第115話 招かれる客4
コスタリア領都南第2区(元貧民街)の大通りから1本入った古い建物
ここにドノバン一家の本部がある
以前にライアンとミセッティによるカチコミを受けて建物が半壊しかけたが今は壁に空いた穴を板で塞いだり外れた扉を無理やり金具で固定して何とかしのいでいる
その2階で机の上に無造作に置かれた大小多くの袋を見てドノバンは溜息を付く
そこへばたばたと騒がしく足音を立てて誰かがやってきたようだ
扉が勢いよく ばんっ と開かれて入ってきたのは奥さんでもあるメイヤーナ
顔が上気して少し興奮しているようだ
「ドノバン!ドノバン!あたし最近になってすごいことに気付いちまったよ!」
「お、おう、メイヤか、今日はまた早い戻りだな。客が落ち着いたのか?」
「それどころじゃないんだよ!あたしは世界の真実を発見したんだよ!」
「またとんでもないことが始まったのか・・・一体何に気付いたんだ?」
「それよ!あたしは気づいたのさ、貴族は殺しちゃダメだってことにね!」
勝ち誇ったようにどや顔で胸を張って言ったメイヤと対照的にドノバンは頭でも痛くなったのかこめかみをグリグリしながら目を瞑って溜息を付いた
「お、おう、そうかよかったな、まぁ貴族でなくても殺しは基本的にはダメだがな」
「貴族ってのはあたしたちが思ってたよりも金を持っていたんだよ!殺しちゃったらもったいないって!ホントにダメなんだって、ねぇドノバン!ちゃんと聞いてる?」
「ああ、ちゃんと聞いてるって・・・まぁなんだ、世界の真実が知れて良かったな」
メイヤが興奮して話しているうちに会計士さんとセレスティーヌが部屋に入ってきた
「おやおや、今日は私たちの方が遅かったですか、メイヤさんご機嫌ですね」
「メイヤちゃん、今週も例のお墓参りに3組の貴族婦人が来たわよ~ほら」
セレスティーヌはそういうと小袋をドノバンの机の上にぽんっと置いた
「ふぉぉぉ、この袋の中味はまた全部がオリハルコン硬貨なのぉぉ!15枚いや20枚以上はあるよぉぉ!はぁはぁ、すごい!すごいよ!貴族様は!」
「ふはは、もうすっかり金の魔力に憑りつかれたようじゃな、分かるぞ~ワシも若い頃はこれまで見たことのない金を見ては驚いておったもんじゃ」
「それでは私も。セレス様ほどではありませんが今週分です、嵩張らないよう一部はオリハルコン硬貨に両替してあります、まぁ金貨2500枚程度になりましたが、もちろんこちらは帳簿に細かく記載しておりますのでご安心ください」
「おう、嵩張らないように両替して持ってきてくれたのはありがたいけどよ・・・もうここの金庫がいっぱいで入りきらねぇんだわ、見てくれよ入りきらねぇ袋詰めオリハルコン硬貨が机の上に溜まっちまってんだよ・・・オリハルコン硬貨がだぜ・・」
そう言ってドノバンが胃のあたりをさすりながらつぶやく
「ははは、もうここに持ち込むのも限界ですかね、今度は金庫ではなく地下室でも作りましょうか、まだまだ増えそうですからね」
「お前・・・冷静だな、俺も前の商売でもある程度の現金を用意していなくちゃなんねぇから金庫にいつも金貨500枚(5千万円)くらいは常備してあったさ・・・それでも最初は警戒して寝付きが悪かったがな」
「ふむふむ、我々闇魔法ギルドも似たような資金力でしたね」
「ところが、だ!ここのところの金の集まり方は異常だぜ!これまで金庫に入れていた金貨の枚数以上のオリハルコン硬貨が金庫に入りきらねぇほど貯まっている」
「まぁざっくり数えて800枚以上はありそうですね」
「なんでそんなに冷静なんだよぉ!金貨80万枚以上あるってことじゃねぇか!もう何がなんだか分かんねぇよ、オリハルコン硬貨3枚以上の金の使いみちなんて俺じゃ思いつかねぇよぉぉ!うぐっ、叫んだらまた胃袋がシクシク痛くなってきたぜ」
「あはは、ドノバン君は心配性だねぇ、元々ここらを仕切ってたボスなんだろ?」
「ぐぐぅ、ほとんどお前のせいだろ、セレス。俺らは貧民街の出身なんだぜ・・・大人になるまでまともに大銀貨も見ずに育ってきたんだよ、オリハルコン硬貨なんて今回初めてこの目で見たんだ」
「浴場と周辺店舗の売上や人形などの売上は帳簿管理していますが例の施術料はどうします?教会への寄付であれば納税の義務もありませんし・・・額が大きいだけに確かに取扱いに困りますね」
会計士さんは税務処理にも詳しいようだ
それだけに急激に増えた貯金を脱税などで取り締まれないように処理する必要がある
ことをしっかり認識している
「稼ぐだけ稼いで使えずに最後は牢屋・・・というオチは避けたいですね」
「その辺はちゃんと考えているさ、まずは領主様に貸金業の許可を申請しようと思っているのじゃ、貴族専用の最低貸付オリハルコン硬貨1枚からのな」
「ほほう、貸金ですか。確かそれだと貸している金額は税から免除されるとか」
「ここにきてなぜかオリハルコン硬貨が緊急で必要になった貴族が激増しているからねぇ、貸付の需要はあると思うぞい」
「お前・・・貸した金をそのままミセッティの施術料で吸い上げる気だろ・・・」
「1年に1回しか施術は出来ないと言ってあるから貴族の奥様たちは必死さ、隣りの奥様より3年、5年でも若く見られないと恥をかくからねぇ」
「1年に1回しか受けられないのか・・・そんなにキツい施術なのか?」
「いや?それは私が勝手に決めただけじゃよ、ミセッティが言うには毎日施術しても健康に害は無いそうじゃ、1年受けれない方が必死にお金を集めてくるじゃろ?」
「お前本当に聖職者か?貴族様に同情するぜ・・・」
「だから~貴族は殺しちゃダメなんだってば!分かったでしょ、ドノバン!」
「お、おぅ・・・痛いほどに分かったぜ、元々知ってたけどな・・・」
「はい、今日もハイポーションの聖水割りを作るね!濃いめで」
「ああ、いつもわりぃな、最近はコレが無いとゆっくり寝ることも出来ねぇんだわ」
「しかし本当にそんなに簡単に貸金の許可など下りるのでしょうか?王都でもかなり信頼された歴史ある大棚の商会などにしか許可されていませんよ」
「ふん、伊達に長生きはしておらんわ、そろそろ手紙が届いている頃じゃて。それはそうとこちらの領主様へも筋を通さねばなるまいの」
~~~~~~
コスタリア家の執務室
「ゴブ~」(急激に発展している貧民街からの要望書や上申書で溢れているゴブ)
「はぁ~何から手を付けていけば良いのかしら、最近は旦那様も週末にせっかく戻ってこられても南第2区の書類がいっぱいで相手してくれないし~」
「奥様、王妃様からの書状が届いております、王妃様も我がコスタリア家の現状にお心を割いてくださっているようです」
「あら~、ここの街を本当に気に入ってくださったのね、嬉しいわ~」
「ゴブ~」(イヤな予感しかしないゴブ、関係ないけど)
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ドノバン一家の本部
「はいよ、貸金業の許可が下りたってさ、思ってたより早かったさね」
「マジか、まぁでもこれでやっと金庫から溢れたお金をさばけるぜ」
「ふむ、さすがはセレスティーヌ様ですね、一体どのような人脈を使われたのか」
「おや?もう1枚封筒があるよ~王都のコスタリア領主様から」
「あん?税が足りてねぇとかじゃねえよな」
会計士さんが先に見るが目を見開いて固まってしまった
セレスティーヌはニコニコとほほ笑んでいる
「なんて書いてあるか教えろ、いやもういい自分で見るわ、って・・・はぃぃ!?」
そこにはドノバンをドノバン・ホーリーウォーターとして騎士爵に叙爵し南第2区を新たにホーリーウォーター領とすることが短い文章で記されていた
「なんじゃこりゃぁぁ、ウソだろぉぉ、任命されてもせめて町長だろうがよぉぉ!」
「あり得ないですね、セレスティーヌさん、一体いくら積んだんですか」
「まぁ、ある程度の功績を上げて金貨5千枚も積めば有力商人でも名ばかりの貴族籍は買えるからね、ダメ元でほうぼうに合わせてオリハルコン硬貨50枚くらいは配ったかねぇ、まさか領地付きの貴族になれるとは思わんかったんじゃが」
「詳細は無いってことは領地内の整備やトラブルは全て自分達で何とか解決しろってことですな、そして税だけはきっちり親貴族に払えと。最近は苦情や要望がコスタリア様の方へ多く寄せられていたようですがもう頼れないですね、隣接しているのに」
「ぐぅぅ、胃が、胃がねじ切れそうだぜ、いててて」
「はい、ハイポーションの聖水割り、今日のは『聖女マリーの一番搾り聖水』で割ってみたよ、すごく効くんだって!それにしてもすごいよドノバン!」
「ありがとよ・・・お前も他人事じゃねえぞ、元殺し屋の貴族婦人とかありえねぇ」
「元じゃないよ~まだ現役だよ?先週も2人ほどヤッたし」
「余計悪いわ!ううぅ・・・勘弁してくれ」
「あはは、孤児からヤクザ親分、そして貴族になるなんて小説みたいじゃないかい」
「お金は権力や武力にも負けぬ『力』とは言いますがまさにその通りですねぇ」
「おい、お前ら自分は関係ねぇみたいな態度してるがマジで逃がさねぇからな」




