11. 断罪
隣国に招かれたルナミナ。王家で歌うと第一王子に自国の歌をせがまれました。けれどもルナミナは他国の歌を歌えません。
「どうした、早く演奏を始めろ!」
王子から楽団員に指示が飛びます。楽団員は戸惑いますが第一王子の命令です。楽団員は当然有名な曲を知っていますが、ルナミナが戸惑っているのは明らかです。
団長は心の中でルナミナに謝りながらも、指揮棒を振るいました。
ジャン。力強いメロディが響き渡ります。この世界では初めて聞く、パンチのある曲です。ルナミナが困っていると、脳裏に夢の中の神様の姿が現れました。
ルナミナにメロディが降りてきます。少し違う発音の聞きなれないメロディ。けれどもルナミナの口からその曲が流れました。少し巻き舌のドイツ語みたいな曲。ルナミナが歌い続けると、金色の光を振り撒いた小鳥が飛び交います。
(あ、カナリアだ)
ルナミナの回りを飛び交うカナリア。現れては消え、ルナミナを勇気づけます。神様が微笑んでいる姿が浮かびました。
(ありがとう神様。お陰で恥を掻かずに済んだわ)
曲が終わると光りも全て消えました。場内は痛いくらいの静けさで満たされました。
気付けば王様が膝まずいているではありませんか。ずっと椅子に座って演奏を聞いていたはずの、王家の全員が立ち上がっています。
「カナリア姫、我が愚息の無礼をお許し下さい。私達は忘れていた。カナリア姫は王よりも立場が上だと」
それを聞いて全員が膝間付きます。ルナミナは慌てました。
「や、やめてください国王陛下。私は一介の貴族の小娘に過ぎません。歌が上手いだけの」
「神の奇跡を見ました。私達はとんでもない過ちを犯す所だったのです」
振り向けば楽団員も涙を流すものもいます。演出が過ぎた神様だったのです。なんとかその場を立て直して、王様らしくしてもらいます。ちょっと光っただけなのに。
「それで我が息子との婚約は本当でしょうか。それならば喜んでお迎え致します」
「と、とんでもない」
ルナミナは慌てました。ミハエルが経緯を説明します。
「成る程、意に沿わぬ結婚を迫られておるのか。ならば全力で手助けしますぞ。なんなら我が国の貴族を集め、姫に選んで貰ってもいい」
予想外の大事になりそうな事態に、慌ててお断りします。レオナルドの事は嫌いと言う訳では無いですし。ともあれ明日は王城前の広場を解放し、当初の目的である国民に歌を聞かせる予定です。
その後は国に帰り今後のことを、ミハエルと話すみたいです。何故かルナミナの意思とは関係なく、事態が動いて行きます。
午前中に練習をして昼食の後、広場に向かいます。て他国からやって来たカナリア姫を、一目見ようと聴衆は期待しています。やがてその時が来ました。
楽団にあわせて歌うルナミナ。こんなに大勢の人前で歌うなんて、ドームのライブみたいだと嬉しくなります。マイクもなく屋外で精一杯歌うルナミナの声は、遠くまで響きました。
三曲ほど歌って静寂が訪れます。ワアアアアアと歓声が響く。初めて聞くカナリア姫の歌声に、誰もが感動しました。
「カナリア姫、素晴らしい歌声でした」
舞台を降りるとミハエルが出迎えてくれました。なんだか態度が違う気がします。
「いやあ僕は君の歌声が、こんなにも大衆の心を惹き付けると思わなかったよ。君は世界のお宝なんだね」
軽くウインクして見せるミハエル。彼は考えていました。成る程、婚約者に据えてでも手放したくない理由が解ったと。この歌声があれば、王家は国民の信頼を得られるでしょう。
レオナルドは次期国王である兄の補佐をすると公言していましたし。
そうして沢山のお土産を、王様から貰ったルナミナは国に急いで帰りました。長居をしたらレオナルドが心配するかもしれないと。
かなりの強行軍でしたが、レオナルドと約束している日の前には帰りたいと思ったのでした。ミハエルも別の馬車で同行しています。今回は一時的な帰国だったので。
広大な敷地にある我が家の本宅に向かいます。帰宅の知らせとお土産を携えているからです。しかし屋敷の門をくぐり、直ぐに黒塗りの立派な馬車に気が付きます。
その馬車の前には見覚えのある人影が。
気のせいだと思いたい。ですが明らかに静かな冷気をその身に宿した、冷やかな視線を投げる人物が見えます。
「やあ、お帰り婚約者殿。旅行は楽しかったかい?」
レオナルドです。これが絶対零度と呼ばれる王子様でしょうか。ルナミナはこんなレオナルドは初めて見ました。
「わ、レオナルド、様。お出迎えありがとうございます?」
「ほう、婚約者を差し置いて、そこの男と旅行へ行ったのかい」
気が付けばミハエルも馬車から降りて、悪びれもせずにニコニコと笑っていました。
「いやあ、皆のお宝であるカナリア姫をお借りしたよ。全く素晴らしい歌声だったね。ちゃんと国賓として、丁寧に扱ったつもりだよ」
「どういうつもりだミハエル。ルナミナは私の婚約者だ」
「哀れな小鳥を救ってあげたくてね。愛のない結婚は可哀想だろう。一生鳥籠で飼われるなんてね」
「愛のない、結婚?」
レオナルドがルナミナを見つめます。それがまるで捨てられた子犬のようにも見えました。
「僕は姫に自由を与えるよ。小さな姫君を鳥籠から解放するのさ」
ルナミナは焦ります。これは━━━━━ ハーレムルートでは?神様、断罪は無しって言いましたよね。ルナミナは心の奥で叫ぶのでした。




