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7階 ~呪われマンション『ヒアアフター』~  作者: 犬冠 雲映子
ユルカのゆるゆる夜勤勤務
25/32

24話〈半年の捨て子〉

 ユルカは慣れた動作で防犯ブザーが作動するのを停止する。

 何回か閉鎖されたはずの7階から非常ブザーやら電話やら異常な『怪奇現象』が起きる。それを口外しないのがユルカの仕事。7階は今日も元気だ。


 深夜2時も関わらず、ラジオからにべもない会話が流れているのを聴きながら、夜中にしては風が強く、玄関のガラスが音を立てているのを眺めていた。


(ガラス割れないといいけど)


 ぼんやりしていると、6階から電話がかかってきた。

「もしもし?」

「あのー、また例の子が迷い込んでて…」

 住人がやる気のなさそうに言う。

「迎えにきてくれる?」

「はい。分かりました」




 6階に行くと、金髪の子供が佇んでいた。地毛ではなくカラーリングされた、ギャルママの子といったところか。

「それがさぁ、また来ちゃって。お母さんはいないって何回も説明するんだけど」

 細身の男性が脱力した様相でユルカに言う。


「お母さんと俺たちはここに住んでたんだよ!」


「あー、ほら、君。夜中だから…ロビーに行こうか。連絡ありがとうございます。すいません」

「いやいや。こちらこそ毎回すいませんねー」

 住人はそういうとドアを閉めた。見た目は怪しいが真っ当な人で、迷子がやってきてもこうして我慢強くユルカを呼ぶだけである。


「君、いつもどうやってここにくるの?」

 半年に一回、彼はマンションへやってくる。この部屋に。丑三つ時に。

「どうやって、て、歩いてだよ!あんたら母さんと顔見知りだろ?!」

「い、いやぁ…私は会った事ないんだ。そうかあ、じゃあ」


 彼は毎年──半年経つのに同じ服で、成長すらしない。ユルカはこの少年は生きていないのかと疑い、罪悪感を覚えていた。

 きっと母はこの街にいない。


「妹がスーパーで待ってるから、早くお母さんに会いたいんだけど」

 妹もこの世にいない。


「管理人さんに聞いてみようか」

 ユルカはいつも同じ嘘をつく。




 管理人さんは少年に何かを告げる。すると彼は泣きながらマンションを去っていった。この風が強い真夜中に。

 去年の焼き回しを目にして居るみたいで、気味が悪い。しかしきっと来年も少年はやってくる。


「管理人さん。あの子、どうすればいいんでしょうね」


「うーん。どうにもならないな。…仕方ないんだよ…ああいう、悲しい子供はずっと母親を求めてやってくる。()()()()()()()()()()()()

 仕方ないんだ。

 それだけ呟いて、管理室へ戻っていった。


 母親がどうなっているか、など詮索するつもりはない。だが少年と妹が早く楽になれれば良い、と願うばかりであった。

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