2.森での日々
魔女の家が爆発しなかった日は、だいたい良い日だった。
「その草は入れるなって言っただろう!」
「でも、いい匂いだった!」
「匂いで薬を決めるな!」
鍋から立ちのぼる煙が、突然ピンク色になる。
「……ほら」
「ほらじゃない!」
魔女は慌てて蓋をし、木べらで鍋を叩いた。
ぼん、と音がして、煙が天井に吸い込まれていく。
少女はしょんぼりした。
「怒ってる?」
「怒ってない。寿命が縮んだだけ」
「同じじゃん」
「違う!」
魔女はそう言いながら、少女の前にパンを置いた。
「食べな。失敗した日は、腹を満たす」
雨の日は、外に出られない。
「つまんない」
「じゃあ、遊ぶか」
魔女は棚から古いカードを出した。
星や記号が描かれている。
「なにこれ」
「占い。信じると馬鹿を見る」
「じゃあやらない」
「やるんだよ」
カードを引くと、少女は目を輝かせた。
「“旅立ち”だって!」
「ふん。外れるね」
「未来が見えるんでしょ?」
「未来は気まぐれだ」
魔女はカードを片づけながら言った。
「だから、人は選ぶ」
夕方、少女は森で転んだ。
「血出てる!」
「見せな」
魔女は膝に手を置き、呪文をつぶやく。
痛みが、すっと引いた。
「すごい……」
「すごいのは、傷が治ることじゃない」
「じゃあなに」
「転んでも、また歩けること」
少女はその言葉を、よく分からないまま覚えた。
夜。
ベッドは一つしかない。
「狭い」
「贅沢言うな」
少女は魔女の背中に顔をうずめた。
「ねえ、魔女」
「なに」
「ずっと一緒?」
少しだけ、間があった。
「……明日は知らない」
少女はきゅっと魔女の服を掴む。
「でも、今日は?」
「今日はいる」
「じゃあいい」
魔女は何も言わず、少女の頭を軽く叩いた。
翌朝。
「名前、ちゃんと呼ぶ」
「昨日も呼んでた」
「違う。ちゃんと」
魔女は真面目な顔で言った。
「名前は、呼ぶたびに世界に繋がる。
粗末に扱うな」
「……わかったよ、ミルサ」
少女は背筋を伸ばす。
「もう一回」
ルメリアは、ゆっくりと名前を呼んだ。
森が、少しだけ静かになる。




