませている。
見習って欲しいものだ……。
その後、朝食を済ませてレイドは自警団の仕事に出掛け、俺も出掛けることを伝えて家を出た。