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7階 ~呪われマンション『ヒアアフター』~  作者: 犬冠 雲映子
ユルカのゆるゆる夜勤勤務
29/32

28話 〈ヤモリさん〉

 草木も眠る丑三つ時の真っ只中。ユルカはエレベーターにヤモリがいると報告を受け、探していた。

 一体誰が通報したかも判明しないが、管理人さんから捕まえてくれないかと依頼してきたのだ。

 ヤモリとイモリの違いも分からぬが、とりあえずトカゲらしきものを探す。まったくもって見つからない。


「この前はでっかいスズメバチだったし、どこから入ってくるんだろ」

 ロビーにスズメバチが迷い込み、管理人さんが女々しく怯えていた。巨大なスズメバチを仕方なく虫取り網で捕獲し、外に放置したのを覚えている。


「えーっと…」

 ふいに盛り塩が隠された場所に目がいく。恐怖でしかないが、今は作業に集中するのだ。



 ガコン。



 いきなり機械が作動した音がして、扉が閉まった。

「えっ!ちょっと!」


 自分は何も押していない。上階の人がボタンを押した?

 どうしよう、と慌てているとみるみる階を登っていくのが分かる。画面の数字が変わっていき──エレベーターが止まった。


「ひ…」


『7階』。止まるはずのない、封鎖された場所。

 扉にハマっている窓ガラスの向こうは暗闇に包まれている。黒しかない。だが異様な空気だけは痛い程に伝わってくる。


 エレベーターの中でしゃがみこみ、壁ににじり寄る。もしも扉が開いたら──自分はどうなってしまうのだろう?


「わ、開かないで!」


 扉がわずかに開こうとした瞬間、ヤモリがチョロリと絨毯から出てきた。「ヤモリ!いたーっ」


 ユルカはホラーな7階に来てしまったよりも、目的に出会えた事に歓喜し、ソッと手を差し伸べる。

 ヤモリは珍しくソロソロと手のひらに乗ってきた。

「か、可愛い…っ。ヤモリってこんな人懐っこいんだ!」

 目を煌めかせていると錆び付いた音を立てながら扉が閉まり、エレベーターが勝手に下へ降りる。全く何が何だか…。


「もう迷い込んじゃダメだよ。ここ、変なエレベーターだからね」

 そう言って、無事にロビーに帰還すると玄関に放してあげた。



 ヤモリは一度こちらを見やり、チョロチョロと外へ歩いていく。

 あの子人の言葉が分かるのかな、とユルカは関心しながらも居なくなるまで見送っていた。

寓話的な、そんな話。

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