第94話 招かれざる客1
今日もコスタリア領は日差しが暖かくさわやかな朝
「ゴブ~」(おはよ~ゴブ~)
この何気ない日常が幸せなんだゴブ
今日もゴブリン体操とジョギングをしてから執務をこなそうかね
あっという間に平日の1週間が過ぎて明日は女神の日
今日は早めに仕事を切り上げてみんなでお風呂に入って身を清めるゴブ
なんて油断をしていると突然に面倒ごとが舞い降りてくるのがファンタジー世界ですからな・・・フラグを立てないようにいつものルーティンを静かにこなすゴブ
いつもの時間に執務室に行き、少し溜まった書類を仕分け、奥方様の待つサロンに午前の休憩の時間になったので向かう。日常、日常。日々是好日なり~
「ゴブ~」(お待たせゴブ~、少し遅くなってしまったゴブ~)
コンコンッとドアをノックするといつもの奥方様のご機嫌な返事が返ってくる
「はい、どうぞ~」
「ゴブ~」(失礼しま~す、今日はいつにまして声が高くご機嫌ですな~)
ガチャ。背伸びしてやっと届くドアノブを下げてドアを開いて入るとそこには最近どこかで会ったことのあるような知らない貴婦人が座っていた
「うふふ~、ゴブちゃん。また来ちゃった」
パタン、わたしはそ~っと部屋から出てドアを閉め直した
う~む、誰だったかな~でもあまり関わらない方が良い人物だった気がするゴブ
記憶をたどって考えているとドアが開いて中からひょこっと顔をだしてきた
「ゴブちゃん~、顔を見るなり逃げるなんてひどいじゃない。一緒に虫歯を治療した仲じゃない、キズつくわ~」
げっ、まさかと思って候補から外していたがあの王妃様だったか
「ゴ、ゴブゥ~」(あはは、忘れるわけないゴブ~、ごきげんようゴブ~)
わたしは冷や汗を隠しながらなんとかカーテシーであいさつをする
そして何やらばたばたと騒がしい一団が廊下をむかってきている
奥方様が先頭でドレスをたくし上げて走ってきている
普段は自分の家でも人よりかなりゆっくりと足音をたてず優雅に歩いているのに
お客様の前ではしたないですぞ
「ぜぇぜぇ、叔母様。いつこちらにおいでになったのですか。先触れがありませんでしたが・・・」
「ついさっきよ。馬車だと時間がかかるから王族緊急避難用の転移陣をここの地下に設定して一人で来ちゃった。護衛は今日の午後にでも到着すると思うから、はいこれ先触れの書類ね」
先触れのお知らせをご本人が持ってきたら意味がないと思います
そしてご主人様が乗っていない馬車を護衛しているフリをしながら全速力で向かってきているであろう部下の人たち・・・かわいそうゴブ
「はぁ、そんなことが出来たんですね・・・知りませんでした」
「あくまで緊急時だけだけどね~、一方通行だから帰りは馬車になっちゃうし~」
そういう問題か?各所にある転移陣に王城から直接つなげられるってヤバくないか
マンションオーナーがマスターキーを持っていて全部の部屋を開けられるって感じか
「叔母様・・歓迎いたしますわ、突然なのでたいしたおもてなしも出来ませんが」
「いいのよ~、それに今日は一応王妃として訪問していることになっているから~」
ピキッと奥方様の額に青筋が入ったのが見えたが気づかないないふりをしよう
奥方様は笑顔のまま王妃様をサロンの奥へ案内していく・・・上流貴族は違うゴブ
メイドさんたちがてきぱきとお茶の用意をして部屋から出ていく
それではお呼びでないのでわたくしも今日は別の場所でお茶にしようかゴブ
「ゴーブ」(それでは失礼しましたゴブ~)
ミセッティは逃げ出した。しかし まわりこまれてしまった!
「ゴブちゃんも一緒にお茶をしましょう、どうせ無関係じゃないでしょうし」
「ゴブ~」(そういえばボスからは逃げられなかったんだゴブ・・・)
出会って話しかけたらそのまま戦闘になりどちらかが全滅するまで逃げられないのだ
まさか自宅でラスボスと遭遇するとは思っていなかったけど
「そんなに当家のお風呂を気に入ってくれて何よりですわ。またいつでもお越しくださいとは申し上げましたが、まさかこんなに早くまたおいでになられるとは思いませんでした、今日もごゆっくりくつろいでいってくださいませ」
奥方様は王妃として歓待することに気持ちをしっかり切り替えたようだ
「あ~そうね、もちろん《《ここの》》お風呂にも入っていくつもりよ。でもまずは領都の元貧民街を視察してからね~案内してもらうわよ」
「はい?貧民街ですか。いえ、さすがにあそこはちょっと・・・他の領都よりいくらかマシとの自負はありますが王族を連れていくのははばかれます。護衛無しではもちろん危険ですがヘタに護衛を付けても逆効果で狙われますし・・・変装して出かけるのも商業街までにしてもらいたいのですが」
「ふふふ、サイネリアちゃん。まだ隠しておきたいのは分かるけどね~。私の情報網を甘く見ないことね。特にコスタリアは要チェックの命令を出しておいて良かったわ~。こんなにおもしろそうな話に私をハブくなんて許さないわよ~」
「は、はぁ、王家に隠し事ですか・・・??」
むぅ、これはマズいゴブ。王妃様の密偵が貧民街の開発のことを報告したんだゴブな
そしてその進捗状況を王妃様自ら確認しにくるとは
しかも今から視察に行くとか言っているし、粗相があれば計画が台無しになるぞ
「ゴブ~、ゴブ~」(テト~、テト~聞こえているゴブか~)
わたしは小声でテトに呼びかける
「ちゅ」
カタっと小さな音がして壁の板材が開き、サロンの花瓶の置いてある家具の裏側から白いネズミが顔だけ出して返事をする
「ゴブゴブ」(今から王妃様が町に来るらしいゴブ、皆に伝えておくゴブ)
「ちゅ」
一言返事をすると壁の中に戻っていった壁穴はまた何もなかったように塞がれている
あいつ結構小さかったな・・・もう3代目、いや4代目世代が産まれているのかな
貧民街のほぼ全ての家に一匹ずつ潜ませているとか言ってたし、あいつなら王妃様の密偵の存在にも気づいていたかも
そして先日、コスタリア家の屋敷担当になったと5匹のホーリーラットが挨拶にきたのだった
何でも意識共有でクィーンの元にリアルタイムで情報を共有できるとか
地球の防犯システムよりもすごいんじゃないか
「何か言った?ミセッティちゃん」
「ゴブ」(何でもないゴブ、いってらっしゃいゴブ)
「それじゃあ、早速変装していきましょ、あたしは細剣使いの冒険者ね」
「・・・ライアン君をすぐに呼んできなさい、護衛させるわよ」
「あ~そうね、この際だからバーゲンハイム家も立ち合いさせた方がいいわ」
そしてまたバタバタとみんなが準備に忙しく走り回りだした
まわりをバタつかせる天才だな、この王妃様は。
自分は髪をアップにしてまとめ軽装の冒険者の恰好をしている
本人は変装が完璧だと思っているようだがそんな綺麗な顔立ちで髪がサラサラの冒険者なんている訳がないゴブ
身に着けている皮鎧や服もキズどころかシミひとつ無いし、違和感ありまくりゴブ
「ふえ~、急に出かけることになって大変です~。何ですか?ミセッティ様」
町娘の変装をしているマリーが奥方様の着替えを手伝っている
こっちは何の違和感も無いな
「ふふふ~、どうです町娘の服装をしてもあふれ出る高貴な雰囲気・・・やっぱり
育ちがいいと出ちゃうんですよね~」
「ゴブ」(全くオーラが出てないゴブ、完璧な町娘の変装ゴブ)
「何ですかその目は~また馬鹿にしてますね~プンプン」
わたしなんて服の上に少しぼろいポンチョを着ただけだがどこにでもいる野良ゴブリンに完璧に変装できているぞ
・・・間違って狩られないよね?
情報伝達よろしくお願いしますよ、チュー太さん




