閑話.森が拾ったもの
閑話
森の奥で、魔女は立ち止まった。
「……厄介だね」
足元に、小さな塊がある。
倒木の影、落ち葉に半分埋もれて、眠るように丸くなっていた。
少女だった。
五つか、せいぜい六つ。
金色の髪は土に汚れているのに、光を失っていない。
閉じた瞼の下には、作りものみたいに整った顔立ちがあった。
「顔が良すぎる」
魔女はため息をつく。
「森に捨てる顔じゃない」
しゃがみ込み、頬に触れる。
生きている。熱もある。
少女はうっすらと目を開けた。
――青。
空みたいな色だった。
深くて、澄んでいて、何も知らない色。
「……ひと?」
掠れた声。
「まあね。だいたいは」
魔女が答えると、少女はじっと見つめてきた。
怖がらない。泣かない。逃げない。
代わりに、こう言った。
「おなか、すいた」
「……そう来るか」
魔女は一瞬だけ笑った。
家に連れ帰る途中、少女は魔女の外套をぎゅっと掴んでいた。
「離すと、落ちる」
「落ちないよ」
「でも、離れたら、いなくなる」
魔女は足を止める。
「誰が?」
「ひと」
その言葉が、やけに重かった。
「……しがみつくのは上手だね」
「よく、そうしてた」
「誰に?」
少女は首をかしげた。
「わすれた」
魔女は、それ以上聞かなかった。
家に着くと、少女は目を丸くした。
「ここ、においする」
「薬草だ。慣れな」
「おばけ?」
「失礼だね」
魔女は鍋に水を張り、火をつけた。
「名前は?」
少女はしばらく考えてから、首を振った。
「ない」
「困る」
「じゃあ、ちょうだい」
あっさりしている。
魔女は少女の顔を見た。
金の髪、青い目、整いすぎた輪郭。
「……目立つ顔だ」
「めだつ?」
「生きにくい、って意味さ」
少女は分からないまま、うなずいた。
スープを飲ませると、少女はすぐに眠った。
魔女はその寝顔を見下ろす。
「綺麗すぎるのも、罪だよ」
小さな胸が、規則正しく上下している。
魔女は毛布をかけ、呟いた。
「森に拾われたなら、
せめてここでは、道具にしない」
少女は夢の中で、何かを探すように指を動かした。
魔女はその手を、そっと握った。




