3-3 奇才塾、その驚くべき指導③
そして、「うれしい」について、5人全員が合格の90%を超えたら、その、第1項 単語感情表現の2つ目「怒ってる」に進んでいく。今回も、言葉では、相手に「怒ってます」と言うのだが、その言葉には、語気を強めたりはしないで、怒りは気持ちだけで、その気持ちを重視して伝えていく。それで相手の塾生は、怒りの気持ちを感じたら、1人合格。あとは、前回と同じことを繰り返していく。
だが、これらの練習以前に、実は、この塾生の中に偶然にも、麗子と一緒にここに入所を勧められてきた、荒玉亜弓がいて、この養成所で再会した麗子は、とてもうれしくて、互いに喜びあった。
ところが、亜弓は、5人の中でも、1人だけ、最初の「うれしい」から、全く合格をもらうことができなかった。他の塾生たちも、もちろん多い人、少ない人と、個人差はあるのだが、亜弓だけは、1人も合格できない。
それを心配した麗子は、なんとかならないかと、来る日も来る日も考え、自分が、その「うれしい」を相手に発動するその時の気持ちや、1つの形になっていたようなものを思い描いて、必死になってやっている亜弓に、その波動を送り込んでみた。
すると、次の瞬間、「うれしい」と言葉を発すると、その時の相手から、
「あっ!今は、うれしい気持ちを、とてもよく感じました。」
と、言われて、亜弓も、
「私も、今は、伝えられた感じが、すごく手ごたえを感じました。よかった。」
すると、主技から、
「やっと、できたわね、亜弓。今のは、よかったわよ。」
そう言われて、亜弓は、そこから急にできるようになっていった。
そして、その回の、授業が無事に終わると、主技から、
「麗子、あとで、夕食が済んだら、私の部屋にきて下さいね。」
「あ、はい、わかりました。」
いったい、なんのために呼ばれたのだろう、と怖い気持ちを抑えながら麗子は、塾長の部屋に入っていった。
「あら、麗子。そんなに緊張しなくていいわよ。そこに座ってね。」
「は、はい。」
すると、主技は、思いの外、笑顔で話し始めた。
「実はね。今日、亜弓が、単語感情表現の「うれしい」を初めてできたわね。あの子、1人だけなかなかできなくて大変だったけど。やっと、今日できて、それからは、見違えるようにできるようになったわね、よかったわ。」
まさか、私がやったことがバレて、そのことで呼び出されたの。
「私はね、別に怒ってないわよ、大丈夫。でも、あなたがやってあげたんでしょ。あの子に、波長とか送る時の精神状態や送る時の気持ちの込め方とか、波動を送り込んであげたのよね。」
ああ、もうバレてるわ、でもウソはつけないわ、白状するしかない。
「主技、ごめんなさい、私、亜弓ができなくてかわいそうになって、それで、思わず、、、。」
「いいの、いいの、大丈夫よ。あなた、あれを自分で考えてやったのでしょ。」
「そうですね、どうしたらいいのかわからなかったんですが、自分が発動する時のその時と同じように、スッとできるように、その発動する時の感覚とか、その時の精神エネルギーの流れやそういうものを亜弓に送り込むことが、もしもできれば、と思ったんです。そうしたら、たまたま、亜弓に送り込めたんですね。」
「そう。あれは、見事だったわよ。」
「えっ?」
「それに、あなたが、一度、その波動を送り込んであげたら、あとは、亜弓ずっとできたでしょう。あれも、実は、亜弓は、やはり大したものなのよ。一度きっかけを与えてあげたら、ずっとできて、やっぱり、あの子もここに来るだけのことはあったのね。
それからね、実は、あなたのやったことは、このカリキュラムの最後に教える、究極の方法があってね。これを教えるのは、何年も先になるんだけれど、【超演技】といって、普通の演技を超えた高度な技があるんだけど、その中の【秘技 同調連鎖】というのがあってね。その撮影現場で、多くの俳優が、多人数で同じ気持ちで同じ演技をしなければならない時に、なかなか合わせられない時とか、あるでしょう。
そういう場合に、できる人のやり方を読み取って、同じことをやる人たちに、その波動を送り込んであげるのよ。そうすると、スッといきなり全員同じことができる。そういう技なんだけど、あなたが今日、亜弓にしてあげたことは、ほとんどそれに近いわね。
たぶん、あなたの今回やったのだと3人以上が対象になったら、できなかったと思うけど。でも、あなた、誰にも教えてもらわずに、あれを自分で考えだして、作り上げたのよ。それも、誰からもヒントをもらうことなく、ゼロから。ここの指導も、まだ始まったばかりだというのに。正直言って、私、本当に驚いたわ。これからも、頑張ってね、私、期待してるわよ。」
「ありがとうございます。宜しくお願い致します。」
麗子は、これから、ここで教えられることは、本当に想像以上のことなのだと、実感するのであった。




