第119話 エルフの村に遊びに行こう3
わたしは今、馬車に揺られて3日目になるゴブ
コスタリア家の聖水を樽に満タンにした荷馬車の隙間に乗せてもらっているのだ
アイラお嬢様は社交界への準備に忙しく随行はあきらめたらしい
侯爵家のお嬢様が旅行に行くとなれば大所帯になるからね(前回の王都行きは特別)
強力な聖水を大量に運んでいるので魔物に襲われる心配はほぼゼロ
エルフさん達は全員魔法の使い手なのでそこら辺の野盗レベルでは問題なし
むしろたまに馬車が大きく揺れてこぼれてくる聖水のほうがわたしには危険です
ライアンの奴も社交シーズンになると実家に帰らなければいけないらしく居ません
肝心な時に役に立たない奴ってどこの世界にもいるもんだゴブ
という訳でわたしの護衛はホーリーラットさん5匹になりました
数多くいるラットさん達の中でも準クィーンクラスの強者さんらしい
エルフの里に行くことを教えたらどうしても行きたいとチュー太に頼まれたのだ
聖獣にとって世界樹のあるエルフの里は特別な場所のようです
ディズ〇ーランド的な感じか?ネズミだけにな・・・
行きだけでいいってことだがエルフの里で繁殖しようなんて思っていませんよね?
さっきから5匹が聖水樽の聖水を飲んだり、中で泳いだりしています
ネズミが飲んだり泳いだりした水って衛生的にどうなんだろうか・・・
まぁエルフさんたちは半分木の精霊だから大丈夫、木の精だけに気のせいってね
どうせわたしは飲むことも触れることも出来ないから関係ないゴブ
そんなしょーもないことを考えているうちにエルフの里へ着きました
エルフの里に入ると大勢のエルフが待ち構えて歓迎してくれた
わたしがゴブリンなのも受け入れてくれているようでちょっぴり感動だゴブ
そのまま荷馬車はまっすぐに世界樹の入り組んだ根の間に入っていく
「ゴブ~」(村長さんの元へ届けるかと思っていたけど違うんだゴブ)
バカでかい根っこのすき間を走っていると湯気がたって目の前が少し霞んでくる
「よーし、止まれ、今週も6樽の聖水を運んできたぞ、エルフと我が氏族に幸あれ」
そういうと運搬隊のみなさんが湯気の出ている泉に聖水を流し始めた
少し虹色だった聖水が泉に注がれると泉もほのかに虹色が濃く染まった気がする
「ほっほっほ、これが最近は楽しみでのぅ」
「リリ様には感謝じゃのぅ、またお小遣いをせびってきてもあげてしまうわい」
そしていつまにか並んでいた何だかしおしおにくたびれたエルフさん達がぞろぞろと泉に入って沐浴をし始めている
「ゴブ~」(なんだこの枯れたじいさん達は・・・温泉に入りにきたのか)
「うむ、今月も長老たちに一番風呂を堪能してもらえたな!明日から1週間は我ら第4氏族のみ、その後はいつものように次回の選挙で第4氏族に投票する誓約札を持った者のみ入場を許可しているのである」
「ゴブ・・・」(世界樹の危機を救うために聖水が必要とかじゃないのかゴブ)
何か聞いてたのと若干違う気がするゴブ
世界樹が元気が無くなってきているからどうしても聖水が必要だ!とかだったはず
なんだか有名ところの温泉水をタンクローリーでスーパー銭湯に運んで温泉施設です!ってアピールしてる商業施設のようだゴブ(介助施設付き)
それに何だか政治色が出て面倒くさい感じがしているゴブ・・・
一応世界樹の根元にあるので聖水の成分が幾分かは世界樹に流れていると信じたい
しかもなんか全ての手柄がリリテラムさん一人になっているような気がするゴブ
シャルルさんがその身を愛人に落としてまで取り付けた契約だったのに
上司が部下の功績と犠牲を全てかっさらっていた前世を思い出すゴブ・・・
まぁシャルルさんも今の生活に不満は無さそうだし黙っておこう
搾取されながらもその中で自分の身の程をわきまえた小さな幸せを掴むのが人生を楽しむ秘訣なんだゴブ
「ゴブ」(とりあえず来た目的であるオタさんに会いに行こうゴブ)
世界樹の葉に書いてあった住所を聞くとみんな言葉少なく教えてくれた
ホーリーラットを引き連れた小洒落た格好のゴブリンなのに差別が無くて素晴らしい
他人にそれほど関心が無いとも言えそうだが・・・
書いてある住所の前に来るとどこかで見たようなアパートのドアが見えてきた
脇にこれまた見慣れたインターホンがあり、その上に[太田]と表札があがっている
「ゴブ・・・」(異世界の・・・エルフの里の情緒が台無しゴブ・・・)
それでも律義にインターホンを押してしまうのは悲しい現代人のサガですね
しかしインターホンまでわたしの身長の倍以上あって届かない
「ゴブ!」(こんな時は・・・必殺[狂戦士化]ゴブ!)
スキルを発動させると目の前が真っ赤になって力がみなぎる
全てがどうでもよくなって暴れたい衝動に駆られるがここは我慢だゴブ
軽くジャンプすると目の前にはインターホンだ
ピンポーン
くくく、[狂戦士化]スキルを発動すると知力が半分になるが力は倍になるのだ
元々知力は1だからこれ以上下がることは無い、つまりノーペナルティで力だけ倍になるというゴブリンには相性抜群のスキルなのだ
くるりと着地して抑えきれない高揚感に浸っているとドアが開いて背中を強打した
「ゴブー!」(誰だゴブ!せっかく人が気持ちよくポーズを決めていたのに!)
「おー、ゴブリンさん意外に早かったね~、いらっしゃ~い」
「ゴブ?」(え~っと?何だっけかな~そもそもあんた誰?)
「ん~?僕に会いに来てくれたんじゃないの?この前しゃべった子だよね?」
「ゴブー」(そうでした、そうでした、エルフさんに会いに来たんだったゴブ)
いかんいかん、[狂戦士化]を使うと興奮して少し頭がボーっとするからな~
ここに来た本来の目的を忘れてしまっていたゴブ
玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えるとそこには座卓にテレビ、ゲーム機が雑に床に置かれ、壁にはポスターが隙間なく貼ってあり、食べたあとのカップラーメンが机の上に放置されていた・・・
「デュフフ、こちらの御仁がオタ殿の言っていたゴブリンですな」
「ふむふむ、確かに野生のゴブリンには無い知性と気品を感じますぞ」
「おっしゃる通りですな、これは我々もうかうかしていられないのであります」
3人の小デブで態度がでかそうなエルフが鼻息荒くそれっぽいことを言っている
っていうかこの趣味に全開で食事や服装に気をつかわないこいつらの出で立ちといい
ゴミ屋敷とは言えないまでも生活感が溢れている部屋といいまるで引き籠りニートだ
「デュフフフ、我々を見て言葉もないようですぞ」
「ゴブリンにこの高尚な文化を理解できているのかはなはだ疑問でありますな」
「オタ殿の知り合いということは少しはたしなんでこられた御仁だと思われますぞ」
なんか口調が少しカンにさわるな
微妙に上から目線で何かを納得しているような口ぶりは前の世界でのオタク達を思い出すな・・・一応、偏見はもっていませんけどね
「あはは、彼らは一応僕の助手・・・ってところかな、地球のマンガやゲームを取り寄せて遊んでたら気に入っちゃって入り浸っているんだよね~もう100年くらい家に帰ってないんじゃないかな」
おいおい・・・たまり場でつい楽しくなって入り浸ってしまって100年かよ
そりゃ息子が意味分からん口調になって100年帰って来なかったら危険な魔道具の実験にされて帰らぬ人となったり頭がおかしくなったという噂もたつゴブ
「それはそうと今日という記念すべき日に珍しく来客とはまさに僥倖でありますな」
「まさにそれ、ゴブリン殿は《《持っている》》でありますな~」
何だか今日は記念日なのか?オタ共が興奮が止まらない様子だが
「あははは、今日はやっと『管理者ポイント』が12万ポイント貯まったからね~念願のプレ〇ステーション5Proと交換できるってわけさ、みんな今日のために僕の助手をしながら半年以上1週間に1度のカップラーメンでしのいできたからね」
1週間に1食がカップラーメンですか・・・食事を摂らなくても生きていけるエルフならではの貯蓄方法ですな
水と日光だけで生きていけるエルフは引き籠りニートには最適人種ではなかろうか
「本当はもう少し早く手に入れるはずだったんだけど急にプロ仕様になるって価格も倍ぐらいになったからみんなで絶望してたんだよね」
異世界通販?・・・は待ったなしで切り替えですか、中古とかは無いんですかね
オタさんがパソコン画面を切り替えて女神様に注文するらしい
まさかの女神様への直接電話で対面注文ですか・・・
「はいは~い、もう準備出来てるわよ~よく頑張って仕事してくれたわね~」
まさかとは思うがこの声は創造神セレスティア様か?こんなに簡単につながるのか
「よーし、みんな~いっくよ~、『管理者ポイント』119980でポチっとな!」
「うぉぉぉ、半年の我慢がついに実を結ぶのであります!」
「永かった・・・永かったであります・・・」
「永遠とも思える忍耐の日々が今日報われるのでありますな!」
3人とも感動と万感の涙を流しているがお前らエルフにとって半年ぐらい待つのはたいした意味は無いだろうゴブ
まぁ、ずっと目標のために貯金してきて手に入れる瞬間は確かに感動するけれども
それよりも創造神と交信出来ていることに違和感とかないのか?
前世での大統領、首相クラス以上のVIPだと思うが・・・
「あれ?おっかしいな~、いつもならすぐにこの部屋に転送されてくるのにな~、住所も変更してないし時間指定もしてないんだけどな~」
いつまで経っても商品がくる気配がない
画面を見ると[管理者ポイントが足りません]の表示が上がっているゴブ
「女神様!ポイントが足りないみたいです、どういうことっすかぁ~」
「あれ~そうなの?あ、ごめんなさ~い、先月から異世界への納品は商品とは別に転送費が2000ポイントかかるようになったみたい」
神界のほうも運送業界の人手不足なのか?世知辛い世の中ゴブ




