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異次元の女優たち  作者: 宮里英門
第1章 奇才塾 編
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3-5 奇才塾、その驚くべき指導⑤

 それは、こういうことである。まず、自分の中で、ドラマを作っていき、例えば、「さびしい」であるならば、この塾生たちの年代で恋愛などは、まだちょっと難しいので、それならば1番身近でしっくりくるシチュエーション。


 それは、親密な友人関係である。自分には、大親友といえる唯一無二の友人がいて、校内ではいつも一緒にいて、なんでも話せる友達。朝から登校も待ち合わせ、授業の合間に、休み時間もべったりで、よくあることには、

「ねえ、トイレ一緒に行かない?」


 なんて、どれだけ仲がいいの。そして、その唯一無二の友達が、親の仕事の都合で、引っ越すことに。引越しのトラックの後ろに乗ってる友達は、見えなくなるまで手を振ってる。

 そんな王道シーン。自分も走りながら、手を振りながら、トラックを追いかける。しかし、やがて、トラックに引き離されて、立ち止まり、手を振って、見えなくなるまで手を振った。


 次の日の朝、気がつくと、待ち合わせの場所で待っていた。そして、そうだった、うっかりきてしまった、ハッと気づくと、さびしさが実感してきて、思わず、空を見上げてしまう。友達の顔が目に浮かぶ。すると、あらためて、さびしさを感じていた。


 さあ、その気持ち!その気持ちだけを切り取って、その気持ちだけを固めていく。そこまでのシチュエーションは、ぜんぶ捨て去って、その気持ちだけを凝縮していく。さて、ここまでを、そう、30秒ほどでできたなら、初めてなら合格。それを、やっと、「さびしい」という言葉とともに放出していく。上手くいった手ごたえがあった。そして、相手にも手ごたえがあったようだった。


 すると、塾生の中には、それをみて、

「そのやり方って、いいわね。私もやろうっと。」


 同じように、妄想を始めた、その子、すると、最後の方にきて、実際に、この養成所にくるためにお別れをしてきた友達がいたことと思いが重なってしまい、その「さびしい」というリアルな感情は、でき上がったのだが、そのシチュエーションと感情の分離がなかなかできないため、失敗してしまった。ここの、分離は意外に難しい。


そこで、主技は言った。


「いいこと。実際に体験したことの気持ちというのは、演技ではなくて、感想とか、思いの再現よ。その気持ちをそのまま、実際のシチュエーションと分離することができなくて、その演技を続ければ、それは、演技ではなくて、体験を再現しているにすぎないので、役に落ちていることになる。しっかりと、分離することができて、その気持ちを表現できたなら、それが立派な演技になるのよ。わかるわね。


 そう。それから、今のようにして、妄想をすることから、感情を作り出すことは、やりやすいことなので、実感のありそうなことを使ってやろうとすることには、注意が必要よ。たとえば、「さびしい」という感情を作り上げる時、とても大きな感情にすると実感があって、やりやすいと思って、両親と別れるとかをやってしまうと、あとで、その気持ちが強すぎて、シチュエーションと感情の分離ができにくくなって大変ね。


 だから、たとえば、旅行に短期間で出かけるとかいうのは、どう?それなら、たしかに、家族や兄弟としばらく離れてさみしい気持ちはあるけど、また、会えるのだから、そこまでじゃないから、やりやすくなるわね。あとで分離するのも、そこまで難しくはないわね。それでね。


 あなたたちに、向いている方法としては、旅行とかで比較的軽い、さみしい感情を作り出しておいて、後から、心の中で、そのシチュエーションの中での感情を見直していくのよ。改めて、よく見直して。そして、それをシチュエーションと感情の分離を、目の前の意識に同時において、その両方を見ながら、感情の拡大をしていくのよ。


 その、今出来上がったさみしい気持ちに、何か、何でもいいんだけど、そのさみしさを拡大できるような味付けをしていくのよ。たとえば、その、旅行で会えない期間を少し伸ばしてみるとか、家と旅行先の距離を遠くにしてみるとか、よりさみしさを拡大できるために想定するものは、色々なものがあるし、人それぞれ違うからね。そして、分離がギリギリできる限界まできたら、拡大を中止して、一気に分離するのよ。


 そうすれば、わりと簡単にできたわりに、しっかりと実感できる感情が出来上がるわ。あとは、その経験を繰り返すことね。それから、そこまでの時間短縮ね。そのシチュエーションからの感情が簡単に作れるようになったら、そのシチュエーションがなくても、簡単にその感情を作り出せるようになるわ。その気持ちを感じて作り出しているからよ。慣れてくれば、一瞬でその場面に応じた感情を作り出せるようになるわ。そして、さみしさの様々なレベルまで、その役のその場面に応じて、すぐに、その感情を持ってきて演じることができるようになるわ。」

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