第一部 「妄想具現」
世に数え切れぬほど存在する"都市伝説"
時代と共に語られ時代と共に消えてゆく
どれも現実には起こらないような作り話
だが、もしかすると真実を語った物語もあるかも知れない
これはとある不思議な噺家の"お噺"
だだの『作り話』か、紛れもない『真実』であるかはあなたが決めること
それでは、始まり始まり
第一部 「妄想具現」
とある通りの少し寂れた小さな寄席
立ち寄る客も少なく話題になる事もない
そんな静かな寄席で
今日も噺家は開演を待っていた
「そういえば知ってますか?『廃ビルの魔法使い』の話」
「はい?」
突然同じ寄席で公演していた芸人に話し掛けられたのだ
「あれ?知りませんか?ここらじゃ有名な都市伝説ですよ?」
この街では都市伝説が常に生まれている
1日ごとに現れ、消える都市伝説は今やこの街の醍醐味となっていた
「はぁ…知りませんね、流行とかそういうの疎くて…」
「そうですか、だったら話しましょうか?公演の参照とかのために」
「えぇ、よろしくお願いします」
こうして芸人は都市伝説を語り始めた
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この街のどこかの廃ビルに何でも出来る魔法使いが居るらしい
その魔法使いに願えばどんな願いも叶ってしまうらしい
だがその廃ビルが何処なのか誰も知らない
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と芸人は語り終えた
開演時間が近づき芸人に「感想は?」と聞かれた噺家は一言
「面白くありませんね」
と言い舞台に向かった
昼の公演も終わり噺家は散歩に出ていた
季節は冬を迎えつつあった
うっすらと雪が降る中噺家は上着を羽織り歩いていく
道端ではおば様方が噂話に没頭し
すれ違う若者達も世間話や愚痴をこぼしていた
これまでに騒がしい中でも必ず聞こえてくるキーワードがある
「ねぇ〇〇〇って都市伝説知ってる?」
「聞いたか〇〇〇〇って都市伝説」
右を向いても左を向いても聞こえてくる"都市伝説"
この街にいる限り話題の種は尽きる事はない
だが、都市伝説と同時に増えているものがある
「そういえば、また出たんだってな"変死体"」
「最近、ずっとだよねー」
「犯人捕まらないかなー」
そう"変死者"
この街で最近増えているのだ
最初は二週間ほど前
食べ物を大量に頬張った為、喉に詰まらせ窒息死
二人目はその二日後浴槽を酒で満たしその中で溺死
その後もいくつかの"変死者"が確認されている
そして、死体の近くには住所が書かれた紙が置かれており
その住所の場所は全て廃ビルだったらしい
ここから『廃ビルの魔法使い』の都市伝説が生まれたのだろう
「魔法使い……ねぇ」
噺家は廃ビルを見上げた
その廃ビルは使われてないと言うのに時々人が入っていく
その場景を見た噺家は
小さく笑いその場を後にした。
ここはどこかの廃ビル
男は日も沈んだ静かな街を眺める
今日、訪ねてきた人は三人、バカみたいなカップルと病人だった
「死ぬほど愛し合って居たい」とカップル願ってきた、だから滅多刺しにしてやった
後で化粧でもして二人一緒に捨てておけばそれなりに愛し合っているように見えるだろう
男は何もかもうまく行かなかった
いくら努力をしても結果をだせず職を転々としていた
そんな弱者はある日魔法使いへと変わった
何もかもが考えた通りに結果が出た
そして男は訪れる者の願いを叶えた
そしてその噺はたちまち都市伝説として語られた
最初に来た男は「死ぬほど大量の食べ物が欲しい」と願った
だから叶えてやった
他の奴らも
この力で
「やあ、初めまして『廃ビルの魔法使い』さん」
思わぬ来客だった
着物を着てその上に羽織を羽織った女性
この男の"噺"を殺しにきた噺家に
男はいつもどうり問い掛けた
「あなたの願いは何ですか?」
「……」
噺家はその問い掛けには答えなかった
「どうしました?言ってご覧なさい?」
「いい加減にしたらどうです?
あなたは願いを叶える気など無いでしょう?」
「そんな事は…」
「いいえ、あなたはただ人を殺したいだけ
その証拠にその子を殺したでしょう?」
噺家が指差した先には車椅子に座った少女がいた
少女は重い病を持っていた
医者にも匙を投げられ最後の希望として男を訪ねたのだ
男の力があれば完全に治す事が出来た
だが、男は少女を殺した
ただ自己満足の為だけに
「……あぁ、そうさ…殺せるなら誰でも良かった
楽しかったさ、ただイメージするだけで何でも思った通りになるこの楽しさはお前には分からないさ!」
「結局はあなたは力に酔った殺人鬼だ」
「ハッ!…だからどうした!
この際だあんたも死んでくれ!!」
男は噺家目掛け襲いかかった
「あっははははは!!!」
あらゆる武器をイメージから作り上げ形にする
それを何度も繰り返し武器を増やす
男はその夥しい数の武器を使い噺家を八つ裂きにするはずだった
「はは……は?」
だが、その無数の武器は噺家が持つ刀の一薙で全て破壊された
「この刀は矛盾を切る刀
この刀の前ではあなたの武器なんてただの鉄クズ
あなたがイメージから作る武器では幾つあっても私の命までは届かない」
つまり
男がイメージから作る矛盾だらけの武器を幾ら使おうと
この噺家の一薙て全ての矛盾はかき消されてしまう
故に男が勝つことは出来ないのだ
「う…うあぁあぁぁぁ!!」
男は逃げ出した
必死になって噺家から逃げた
だが今や男は弱者となっていた
そう何事もうまく行かない弱者に
「はぁっ…はぁっ…うぐぁっ!!」
男は階段から落ち足を挫いた
それでも逃げようとした
「はぁっ…で、出口」
「無駄ですよ」
だが遂に噺家に捕まった
「はぁっ…た…助けて…頼むよ…」
男の言葉に噺家は一言
「馴れ合うな、殺人鬼
私はお前等を狩る側なんだから」
噺家は刀を振り下ろした
その日を境に『廃ビルの魔法使い』は語られ無くなっていった
魔法使いの最後を知るものは噺家を除いて誰もいない
そして噺家は
今日も都市伝説を消していく
第一部 ―了―