22話 〈マンション探索 お開き〉
「これ、なかった事にしましょうよ…」
ユルカは薄気味悪さを感じ、貼り紙を戻そうとした。
「でも見てください。鏡の向こうは真っ暗ですよ!」
「いや、これマジックミラーかもしんないし」
ううむ、と藍田さんが唸る。
「は、廃墟になってるじゃないですか…これがこの世なんです。ここはあの世なんです」
「えーっ」
二人で顔を見あわせ、鏡を眺めた。あの世とこの世など半信半疑である。
「うーん。ボロボロには見えるけど」
鏡面の中では自分たちは映らず、あるのは劣化した絨毯と壁だけであった。暗闇に包まれているのに良く見えるのは現実みがない。
「ソナタさんはこの鏡があって、どうしたい?」
「えっ」
「もしもさぁ。あの世、この世があったとしてこれが繋がる道具ならソナタさんは何かしたいの?」
藍田さんには珍しく真剣な様子で問いただした。
「…わたしは、う、ううっ…」
「まぁまぁ。やはりなかった事にして、これは秘密にしましょう。管理人さんにも黙っておきますから」
追い詰められた彼女を見かねて、ユルカは貼り紙をつけ直した。内心、7階までいかなくて良かったと安心する。
それに変な鏡があったとして、これ以後は触れなければいいのだ。──今までそうしてきたように。
「納得いかない、けど、仕方ないねえ。でもたまに様子は見に行くわ〜」
「いじらないでくださいよ?」
「はいはい。ユルカちゃんは職業病だなー。あ!七不思議が発見されたら付き合ってもらうからね!」
ムッとしていた世捨て人がまた目をキラキラさせる。引きつった笑顔でしか対応できないが、眠気との戦いよりはマシか…と言い聞かせた。
「わたしは…ユルカさんが記憶をとり戻すまで諦めません…それに、この鏡が役に立つ日がくるのは確実…だから、めげません」
(えええ)
しょんぼりしていたソナタさんが決意を新たにする。二人とも困った人たちである。
「はぁ…まあ、別に時間はたくさんありますから…」
夜勤勤務はいきなり終わる事は無い。夜がある限りユルカは働かなくてはならないのだ。
「じゃあ、皆さんおやすみなさい」




